17 リルリルとカウカウ
ムヒムヒのお面で大笑いした話しをすると、お茶会の席で女王様はたいそう喜んだ。
「コレクタードールハウスを復活させてくれて、しかもそんなに楽しんでいただいて、本当に良かったです」
すると男爵が立ち上がって話しだした。
「妖精がドールハウスに来ると言うだけで小悪魔達の嫌いな純粋な波動が発生し、そこでおいしいものを食べたり飲んだり、楽しんだりするとさらに幸せの波動が生まれます。ストラトス・ゼルキンのドールハウスは白魔術の秘術に従って設計されており、そのような波動を周囲に広く増幅して行く働きがあるのです。ですからドールハウスで笑い声が響けばそれが増幅されて町中を小悪魔が近づけないような空間に変えていけるのです」
マイコは思った。普通は魔法で楽しいと、代わりにどこかで不幸が起きたりするのだが、おいしいものを食べたり飲んだり楽しく遊んだりするだけで町を良くすることができるなんて、なんていいのだろうと!
今日も目の前にはチャムチャムのさわやかな酸味とほのかな甘みのアップルティー、そしてハニハニのメイプルシロップたっぷりのフカフカパンケーキが並んでほか他のいい香りがする。
「こんなおいしいものを食べて街の役に立つなんて、最高!」
するとあの動物コスプレのピコピコが話しかけてきた。今日はかわいいリスのコスプレだ。手にドングリを持っている。
「コレクタードールハウスには、妖精の国で大親友のリルリルとカウカウが行っているはずなんだ、二人とも動物好きのいいやつなんだ。ぜひマイコちゃんとも仲良くなってほしいね」
「うん、私、も動物好きだから、きっと仲良しになるよ」
「うう、ありがとう。じゃあ、今日のグルグルしりとりはリスから始まるよ」
よくもまあ、毎回グルグルしりとりを、しかも珍獣をまぜて作れるとマイコは感心する。
「…リス、スローロリス、スカンク、クズリ」
すごい、またつながった。みんなで拍手。
「では今日も珍獣を混ぜた作品をもう1つ。ドングリをかじるリスのように前歯がでっぱっているやつで行きます」
出っ歯の珍獣ってなんだろう?
「ハダカデバネズミ、ミーアキャット、トキ、キアゲハ」
最近話題のハダカデバネズミと人気のミーアキャット、絶滅から復活したトキも入っている、ちゃんとつながってみんな感心する。
今日のポエポエは初夏の詩を1つ。
「坂道を登りきれば、遠い山々青く、カッコウ鳴く」
ハイキングで汗を流して歩いた時の詩。
次は夏祭りを取材して詩を書くと言っていた。
女王の金言は、スペードの男にちなんだものだった。
フムフムが新しい本を取り出した。
「アレキサンドル・サイモン著、天才詐欺師の告白より、金言をさがしてみました」
驚いた。なんと本当の詐欺師の本からの金言だ。
「うまい話は犯罪の入り口」
さらにもう1つ。
「本当にうまい話があったなら、誰が他人に教えるものか」
女王は、こんな解説をした。
「相手に教えるうまい話など、ありえないということですね。本当はだますためのもの、もしくは肝心な儲け話をかくしたものと考えるべきでしょう。そのスペードの男が何を言ってきても、けっして家に入れないことです。もし300万で売れると言っても信じてはいけないし、その男はその何倍もこっそり儲けるつもりに違いありません」
女王の厳しい説明を聞いて、マイコもさらに決意を新たにしたのだった。そしてお茶会はひきしまって終わり、また次の水曜日がやってくる。
「ごめん、マイコ。ミリアさんに気を使わないでと言われたんだけど、おいしそうなんでつい買ってきちゃった」
その日もマイコは、またほか他のお土産を手に、秋島バラ園に出かけて行った。
「ええ、これ、松本屋の焼き団子じゃない、まだあったかいし、もう、お土産は今日で終わりにしてってママに言ってね」
そう言いながら、ミリアも大好きなようだ。ここの焼き団子は甘みが一切なく、秘伝のしょうゆ誰だけで焦げ目をつけて焼き上げる逸品だ。
お父さんや従業員の人は奥で仕事していてあと2、3分してから来ると言う。
「待ってると冷めちゃうから、さっさと食べようね。はい、じゃあ、今日は特別にほうじ茶を出すからね」
今日は大輪のオレンジのバラが一輪生けてあった。もうここは、物置という感じではない、特別な離れの部屋だ。
「うわあ、醤油のいい香り、モチもち感もたまらないわ」
「ほうじ茶ともよく合います!」
おいしい醤油味のせんべいをモチモチにした感じだ。なんと二人は箱に入っていた12串の焼き団子のうち6串を平らげてしまった。
「あ、つい食べ過ぎたわ、お父さん、みんなごめん。でも本数は足りそうね」
ミリアは遅れてやって来たみんなに残りの入った箱をそっと渡した。
そしてドールハウスのセッティングをする。今日はコレクションボックスが一度に2つ光り、妖精も二人いっぺんに登場だ。本当に仲がいいらしい。
あの純和風の部屋には、ホタルの羽を持つおしとやかな着物姿のリルリルが、あの水槽のある派手な部屋にはサファリルックの、セミの羽を持つカウカウが現れた。
「リルリルでございます。私の鳴き声コレクションはいかがでしょう」
「カウカウでーす。僕の魔法生物、かわいいよ」
2つのボックスを同時に開く。一つには小さな竹かごがいくつも入っている。もう1
つのボックスには小さなドアや扉のようなものがたくさん入っていた。
二人ともあの動物コスプレのピコピコに言われて、なかよくやってきたのだと言う。
「鳴き声のコレクション?魔法動物?」
いったいなんだろう?マイコはまたワクワクしてきた。木の人形を取り出して、またドールハウスへとミリアと一緒に小さくなって歩きだす。
「では、まず私のコレクションボックスから御覧に入れましょう」
リルリルがそう言うと、沢山の竹かごがコレクションボックスから一斉に飛び出し宙に浮く。いくつかは和室の軒下にぶら下がり、いくつかは板の間に置かれ、いくつかは部屋の奥の蚊帳の周りにふわりと降りた。
「チリリーン、チリーン…」
あれ、いつの間にか、風鈴も軒下に下がり、涼しげな音を立てている。そして着物姿のリルリルが板の間の1つの竹かごにそっと手を添えると、竹かごが静かに鳴きだした。
「りーン、リーン」
「あ、スズムシだわ」
マイコが竹かごを見ると、鳴き声がする間だけ、スズムシの姿が浮かび上がるように見える。
「どう、いい音色でしょ?今度はこっち」
「…コロコロコロ、コロコロコロ」
「うふ、エンマコオロギね」
マツムシ、キリギリス、カネタタキニ、クツワムシ、本当は秋にならないと聞けないはずの虫達の声が次々に竹かごから聞こえてくる。
蚊帳の周りに置かれた竹かごからは、今度はべつの蟲の声が…。
「カナカナカナカナ…」
「あ、ヒグラシ、セミだわ」
「ホウシ、ツクツクツクツク、ホウシ、ツクツクツクツク」
「ミーン、ミーン、ミーン…」
他にも、カジカガエルや、アマガエルなどのカエルの声も何種類もある。
「じゃあ、とっておきのを聞かせるわ」
そして軒下の竹かごに近づく。
「ホーホケキョ、ケキョケキョケキョケキョ」
「わあ、すごい、ウグイスまで鳴いてるわ」
「私は魔法の虫取り網で、聞こえてきた虫や鳥なんかの声だけをつかまえて竹かごに入れておけるのよ。楽しいでしょ」
ヒヨドリにヒバリ、ツグミにカッコウ、どれもいい音色だ。この和室で聴くと、さらにいい風情だ。餌をやらなくても聞きたいときだけ聞きたい鳴き声が聞けて姿を見ることもできる。音だけなのにとても贅沢だ。
「あら…?」
なぜだろう、どこからか風が吹き、風鈴が鳴り、蚊帳が揺れたように思えた。心がしっとりと落ち着いてすがすがしい気分になった。
そして今度は、アニマル柄のソファやクッションが派手なカウカウの部屋に行く。
「僕の魔法動物ルームへようこそ!」
探検隊みたいなサファリルックのカウカウがそう言うと、コレクションボックスから、小さな扉やドアが部屋の中に飛んできた。
「ピコピコさんの友達だって聞いてたんだけど、何か楽しそうな雰囲気がそっくりですね」
マイコがそう言うとカウカウはたいそう喜んでこう答えた。
「うんうん、リルリルはあんな感じで静かでおしとやかなんだけど、僕達が会うといつももりあがっちゃってさ、ハハハハハ!」
その時、部屋の奥からワンワンと子犬の鳴き声が聞こえたかと思うと、小さなドアが開いて、不思議な姿をした犬がかけてきて、カウカウに飛びついた。
「こらこらドド、お客さんだぞ、おとなしくしてておくれ」
マイコもミリアも目を丸くした。その子犬の頭にはドラゴンの頭が帽子のようにかぶさり、その背中にはいかつい鱗と小さな翼があり、尻尾もまるで竜のよう、でも体の下半分は普通の白いテリアだった。
「…この犬、ドラゴンにコスプレしているの?」
するとカウカウは、その犬をなでながら言った。
「魔法使いのウオレスがね、とても臆病な犬に自信をつけようと、ドラゴンの魔法をかけて、見た目を強そうにしたんだ。こいつも少しは強くなったけどあんまりかわいいんで、無理を言って譲り受けてね、体を小さくして妖精の国で飼うことにしたのさ。
そしてこの犬専用のドアをコレクションボックスに入れ、好きな時に妖精の国から呼び出すのだと言う。
「名前はドドっていうの?」
「ああ、ドラゴンドッグを略してドドだよ。いざとなればドラゴンみたいにちょっとだけ飛べるし、一瞬だけだけれど炎をはくこともできる。でもいつもは気の弱い、甘えんぼだよ」
話を聞いていて、だんだんわかってきた。ピコピコは動物になりきるのが好きなのだが、カウカウは動物を沢山飼っているらしいのだ。
「グリットちゃーん、おいで!」
カウカウがそう叫ぶと、今度は違う扉が開いて、不思議な猫がふわりと出てきた。
「猫が、そ、空を飛んでる?!」
今度は頭に鷲の頭を付けていて、足はライオンのよう、そして立派な鳥の翼で空中を自在に飛ぶのだ。
「魔法使いのウオレスから譲り受けたもう1匹がこのグリフォンキャットのグリットさ、高いところが好きで時々落ちそうになるのを心配して、ウオレスがグリフォンの魔法をかけたんだ。今も精霊の森の高い木のてっぺんや岩山の頂上なんかによく昇っているよ」
しかもどういう魔法か、グリットは、羽を広げるだけでふわりと浮かびあがれる。音もなく、空中をすべるように進むのだ。グリットがカウカウのそばに寄ってくると、ドドも竜のしっぽをふって喜んでいるように見える、仲がいいようだ。
カウカウにアニマル柄のソファにすすめられて腰を下ろすと、マイコとミリアのところにもドドとグリットが近づいてくる。
「ドドちゃん、おいでおいで」
ドラゴンの頭は今、目を閉じていて眠っているようだ。炎をはくなんて言われてちょっと怖い気もするが、そばにきてマイコの手をペロペロなめているのがかわいい。
「グリットちゃん、あ、すごいすごい、お上手ね」
ミリアが手を伸ばすと空中をふわりと浮いて、グリットが手の先にとまるのだ。鷹匠になった気分だ。それからニャオーンとひざで甘える。
「私たちもちっちゃいのに、よく考えるともっともっとちっちゃいのね、かーわいい」
マイコがそう言うと、カウカウがいたずらっぽく笑った。
「大きいのもいるよ、ちょっとだけ呼んでみるかい?」
「ええ?見たい気もするけど、怖いような気もする」
「はは、平気さ、おとなしいからね」
するとカウカウは、コレクションボックスから、魔法のロープを呼びだした。そして呪文を唱えてそれをさっきまで串団子を食べていたテーブルの上に投げた。ロープはテーブルの上でつながってまるい輪になったかと思うと、円の内側が光り出した。ちっちゃくなったマイコにはすごく大きく見えたが、人間の大きさで言うと50センチくらいの輪だろうか。
「ポプート、おいで」
すると輪が光り、その中からなにかがせり上がるように出てくる。
「え、え、え?おっきい!コブ?角?5本ある??」
なんだか最初は分からなかった。テーブルから何か大きなものがニョキニョキ生えてきたように見えた。でも5本の角に続き、長いまつげや横に出っ張った瞳、耳が見えてきて
そして長―い首がどんどんとせり上がってくる。
「えっ、今度はハート?次から次にハートが飛び出してくる?何だこりゃ」
それは実物大のキリンの頭、せり上がってくる長が―い首だった。だが普通キリンと言えば網目模様なのだが、このキリンは長い首にピンクのハートがいくつもつながって、はずむようなハート模様になっているではないか。
「ポップンハート、愛称ポプートは、ハート模様のしゃべるキリンなんだ」
そしてそのうち、上にせり上がったキリンの頭は物置の天井を突き破りそうになる。
「はいポプート、ストップ。みなさんに挨拶をして!」
すると摩天楼のようにそびえるキリンが、マイコ達を見て、あの大きな瞳でウインクして見せた。
「マイコちゃん、ミリアさん、はじめまして、ポップンハート、ポプートと申します」
「瞳がかわいい!ハートもとっても楽しい!」
「ほんと、とってもチャーミングだわ」
「ありがとうございます。ではごきげんよう」
そしてポップンハートは、また円い輪の中に沈むようにゆっくりと消えていった。魔法のロープで、あの輪の部分だけ精霊の森とつながっていて、カウカウの呪文で首だけこちらの世界に付きだして見せたのだと言う。とにかく、突然テーブルからデカイ顔と長い首が生えてきて、驚いた。やがて、テーブルの輪はもとのロープに戻ってコレクションボックスに帰っていった。なかなかの迫力だった。
「じゃあ、今度は水槽の中の魔法生物を紹介しよう」
部屋の中の大きな水槽、実はここも妖精の国の水辺とつながっているのだと言う。
「おおーい、ラッセン、ポポーン」
カウカウがそう叫ぶと、なんと水の中から2匹の生き物がジャバッと飛び出し、体が大きくなりながら水槽の外にいるカウカウの右側と左側で跳びはねだした。
「えっ、タコ?フグ?」
「ハハハ、この2匹は精霊界に住んでいる魔法生物で、どちらも体が濡れている間は水の外にいられるんだ。こっちのバネダコはラッセン、こっちのバウンドフグはポポーンって言うんだ。精霊界では、よくこいつらをつれて、水辺を散歩するんだ」
タコらしき魔法生物は円い頭に大きな目とかわいらしいクチバシがついていて、その下にまっすぐに伸びている8本の足がばねになっている。そして、そのばねの足を伸び縮みさせて、ビヨンビヨンと跳ねるのだ。精霊の国ではそうやって跳ねて、獲物に飛びついたり、木に登ったりするのだと言う。
フグの方だが、水を吸って丸くなったフグのお腹の下にはヒレの変化した靴のようなものがついていて、そこで地面を蹴りながら、ポンポーンとボールのように跳ねる。このバウンドフグは、水の中で敵に襲われると、空気を吸って水面をはねて逃げたり、今のように地上を跳ねて逃げ回る事も出来る。
「試しに一緒に歩いて見るかい?」
マイコが進み出ると、タコのラッセンがビヨヨンと跳ねて横に並んだ。そしてマイコが1歩2歩と歩くと、ちゃんと跳びはねながら付いてくる。部屋の隅まで歩いたので方向転換をするとビヨヨンと飛び上がり、こんどは壁に吸盤でくっつき、そのまま天上まで歩いて、今度は天上にくっつきながら、逆さになって歩きだす。
「た、楽しい!」
ミリアはと見れば、自動的にバスケットボールがバウンドしながらついてくる感じだ。跳ねるたびにお腹が縦長になったりつぶれたようになったり、伸び縮みしてとてもユーモラスだ。
やがて2匹は体が乾かないうちに水槽に帰って行った。
カウカウはまだまだ沢山の動物を飼っているそうで、また来てくれとにっこり笑った。
「ワニペリカンテナガヤシガニのペリーニちゃんや、ハナナガイカコウモリのエレバット君も今度連れてくるからね!」
マイコとミリアはリルリルとカウカウにお礼を言って、コレクタードールハウスをあとにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます