7 ゴールデンウィーク
そしてやって来たゴールデンウィークの前半、マイコはママとパパと一緒に空港に出かけていた。お婆様が、おじさんの待つヨーロッパに旅立つのだ。2週間ほど、プラハやウィーン、シュツットガルトなどゆっくり好きな土地をまわり、それからおじさんのいるスコットランドの湖水地方へ行くそうだ。みんなで空港のレストランで楽しく食事をして、それからロビーまで歩いて行った。
お婆様はパパとママにお買い物に行かせて、その間マイコにこっそり話しかけた。
「で、どうなのマイコ、ドールハウスで誰かに会ったの?」
マイコはチャムチャムと仲良くなったこと、女王様が仲間を呼んで、お茶会を開いたこと、こんど妖精の扉の向こうに行くことを楽しそうに話した。お婆様は自分のことのようにそれはそれは喜んでその話を聞いた。
そしてちょっと言い出しにくそうにこう言いだした。
「実はあなたのママもとてもいい人なんだけれど、お嫁に来た時に、うちに呼んであのドールハウスを見せたことがあるの。でも、ママにはどうしても妖精は見えなかった。大人になってから大事な家具だと思って接する人や、もともと妖精など信じない現実的な人には見えないらしいの。マイコは見えて、しかももう妖精の国に行くことになったなんて良かったわ。これで私も安心して旅立つことができる。向こうの妖精にも会えるかもしれないから、とても楽しみなの」
楽しく話しているうちに、旅客機のフライトの時間が近付いてきた。最後にお婆様は思いがけないことを言った。
「もし、妖精の国に行ったら、守護天使様にも会えるかもね」
「えっ、守護天使様?」
「あら、もう時間ね。じゃあ、体に気をつけてね。…あなたに妖精の幸運が訪れますように」
そう言うとお婆様はマイコをギュッと抱きしめてくれた。そしてパパとママと一緒にお婆様を送ってお別れした。
ゴールデンウィークの前半はパパもしばらく家にいて家族で森林公園に行ったり、美術展を見に行ったりして楽しく過ごした。パパは連休明けには大学の研究室でコスタリカのジャングルに行くとかで、しばらく会えなくなるのだと言う。自然公園の帰りにパパが言った。
「連休中はパパのおごりだよ。何でも好きなものを言いなさい」
「うふふ、実は前から食べたいと思っていたものがあってね…」
マイコの目が輝いた。それからみんなでおしゃれなカフェに出かけて、苺、チェリー、桃、ブルーベリー、オレンジ、マンゴー、パインの7種類のフルーツが味わえるレインボーフルーツパフェを食べた。美術展の帰りには、好きなお菓子やフルーツで食べられるチョコレートフォンデュにも挑戦した。すんごくおいしかった。
そして土曜日の夕方、パパとママは、近くのバラ園のカフェに出かけた。マイコも誘われたが、友達の家に行く約束があるからと断った。もちろん人間界ではない世界の友達だけれど…。
そして連休の真っただ中の土曜日、またドールハウスには沢山の妖精達が集まった。
「それでは、今日のお茶会を始めます」
女王様がニコニコ笑うと、チャムチャムとハニハニがみんなの前に出てきた。
「今日のお菓子は、マンゴーたっぷり、マンゴープリンです」
「今日の紅茶は、さわやかなレモンティーです」
完熟マンゴーを使った甘くて濃厚なプリンの上に、酸味のあるアップルマンゴーがいくつも乗っている。なるほど、マンゴーたっぷりプリンだ。後味さわやかなレモンティーもよく合う。
「うひょー、よく冷えてるわ。冷蔵庫があってよかった。紅茶も最高!」
マイコは今日もニコニコだ。
今日、1番手にしゃべり始めたのは、あの動物大好きピコピコだ。
「ピコピコでーす。今日の動物コスプレは何の動物でしょう」
ふかふかの毛皮に包まれた愛らしい顔、あれ、右手にも左手にも何か持ってるぞ…。
「はい、はい!」
マイコが元気よく手を上げた。
「はい、マイコさん」
「石とホタテ貝を持っているから、…ラッコでーす」
「正解!ではやってみます」
ピコピコはうれしそうにそう言うと、ホタテ貝をつけたお腹を上に向けて羽でパタパタと浮きあがった。そして空中で体を水平にすると、石でホタテ貝をコンコンと叩いて見せた。またみんなやんやの喝采。そして好例のグルグルしりとりだ。
「ではラッコから行きます」
ピコピコは床に降りてくると女王様に合図して始めた。
「…ラッコ、コンドル、ルリコンゴウインコ、コアラ」
うまくつながったのでまた拍手。するとピコピコは、さらにもう1つ披露した。珍獣ばかりのグルグルしりとりだ。
「バビルサ、サイ、イリオモテヤマネコ、コビトカバ」
バビルサとはキバガ上あごを破って伸び続け、やがておでこの方まで伸びてくると言うイノシシに似た珍獣だと言う。マイコは良くわからなかったが、バビルサという名前がカッコイイと思った。イリオモテヤマネコは有名だし、コビトカバは世界3大珍獣の1つだと言う。難しい珍獣でもちゃんとつながった。ピコピコは大きな拍手をもらって照れながら座った。
次は詩人のポエポエだ。あのカゲロウのような繊細な羽を震わせながらそっとノートを広げる。
「もう、春も進んで、通り過ぎていきます。では行きます」
ポエポエは深呼吸して一気に読んだ。
「散りゆく花を見上げれば、枝にも心にも芽吹きのちから」
桜の花吹雪に吹かれて読んだ詩だという。新緑の風、淡い緑と深い緑が幾重にも重なる1本道。新緑の山道にそよ風が吹いた時の詩だという。
そのときマイコには、桜吹雪や芽吹く緑が見えたような気がした。ポエポエも拍手を受けてほっとして席についた。
「では、女王の金言に参ります。フムフムさんお願い」
すると本好きの妖精フムフムが立ち上がった。
「今日も、前回に引き続き、ストラトス・ゼルキンの弟子への手紙からふたつばかり紹介します。今日の金言は特に女王様のお気に入られているものです」
するとマシュマロン女王も大きくうなずいた。
「もともとゼルキンは短気で、弟子が思い通りに動かないとすぐに叱っていたそうなのですが、それではダメだと弟子がうまく動かない時のことを考えて作った言葉です。では1つめ。ものが分からない者は叱るより、教えて諭すべきであり、ものが分かる者は叱るより褒めて伸ばすべきである」
するとすかさず女王様が言った。
「つまり、どちらにしても、叱らない方が良いと言う事なのです。さらにゼルキンはこのようにまとめています」
するとフムフムが、メガネをちょっと押し上げて続けた。
「教えてなければできない、褒めなければやる気が起きない、待たなければ自分から動かない、信じなければ自信がつかない。以上です」
女王がすぐに解説した。
「思い通りに動いてくれない弟子に怒りたくなった時、ゼルキンはこの言葉を思い出し、胸に手を当ててもう一度考えたそうです。自分はこの者にちゃんと教えただろうか、褒めただろうか、できるまで待っただろうか、そして信じてやっただろうかと。自分の側に問題がなかったかもう一度考えたそうです。そして根気よく教えて行った結果、何人もの優秀な弟子が育っていったそうです。私も、理不尽に怒ったりすることなく、いつも相手のことを思ってみんなと接したいものです」
全体で拍手が起こった。フムフムも女王様も大きくうなずいて終わった。
そしてたのしいおしゃべりのあと、ついに次の展開が待っていたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます