8 天空の滝

 すると意外な組み合わせで、あのおしゃれなウフルンとダンディーな男爵が立ち上がった。

「ええ、実は今日、お茶会の後、マイコさんが、私のお部屋に遊びに来ることになりました。今日は晴れ時々薄曇りのおだやかな天気で、申し分ありません。どうやって行くのか男爵に説明してもらおうと思います。男爵、よろしくね」

 するとあの男爵がすらりと前へ出た。

「ウフルンの部屋は妖精の国のお花畑の中にあります。私達が、このドールハウスの奥にある妖精の扉を抜けて、世界の狭間を通って行かなければなりません。人間界を抜け、冥界や霊界、天界などと境界を接する精霊界を通るのです」

 そこで男爵が虫眼鏡をさっと振ると、空中に美しい虹が現れた。

「そこでマイコさんが、まちがいなく妖精の国へと行けるように使うのが虹の橋です」

 なんでも精霊界には天空の滝と呼ばれる不思議な滝があり、そこで天気さえ悪くなければ、滝のしぶきの中に1年中大きな虹ができているのだと言う。

「妖精の魔法の力によって、虹の中に秘密の通路を作ってあるのです。その通路を通って、精霊界の妖精の国へとご案内いたします。虹の魔法が消えないように、勝手な行動をとらないようよろしくお願いいたします」

「はい」

 マイコは気持ちのいい返事で返した。

 やがて楽しいお茶会も終わり、マイコはウフルンとともに1階の暖炉の前へと歩いてきた。もちろん今は炎も何も燃えていない。ウフルンはひらひらしたかわいい色鮮やかなコーディネートで暖炉の前に立つと、不思議な言葉を唱え始めた。

「…大いなる精霊の森から湧きいでし清らかな泉よ、幾百幾千のせせらぎよ、天空の滝にかかる虹の橋へとわれらを導きたまえ。時空の門番よ、今こそ神秘の精霊の扉を開きたまえ…!」

その瞬間暖炉が輝いたかと思うと、

「行くわよ」

ウフルンがマイコの手を引き暖炉の中へと進んで行った。

「えええっ、どうなってるの?、ただの暖炉じゃなかったの?」

ウフルンの体がふわっと浮き、マイコの体もふわっと浮いたと思ったら、光の中へ飛び込んで行った。

次の瞬間、滝の音、鳥の声、7色の光をあっという間にくぐりぬけ、気がつくとウフルンとマイコは輝く壁輝く天井の廊下のようなところにいた。

「虹の橋を渡るわ、手をしっかり握っていてね」

ウフルンとマイコの体はふわっと浮いたまま滑るようにゆるやかな上り坂の廊下を進んで行った。

「ほら、天空の滝が見えるわよ」

長い廊下の左側に大きな窓が1つだけあって、一瞬だけ外が見えた。画面の奥に果てしなく続く精霊の森、そのすぐ手前に空中に浮いたような大きな岩があり、森から湧きだす水を1つに集めて滝になる。

「すごい、思っていたよりずっと大きい」

もしかするとそれは今のマイコが小さくなっているからか、大きさも何もわからないすごい迫力だ。そして滝壺に落ちた水は青くうねり、その岸辺にはシダや柳が揺れ、さらにその右手奥には、まばゆいお花畑も広がっている。なぜだろう、ほんの数秒のうちにいくつもの風景がはっきりと見えてくる。空は青く、でも高い空はほの暗く、透き通るようなオーロラが揺れて、さらにその上にはいくつもの青い星が輝いている。しかもその星を見上げていた時。

「…マイコさん、ごきげんよう…」

そんな呼び声さえ聞こえてくる…。

「もしかして守護天使様…」

そのすべてが1つの窓を通り過ぎる瞬間に見えたこと、聞こえたことだった。さらにウフルンとマイコはゆるやかな下り坂をすべるように進み、気がつくと虹の橋を飛び出し、鮮やかな花が咲き誇る、でも一つ一つの花が傘のように大きいお花畑へと飛び出したのだった。

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