24 夏休みのはじまり

 そしていよいよ夏休みが始まった。塾に行く人、スポーツクラブに行く人、旅行に行く人、色々いるがいつも冷房の利いた部屋でごろりとしていたマイコも今日は違っていた。なんと朝6時に起きて学校のそばの河原に集合、暑くなる前に今日は水生植物の採集だ。

 今日は水に入らず、岸辺の草や、水面に浮いている植物などを採るだけだ。ユカリが植物のデータを検索し、トンボ池にふさわしい種類を下調べしておいてくれた。

「そうそう、それがクサヨシ、とても丈夫な草で池でもよく育つと思うの。いくつか 株を掘り上げて持っていきましょう」

 クサヨシと言うのはイネ科の丈夫な草で、背も高くなりすぎず小学校にはちょうどいいようだ。あと浮草や藻の仲間を手網でかき寄せ、すくい取り、何種類か集めて、なんとか終了。学校に着くと松重先生がやって来て裏の小屋の鍵を開けてくれた。

「もうちょっとすると用務主事のおじさんが来てくれるけど、涼しいうちに作業を始めるよ」

みんなスポーツ飲料やお菓子を入れたリュックやスコップ、工具箱、角材や切ったベニヤ板などをリヤカーに乗せ、田んぼの隅へと向かった。

「よし、打ち合わせ通り能率よく進めよう」

ユウトは設計図の通りにここが池、掘った土はここに置く、ここが取水口、ここが排水口と、棒きれで地面に書き込んで行く。ユカリは池の前に立てる立て看板を角材と切ったベニヤ板で造り始める。マイコは、松重先生に頼んで、造ってきた立て看板にはるポスターのコピーをしてもらいに行く。

設計図を書き終わったユウトは、すぐにスコップを取り出して地面を彫り始める。

ユカリは立て看板を作り終わると、さっそく地面に穴を掘り、さらに地面にくいをしっかり打ち込む。そこにまたどたどたとマイコが走り込んで看板にはる紙を持ってくる。

「みんな、これでいいかな?」

マイコのポスターには次のような言葉が書いてあった。

東小トンボ池:生き物のいるビオトープ。

水辺の自然を大切にしよう。

学校にトンボを呼ぼう!

水辺の生き物をかわいがってね。

そして、植物の茂る水辺と池、小魚やトンボのたのしいイラストが描いてあった。マイコの力作だ。

これが何枚かカラーコピーされ、学校のあちこちの掲示コーナーに貼られる計画だ。

「みんな朝早くからがんばるねえ。暑くなる前に終わらせよう」

「はい」

松重先生も来てくれて、いよいよ本格的に池の工事開始だ。

「ええっと、こっちから掘り始めるよ。掘った土はこっちにおいてね。あとで池の周りを固めるのに使うから」

こういう段取りはユウトに任せておけば間違いない。それでも池を掘るのは思った通りの重労働で松重先生も手伝ってくれたが、すぐにはできそうもない。池がやっと半分ぐらいまで掘り進んだ頃には、太陽がかなり高く昇ってすごい暑さになってきた。

「みんな、一度水分補給休みだ」

松重先生の言葉に、みんなそれぞれに冷たいスポーツ飲料なんかを飲んでいると、そこに、大きなスコップを持った救世主が現れた。用務無主事の野村さんだ。

「けっこう子どもたちでがんばったね。ちょっと設計図を見せてくれる?」

野村さんは設計図を見ると、ユウトに色々聞いて作業を始めた。大きなスコップと野村さんの怪力はやはり大したもので、急に能率アップしていった。

そしてだいたい出来上がると、ユカリが水辺の植物のクサヨシを取り出して、水路と野境側にマイコと協力して1列に植えて行った。そして一番大事な、池に水を引く水路と、排水路の工事だ。ユウトの設計では、斜めに大きな板を配置して水量を調節するようになっていたが、この取りつけが決行難しい。最終調整は先生と野村さんも見てくれてやっと完成だ。

「よし、池に水を流すぞ」

ちょろちょろと水が流れ出し、水路から池にたまって行く。

「お、お、いいぞ、予定通りだ」

水路から池に水が入るあたりには、緩やかな流れがあるので、川から持ってきた石を並べて、平瀬を再現した。

「やったー、池らしくなってきたよ」

ちょっとうなだれていたクサヨシもみるみる元気になってきた。

ユウトは土手を固める最終仕上げ、ユカリは水に浮く水生植物や水中で揺れるもの仲間を入れた。マイコは立て看板に例のポスターを入れて雨よけのビニールをかぶせた。

「ようし、完成だ」

ユウトと先生達が、スコップや工具箱をリヤカーで片付けてくれることになり、マイコとユカリは、コピーしたポスターを貼りに行って終了だ。

「やったね、私達のトンボ池、なかなかいいよ」

誇らしげなユカリは、児童会室前の掲示板にポスターを貼っていた。

「なに、ゆかりさん、池はできたの?」

まさかのユリコだった。児童会室の前だ、場所がわるかった。

「今、先生と野村さんと一緒に工事が終わりました。土曜日に魚を入れて、観察をはじめます」

「あらそう、何も事故が起きないといいけどね、事故がね…」

ユリコ達児童会のメンバーは、笑いながら去って行った。同じころマイコは校庭の掲示板にポスターを貼っていた。もうサッカーや野球など、地元のスポーツクラブの子ども達が、大きなバッグを提げて集まりだしていた。

「なんだよ、居眠りマイコがこんな朝から登校かよ」

振り向くとあの口うるさいマサルだ。しーっ、あっち行けとマイコは心でつぶやいた。

「なになに、ああ、例のトンボ池ね。チームサエナイスが、がんばってるねえ。へへ、あとで見に行ってやるよ」

マイコはまた心の中で…来なくていいのに…、とつぶやいた。

貼り終わったマイコは、もう一度トンボ池に向かって行った。もうユウトが来ていて、土手をさらに固めていた。

「これでよし、ちょっとやそっとじゃ崩れないぞ」

そして田んぼ側からトンボ池をじっとながめていた。マイコもユウトの隣に並んで池をながめた。

「うん、クサヨシもまっすぐ立ってる。いい池じゃない」

ユカリもやって来て一緒にながめた。何かすごく誇らしげな気分だった。

「あれっ?マイコちゃん、あそこ、ほら」

ユカリが教えてくれた。気がつくと近くの生け垣の葉の上に、見覚えのある小さな影があった。

「チャムチャム、きてくれたのね」

「昨日、池を造るんだって楽しそうだったから、来てみたのよ。すごいじゃない、いい池ができたわね」

「ありがとう」

やがてチャムチャムは風の中に消えて行った。

「じゃあ、明日からの前期プールに来て、帰りに観察しよう」

「オッケー!」

みんなやる気満々だ。そしてみんなは疲れも忘れて帰って行ったのだった。

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