3 謎の鍵

「じゃあ、隣町のショッピングセンターに行ってくるわ。何かあったら連絡してね」

「ハーイ、いってらっしゃい!」

 ママは夕方の買い物に出かけて行った。静かになった家の中で、マイコはワクワクしながら子供部屋に入って行った。ブラシとチリトリであちこちを掃除し、花を整え、早速キャビネットの奥に整頓されていたミニチュアの家具を取り出し並べてみることにする。最初はあの真っ赤なカーペットの上からだ。

「わあ、すごい」

 カーペットの上に1階の大きなテーブルを引っ張り出してセットする。後ろには暖炉やピアノも見える。

 テーブルは10人がけでとてもしっかりできていて、テーブルクロスを敷いたり燭台も置くことができる。椅子の背もたれにも木彫りの飾りがあり、なんとも豪華だ。

 見れば見るほどそのミニチュアはちゃちなつくりではなく精巧で重量感もあり、本物の用に思えてくる。次にマイコが興味を持ったのは2階の家具だった。明るい花模様の壁紙、柱時計は3時を示していた。大きな食器戸棚にはシンプルなお皿や、花模様のカップなど、お茶会に使うティーセットが並んでいた。小さいけれど本物そっくりで、陶器や磁器でできているようだ。そしてピッカピカの銀のスプーンやナイフ、フォーク、ついため息がもれてしまう見事さだ。

「この戸棚は何かしら?」

 食器棚の隣には小さな引き出しの沢山付いたおしゃれな家具がある。引き出しには外国語の名札がついている。1つ引っ張ってみると、すぐに分かった。

「わあ、いい香り、紅茶の戸棚だわ。でもこれ全部紅茶なの?何種類あるのかしら?」

 さらに隣には大きな本棚があり、さすがに本を読むことはできないが、1冊1冊取り出すこともできる。

「あれ、このドールハウスって18世紀に造られたはずよね、これって冷蔵庫…?そんな昔からあったのかしら?」

 ふと気がつくとグレーの扉の大きな冷蔵庫のような家具が並んでいる。さっきまで無かったような…?ドアを引いて見ると、なぜか開かなかった。

「ま、いいか…」

 あまり気にしない性格のマイコは、さらに2階の家具を並べてみた。とってもシンプルでかわいい4人がけのテーブルセット、ティーポットや砂糖壺ののったワゴンは、小さな車輪がついていて押すとちゃんと動く。

だが、その時、マイコは別のところでひっかかった。

「あれ……?金の鍵がもう1つある」

 1の鍵でテーブルを引き出し、2の鍵で1回を、3の鍵で2階を開けた。でも番号のついていない金の鍵が鍵束にもう1つ残っていた。どういうことなのだろう…?

「ええっと…」

 マイコはもしかしたら鍵束の隠し扉と同じ仕掛けがないかなと、キャビネットをあちこち触ってみた。

「…まさか…あった」

 2階のさらに上の板がずれて、そこに鍵穴が現れた。番号のついていない最後の鍵を入れて回すと、カチット音がした。

「わあ」

 2階の上の板が右と左に大きく開いた。東側に開いた扉の内側には太陽の絵が、西側の扉の内側には月の絵が描いてあり、その扉の奥には屋根と屋根裏部屋が現れた。

「もう1部屋あったんだ…!」

さらに驚いたことに、屋根裏部屋には家具の他に何か大きなものがいくつかは入っている。何だろうと手に取り、考えてみる。

「このねじれているの、階段かなあ」

屋根を斜めに持ち上げると中が良く見える。2階と屋根裏部屋の間にカチットはまる。小さな螺旋階段だ。やった正解だ。

「あ、わかったこっちの筒はきっと…」

筒のようなものを手にするとひらめいた。マイコは背伸びして屋根の上に開いた穴に筒を差し込むとピタッとはまった。立派な煙突だ。さらに梯子も見つけて煙突に取りつけるとおこれも気持ちよくはまった。これで1階から屋根の上まで行けるようになった。梯子を使えば煙突掃除だってできる。屋根裏部屋にも小さな家具がある。マイコは今度はそれを並べてみた。

「へぇー、ここでもお茶が飲めるのね」

小さなワゴンにはポットやミルク、砂糖壺などがあり、二人がけの小さなテーブルセットも見つけ、さっそく置いてみる。さらにゼラニウムの鉢とブリキのジョウロもあったので窓辺に並べて水もやってみる。そして最後に見つけた小さな板は、どうやら鏡だった。  

覗いて見ると自分の瞳が映っていた。マイコはそれを屋根裏部屋の壁にかけてもう一度覗いてみた。さすがに身だしなみを整えるには小さすぎるが、曇りの無いきれいな鏡だった。これで隠し部屋も調べ終わった。マイコは一休みして子供部屋の自分の椅子に座り、改めて家具を配置したティールームドールハウスを眺めてみた。

お婆様は本当に凄いものをくれたものだ。これはどんなことをしてでも大事にして行こうとマイコは見上げながら、心に堅く誓った。

「あれ?今何か動いたような。何かしら?」

2階の食器戸棚や紅茶の棚の前を何か小さなものが歩いているように見えた。もちろん虫だとかネズミだとか、そんなものではない…。人間のように2本の足で歩いていたように見えた。でも、もう、何も見えない。椅子に座ったまま寝てしまって夢でも見ていたのだろうか…。その可能性は低くない。まあいい。家具が配置できたところで、早速人形で遊んでみよう。下の引き出しには素朴な男の子や女の子の木の人形が10体入っている。マイコはそこから女の子の人形を取り出して、ためしに1階の大テーブルに座らせてみる。手足も曲がり、腰も折れるので上手に腰掛けられる。ちょうどいい大きさだ。

「わあ、本当の家にいるみたい!」

だがその時、マイコはまたいつの間にか眠くなってきた。そして少しした時、気がつくとなぜか本当に眠りについてしまったのだった。

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