6 願い星2つ

「次はピコピコね」

 女王様の言葉に、動物のコスプレをした妖精が立ち上がった。動物の顔のついた帽子や動物を思わせるデザインや色の洋服を着ている。背中では白い小さな羽根がパタパタしている。今日は何の動物だろう?鼻が中途半端に長いおどけた動物で、体は白と黒のツートンカラーだ。

「今日の動物コスプレは、バクでーす」

 なんでもものすごい動物マニアで、しかも珍獣が特に好きだという。どういう魔法か、バクの目もくりくり動き、鼻も生きているように伸び縮みする。みんなやんやの喝さいだ。

「では僕の考えた動物グルグルしりとりを一つ。バクから始めて4つめにまたバクにつながります」

 そういうとピコピコは大きく息を吸ってグルグルしりとりを発表した。

「バク、クロサイ、イルカ、カバ、ほらバで終わったでしょ、またバクにつながります」

 本当だ、これは面白いとみんな大拍手だ。気を良くしたピコピコは女王様に行った。

「ぐるぐるしりとり、もうひとつだけいいですか」

「よろしい、もう1つだけ言いなさい」

「寒いところの珍しい動物の中に、熱帯の生き物を入れてグルグルさせました。行きます。トナカイ、イッカク、クリオネ、ネプチューンオオカブト」

「おお、つながった、すごいぞ」

みんなの拍手の中、ピコピコはにこにこして椅子に着いた。

「じゃあ、次は男爵ね」

クロアゲハのような羽を持つおしゃれでダンディーな妖精が立ち上がった。非常に物知りで、虫眼鏡のような魔法のレンズを使って色々なことができると言う。

「それではまず昔の地図を御覧入れよう」

そして手に持っていた魔法のレンズをかざした。

「魔法のレンズ、プロジェクターモード!」

「おおー」

すると魔法のレンズからさっと光が出て、昔の世界地図が空中に現れた。

「イギリスで有名なお茶会ですが、実はもとはと言えば、15世紀の日本、長崎の平戸で始まったのです。日本人がお茶を立てているのを見て、その文化にオランダ人は驚き、その文化を持ち帰ったヨーロッパで空前のお茶ブームとなりました。当時は緑茶も紅茶もどちらも飲まれていたそうです」

空中に現れた世界地図の日本やオランダが光って見えた。そして次に光ったのがイギリスと中国、そしてインドだった。

「やがてお茶の原産地、中国からお茶の苗木を持ち出したイギリス人が植民地だったインドのあちこちでお茶を栽培するようになりました」

それでインドでお茶が多いのかとマイコは感心した。

「そしてその当時、イギリスで産業革命が起きたのです。大量の農民や移民が労働者となり、食べ物や飲み物も変わっていきました。イギリスの郷土料理は廃れ、気楽に誰でも食べられるフィッシュ&チップス等が生まれました。飲み物も最初はビールが好まれていたのですが、労働者が酔っ払ってしまうと言う事で紅茶が飲まれるようになり、広まっていきました。そしてそれに合うケーキやプディングなどのお菓子が色々工夫され、お茶会文化が根付いていきました。ですからこのティールームドールハウスが、お茶会の誕生の地、日本にあるという事は非常に意義深いものなのです」

そう言って男爵は、魔法のレンズを降ろした。すると世界地図は、銀色の光の粒となり、まばゆく光りながら消えて行った。かっこいいとマイコは思った。すると女王様の合図で次の妖精が立ち上がった。

「私はポエポエ、詩人です。魔法の鏡で、人間の温かい心の波を感じて詩にかきとめております。では春ですので、春の詩を詠ませていただきます」

カゲロウのような繊細な透き通った羽、野の花のような素朴なドレスを着た小さな妖精がノートを取り出して最近の作品を読み始めた。するとみんなおしゃべりをやめて水を打ったように静かになった。

とっても短い自由律詩という形なので、聞き逃すまいと集中したのだ。

「しみいる春雨に、土の匂いたつ林」

これは乾いた寒い冬が過ぎ、おだやかな雨が降った日に読んだ詩。

「満員電車降りれば春一番心地よく」

これは満員電車からうっすら汗をかいて降りた日の詩。

「春の嵐、ウグイスに雨戸開ければ朝の光」

夜中から春の嵐が吹き荒れた夜明けに書いた詩。

読み終わるとポエポエは、かわいそうなくらいに緊張で震えて言った。

「…あのう、いかがでしょうか?」

静かに、やがて力強く拍手が起こった。ポエポエはノートを抱え、ほっとして席についた。

「おほん、では女王の金言集を始めます」

女王が改まってそう言うと、最後のメガネをかけたかしこそうな妖精が立ち上がった。読書好きの妖精フムフムが、金言が好きな女王のために色々な本を読んで役に立つ金言を探してくるのだという。

「今日はマイコさんが初めて来ると言うので、女王様から、ストラトス・ゼルキンの言葉から探すように提案がありました。彼には魔法の本や錬金術の本などがいくつかあるのですが、本業は根っからの頑固職人で、家具やドールハウスなどを作っていました。その時に弟子に送った手紙の中から金言を見つけました」

「すばらしい、よく見つけてくれました。ではお願いします」

フムフムがさっと手を出すと、パッと分厚い本が現れ、ページが魔法でパラパラとめくれて行く。

「ストラトス・ゼルキン、弟子への手紙より…読みます」

金言ってなんだろう、マイコは興味深げに聞いていた。

「投げない、切れない、けなさない」

え、金言ってこんなに短いの?マイコはその言葉をもう一度繰り返してみた。

「投げない、切れない、けなさない」

これを守っていれば、事態は悪くならない…、もともと短期だったゼルキンが、自分にいつも言い聞かせていた言葉だという。女王が大きくうなずいた。

「たとえ相手が悪いにしても、切れたり投げたりすればこじれてしまってもっと大変になります。また、相手をけなせば恨まれてしまう事さえあります。何事も前向きに取組むのなら、この3つの言葉を守りましょう」

「なるほど…」

するとフムフムはもう一つの金言を紹介した。

「やりっぱなし、出しっぱなし、突っ込みっぱなしは人生を無駄にする」

物を失くすことが多く、いつも探し物をしていた弟子に、ゼルキンが送った言葉だと言う。女王がまた言った。

「物を失くして探しまわるのは本当に無駄です。だったら最初から失くさなければよいのです。この3つのぱなしに気をつけてそのつどきちんと片付ければ失くすことも探すこともずっと減る事でしょう」

ふむ、言われてみればもっともだ。本当に役に立つ言葉なんだ。

そして女王はこのフムフムの金言に感心し、小さな願いがかなうと言う「願い星」を2つ授けると微笑んだ。

ピコピコにも、ポエポエにも願い星2つだと言っていた。

「ねえ、チャムチャム、願い星って何なの?」

「たくさん貯めれば、大きな魔法が使えるようになる魔法の宝石のことなの。光り方がもっと強くなると、銀の願い星、金の願い星をもらえることもある。とても大きな魔法が使えるわ。でもそれは、人の役に立つことにしか使えない魔法だけれどね。うふふ、実はあの魔法の冷蔵庫も私が願い星を貯めて魔法で出したのよ」

「そうなんだ。やっぱりおいしいものが出てくる魔法が1番よね。うふふ」

するとあの1番最初に紹介されたおしゃれな妖精ウフルンがマイコに話しかけた。

「あら、マイコさん、私の持っている魔法のクローゼットや魔法のアクセサリー箱もとっても便利よ」

「ええ?!そんなものもあるの?」

「ええ、ぜひ見せたいわ。良かったら、次の土曜日に私の部屋に遊びに来ない?」

「それは行ってみたいけど、ウフルンさんのお部屋ってどこにあるの?」

「決まってるでしょ、妖精の国よ!」

え、そんなところに行けるのだろうか?

「女王様、マイコさんを連れてっちゃダメですか?」

するとマシュマロン女王は、もったいすけてしばらく考えてから言った。

「…そうですね…うむ、妖精の扉をくぐって、虹の廊下を通って、直接ウフルンの部屋に行くなら…いいでしょう。マイコさんなら心配なさそうね。では来週のお茶会が終わってから行きましょう。そうねマイコさんはママに、1時間ぐらいお友達の家に行くと言っておいてね、ま、人間の世界ではないけれどそこは内緒でね…、いいですね」

ええ?来週は人間の世界ではないところに?!すごい展開になってしまった。その時、ドールハウスの2階の柱時計がボーン、ボーンと鳴りだした。時間だ。みんなはおいしい紅茶やお菓子、おしゃべりに大満足して帰って行ったのだった。

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