29 秘密の天文台

 ミリアも、キラピカが15年も眠りに着いたままだったことに、ちょっと責任を感じていたようで、とても話を聞きたがっていた。

「さあ、お花も飾ったし、お掃除もしたし、今日は誰から出て来てくれるのかしら…」

 すると、なんとコレクタードールハウスのあちこちが輝き、たくさんの妖精が一度に現れた。おでこに犬の面をつけているやつ、竹かごを持ったのもいるし、頭に空飛ぶ猫を載せてるやつもいる。チポチポ、ムヒムヒ、リルリル、カウカウ、フォニー、サチサチの6人の妖精が全部姿を現した。なんとみんなも、親しかったキラピカのいなくなったわけを詳しく知らず、しかも地下室にも入れなくなり、とても心配していたのだと言う、今日はコレクタードールハウスでキラピカに久しぶりに会えそうだと、みんなで妖精の国からやってきたのだった。

 コレクションボックスが光ったので開けてみると、中からは不思議な望遠鏡が出てきた。

「あれ、望遠鏡の大きなレンズの入っているところに、水晶のような宝石が入っているわ?!」

ミリアが不思議そうにその望遠鏡を眺めていた。すると階段を昇る音が聞こえ、星を眺めるのが大好きな夢見る妖精、キラピカがゆっくりと姿を現した。

着ているのは羊飼いのような素朴な服だ。背中にはナナホシテントウの羽が付いている。

「みんな、長い間、心配をかけたね」

「キラピカー!!」

一番仲が良かったムヒムヒが飛びついて抱き合った。みんなも周りに集まって感激の声をかけた。

そしてマイコとミリアも人形を使ってちっちゃくなると、早速キラピカや他の妖精たちと一緒に、屋上へと昇って行った。

「長く眠りについていた僕の天文台よ、今こそ目を覚まし、再び星のきらめきを見せておくれ」

すると、屋上の天文台の閉ざされていたドアが開き、さらにドームが真ん中から割れて、あの宝石をはめ込んだ望遠鏡が飛んできてその真ん中におさまった。

「では皆さん、僕の天文台にようこそ、さあ中へ」

みんなで入ると、やはり何かの魔法がかかっているようで、部屋の広さは外から見た時の10倍以上に感じられる。壁のあちこちには星の伝説や、星座の図絵から惑星や星雲の写真まで、あらゆる星の記録が飾られている。それを説明する時のキラピカの顔は本当に生き生きしていた。キラピカはおとなしく礼儀正しく、どちらかというと地味な妖精である。ムヒムヒのような強烈な個性も、フォニーの華やかさも、カウカウの人なつっこさもないが、星を見ようとする時の情熱と集中力がずば抜けていて、好きな星を見るときは本当にいい顔をした。

「僕は、昔は山の上で星を見ていたんだけど、頑張って星をみんなに紹介して、願い星を集め続けたんだ。そして銀の願い星で天文台を建て、金の願い星でこの魔法の望遠鏡を手に入れた。でも、それから事件が起きてしまった…」

そして、15年前の事件の真相がついに語られたのだ。

「この魔法の望遠鏡には大きく2つの魔法がある。1つはあの魔法の宝石の中に、星の写真を記録しておけるんだ。だからあの夜に見たあの星をもう一度見たいと言えばいつでも見せてくれる。そしてもう1つは、願い星を1つ使うごとに、普通では見ることのできない遠い世界の夜空まで映してくれる。もちろん、この部屋からヒマラヤの高い山の上から見た夜空や南半球の夜空、精霊回の夜空まで見ることができるんだ。でも…」

そこでキラピカの口が急に重くなった。6人の妖精たちも心配してキラピカを励ますように見つめた。

「でもある日、精霊界の夜空を覗いていたら、悪魔の騎馬隊が夜空を飛んでいるところを偶然映してしまったんだ。もちろんそれは記録されていた。あとで大変なものを映してしまったと気づいた僕は、その記録を精霊界を統べる妖精王に知らせたんだ。それで悪魔達の不穏な行動は暴かれ、妖精王の力によって事件を未然に防ぐことができた。でも悪魔達が誰が妖精王に知らせたのかを調べ始めた。僕はもう少しで命が危ないところだった。しかもその少し前からこのドールハウスの持ち主、ミリアのお母さんのマリアさんはガンを宣告されて自分もそれどころではなかった。そこでマリアさんは、守護天使のミカエル様にお祈りして助けを求め、僕は仲間の妖精達の力やミカエル様の強力な魔法で眠りに着いたんだ」

そうだったのか。ということは願い星をためてこの望遠鏡を使えば、悪魔達の陰の動きは筒抜けになってしまう。悪魔達が狙うわけだ。

「この望遠鏡を壊すとか、悪魔に引き渡すとかも考えた。もちろんどうしようもなくなったらそれも考えている。でも、僕は星の色々な世界を見たいだけ、悪魔達をのぞきたいなんてこれっぽっちも考えていないんだ」

するとムヒムヒがキラピカの手を握りながら言った。

「そうだよ、妖精王に報告して事件を未然に防いだキラピカが、なぜひどいめ目に逢わされなきゃならないんだ。キラピカは星を見たいだけの純粋な奴なんだ」

「そうだ、そうだ」

「私は、キラピカの味方よ!」

みんながキラピカを応援した。なんとかキラピカを守りたいのだ。だが15年たった今も、悪魔は執拗に追いかけてくる。マイコもキラピカを応援する気持ちは同じだった。

「わかりました。これから家に帰って男爵に伝え、みんなで取り組みたいと思います」

「ありがとう。よろしくお願いします」

マイコはみんなに送られ、秋島邸バラ園をあとにしたのだった。

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