5 女王様の空中紅茶

 次の土曜日、午前中の科学センターでは、入門編として前半はスライム作り、後半はグループ研究の第1回目が行われた。

 スライム作りはホウ砂や液体の利を混ぜるだけの簡単なものだが、中央小学校の理科室のどこにどんな実験器具があるのかを確かめたり、自分の学校の仲間と協力したり、実験条件を変えて工夫したりする目的があるのだという。

 スライムで実験条件を変えるというのは、水の量を変えて硬さを変えたり、色を変えたり、混ぜるものを変えたりするというものだ。マイコ達が和気あいあいでスライム作りを成功させた。やがて理科室にカーテンを引かれて暗くなる。マイコは透明ブルーのスライムに、キラキラ粉末を入れて蝋燭の灯でまばゆく光らせて見た。ユカリは蛍光グリーンのスライムをブラックライトで光らせ、ユウトは夜光塗料で暗闇で光るスライムを作っていた。

 後半はグループでの顕微鏡観察の準備だ。色々なものを顕微鏡で観察して、ミニ発表会もやるそうだ。髪の毛・羽毛コース、花粉コース、田んぼの土コースを選ぶことになっていた。

「どのコースにする?僕は正直言って、どれも興味あるから、どれでもいいよ」

 ユウトの言葉にマイコとユカリは考え込んだ。良い点と悪い点をきちんとチェックするユカリ、よくわからないのでどれでもいいかなと思ってしまうマイコ。しばらくしてユカリが決定した。

「田んぼの土に水を入れると、なにか微生物が発生するんでしょ。なにがでてくるかわからない方が面白いんじゃない?」

 マイコ達の班が選んだのは田んぼの土コースだった。とってきた田んぼの土に水を入れて、ラップをしてしばらくおいて顕微鏡で見るのだ。うまくいけば田んぼの土の中に眠っている微生物達が水を得て出てくると言うのだ。

マイコ達は、中央小の校庭の隅にある小さな田んぼに行き、そこから表面の土を少しだけ採った。今は乾いてぱさぱさの土だった。これに少し水を加え、いくつかのビーカに入れてラップして、日向においてゴールデンウィーク明けに顕微鏡で観察するのだという。 ユカリは先生の許可を得てスマホを取り出すと、田んぼやビーカの写真など撮りまくった。マイコの思いつきで池の水を入れてみようと言う事になり、みんなでワイワイ言いながら用意をした。早速中を覗いて見ると泥とわらくずやゴミのようなものが浮いていて、生き物が見えるようには思えない。ユカリはこれもスマホで撮りまくり、鳥小屋や花壇に行った方がよかったかなあ…。などと心配しながらしばらく中を見ているうちに時間が来た。

家に帰ると、マイコは子供部屋に飛び込んだ。すぐに鍵を取り出し、掃除をして花を飾り、手際良く真っ赤なカーペットを広げ、10人がけのテーブルをセットし、女の子の人形を置いた。するとすぐに眠気が襲ってくる。そしてあっという間に、すやすやと眠ってしまったのだった。

「マイコさん、マイコさん…」

眠っているマイコを誰かが呼んでいた。あの聞き上手のチャムチャムではない。もっと、えらそうな声だ。

「マイコさん、チャムチャムの言う通り、本当によく眠る子ね…」

マイコは10人がけのテーブルではっと目を覚ました。テーブルのお誕生席には、色白でまん丸な女の人が座っていた。上品で派手なピンクのドレスを着て、頭にはティアラ、首には大きなルビーのネックレスが輝いていた。

紅茶ポットを載せた車輪のついたワゴンを押しながらチャムチャムが歩いてきた。

「5人いる妖精の女王様の一人、マシュマロン様です。お茶会の大好きな女王様で、今日も沢山の仲間を呼んでくれたのです」

「はじめまして、ふわふわの女王、マシュマロンです。今日はティーパーティーにようこそ。サワさんのお孫さんなら、紅茶とお菓子はきっと好きね」

「こちらこそはじめまして、マイコです。ええ、紅茶と甘いものは大大大好きです」

「あらそう、よかったわ。本当に大大大好きみたいね。ウフフフフ…」

そう言うと女王様は鈴をころがすように上品に笑い、そして笑うほどにふわふわしたまるい体がますます丸くふくらんだ。そして、そのままふわふわと浮かび上がり、空中に昇り始めた。

「女王様、女王様?!」

チャムチャムが心配して呼びかけた。

「あら、失礼、私、うれしいと体がふわふわ浮いてきちゃって」

女王様はそう言って体をしぼませて、静かに椅子に降りてきた。

「さてさて、お茶会を始めましょう。チャムチャムさんチャイムを使ってください」

「はい」

するとチャムチャムの手元にハンドベルのようなかわいいベルがぱっと現れた。妖精を呼びだすことのできるチャムチャムチャイムだという。

チャムチャムチャイムがかわいく鳴りだすと、部屋の奥の暖炉のあたりが光、妖精達が現れ、10人がけの椅子が次々と埋まって行った。

まずはかわいいコーディネートでバッチリ決めたすらりと可憐な女の子の妖精だ。光の粒子をまき散らすハイヒールや空中に浮くポーチ、動くたびに可憐な鈴の音を立てるアクセサリーまでばっちり決め、背中には透き通ったトンボのような翼がきらめいている。

「ウフルンさん、今日のお天気はいかが?」

女王の呼びかけに、その妖精はさっと立ち上がると右手をあげた。するとそこにかわいらしい日傘がポンット現れた。魔法だ。

「散歩大好きな妖精ウフルンです。ちなみに今日の天気は晴れのち薄曇り、昼までは紫外線が強くなるから私はかわいい日傘を使います」

とにかく天気予報にものすごく詳しいらしい。ファッションやおしゃれに関係した魔法が得意だそうだ。

次は、銀色の光沢のある翼が生えたエプロンの妖精が立ち上がった。大きな瞳が印象的で、細いけれどパワフルな妖精だ。

「お菓子作り命の妖精ハニハニです。傑作ができるとチャムチャムの冷蔵庫に、よくお菓子を入れてまーす。今日はふわふわのパンケーキでフレンチトーストを作ってみました」

「パンケーキのフレンチトースト?!まだ食べたことがないわ」

マイコは興味深々だ。

「さあ、紅茶と一緒に召し上がれ!」

ハニハニがそう言ってエプロンを2回たたくと、みんなの前に、まず真珠のような光沢の白いお皿とフォークが現れ、次にそれはそれはおいしそうな、プリンにも似たプヨンプヨンのパンケーキが現れた。するとすかさず女王様がチャムチャムの紅茶ポットに向かって魔法の粉を振りかけた。

「チャムチャム、空中紅茶をお願い」

「はい、今日の紅茶は甘いものに良く合うダージリンでございます」

するとチャムチャムが、その場で空中にポットの紅茶を注いで見せた。

「あれ、空中に紅茶が消えていく…、と思ったら、わあ、すごい」

マイコは感心した。空中に消えたポットの紅茶は、いくつにも分かれ、全員のティーカップを同時に満たして行った。この魔法でちょうど飲みごろのお茶が、同時にみんなに行きわたるのだ。

「さあ、みなさん、紅茶とお菓子を楽しみながらお話しましょう」

パンケーキフレンチトーストは、ふわふわのパンケーキに卵液が良く染みて、プルンプルンに固まっている。とろける甘さを、ダージリンのほろ苦さで香り高く流し込む。うっとりするおいしさだ。チャムチャムも席についてにこにこしながら食べ始めたのだった。

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