11 チームサエナイス

 その日のお茶会は、いつにも増して楽しかった。マイコは女王様の許可を得て、初めて長時間スピーチをした。まずはこのあいだ初めて妖精の国に行った時の感動とお礼を言った。そして、科学センターで工夫して実験観察をした様子を聞いてもらい、最後に最優秀賞を取ったことを話し、お茶会も一段と盛り上がった。

 だがゴールデンウィークも終わり、学校ではいろんな事件が起きていたのだった。まずは、春の学年スポーツ大会だ。今年の種目は男女混合のサッカー大会だ。各クラス A・Bの2チームを出して、3チームずつの予選リーグ、決勝トーナメントを勝ち抜く。

 マイコの1組Bは予選リーグで敗退、ユカリの2組Bは背の高いユカリのヘディングも飛び出したが、おしくも決勝トーナメント1回戦で敗れる。

 だが運動音痴のユウトの3組Bは、まさかの決勝戦まで勝ち進んだのであった。もちろんユウトが活躍するはずもない。サッカーチームに入っている男子がいたこともあるし、なんと女子サッカーチームのエリート星野キララがいたのである。キララはサバサバ系の短髪突撃ガールで、そのドリブルからの弾丸シュートは男子にも恐れられている。敵チームにも容赦ないが、味方チームにもとても厳しく、球技が全く駄目なユウト入っも怒鳴られていた。

「こら、ユウト、マークに着くのよ、走って、走って!」

気の優しいユウトは文句も言わずにがんばるのだが、なかなかうまくいかない。

「ああ、ドンクサイ!」

キララがこの言葉を連発するので、1日でユウトのあだ名はドンクサイからドンクとついてしまった。

そして決勝戦、1対1のまま終盤にもつれ込み、校庭では子供達の応援で盛り上がっていた。この時キララは、攻撃の中心で最前線に飛び出し、ユウトはどうでもいい守りの位置でつっ立っていた。ところが、今まで攻められていた敵が突然攻め上がって来た。キララが叫んだ。

「カウンター攻撃よ。みんな戻って!」

ボールがポーンとはねて、こちらのゴールのそばまで飛んでくる。キララがまた叫んだ。

「ドンク、蹴って、こっちに蹴り返すのよ!」

ドンクと呼ばれても文句も言わず、ユウトはすかさず蹴り返した。

「エイッ!」

「ああーあ?!」

ところが、悲鳴に似た声が起きた。ユウトがけったボールは、もちろんまっすぐには飛ばず、ボテボテとななめに飛ぶと、なんと走って来た敵の選手の前へところがった。

「やった、いただき!」

敵には絶好球だった。見事なシュートが決まり、ゴールネットが揺れた。

「ドンク、なにやってんのよ、ドンク!」

3組Bは敗れ去った。それからしばらく、キララはユウトに口さえ聞いてくれなかった。そしてユウトのドンクというあだ名は学年全体に知れ渡ったのだった。

それから児童会の選挙もあった。科学センターの3人組は、ほとんど関係がなかったが、意外な出来事があった。3人で科学センターの打ち合わせをしていた休み時間、立候補した人達が選挙運動に回って来たのだった。

「君島ユリコ、君島ユリコをお願いします」

児童会選挙の大本命、背が高く、成績優秀、テニスやバスケが得意で、とっても美人と評判のユリコ達が廊下を歩いてやってきたのだ。サッカークラブの男子達を捕まえてあいそ笑いとビラ渡し、3人の前にやって来たのだ。

「君島ユリコをお願い…」

ところがちょっとユリコの態度がつんけんしている。

「君島さん、がんばってください」

ユウトが話しかけるとなぜか無視。ユカリには視線も向けない。ただマイコにはやさしく手を振ってアピールした。どういう事なのだろうか?

回転の速いユカリにはうすうす分かっていた。実はユウトは優しいところがいいのか意外に人望があり、本人は立候補しなかったが、児童会に推薦されていたらしいのだ。つまり児童会選挙で強力なライバルになっていたかもしれないのだ。そしてほぼ完ぺきなユリコだったが、算数の成績だけはどうも理数系のユカリにかなわず、さらに決定的なのは、背の高さで少しだけユカリに負けていたのだ。そしてマイコにだけ優しかったのはすべての面において格下だと思っていたからに違いなかった。そして次の月曜日の朝、次の出来事が起こる。

みんなが朝礼台の前に集まった時、副校長先生が言った。

「はい、今日は月1回の児童会、今年の第1回です。児童会の当選した人達が集合してください。あと科学センターに行っている3人も朝礼台の方に集まってください」

マイコがぼんやりしていると親切なマミちゃんとカヨちゃんがおしえてくれた。あわてて前に出るマイコ。ユカリとユウトも首をかしげながら出ていく。するといつも居眠りマイコをからかうマサルが声をかけた。

「居眠りマイコにのっぽにドンクか、おまえたち何か悪いことしたの?」

マサルは小柄でクラスの笑いをとる調子者だ。じつに巧みに相手の弱点や失敗を指摘して笑いをとる。マイコもユカリもいつもいやな思いをしている側だった。

朝礼台の横には、当選した児童達が並び、その真ん中に背の高いユリコがいた。マイコ達を見つけると、ちょっと見下したように微笑んだ。

「おかげさまで児童会の会長に当選しました」

格下のマイコはもちろん、人気のあるユウトにも背の高いユカリにもどこか勝ち誇ったようにふるまっていた。やがてユリコたち児童会の新メンバーは、朝礼台の上で紹介され、みんなに拍手を受けていた。ところが今度は校長先生が朝礼台に登り、意外な展開が始まった…。

「実は科学センター長でもある中央小の大沢校長先生から、記念品が届きました」

マイコ達が、聞いていないと顔を見合わせた。

「わが校の科学センターの3人が、この間の発表会で最優秀賞をとりました。市内の全部の学校の中で1番良い発表をしたということです。おめでとう」

そして校長先生はサイエンスと書かれたおしゃれなファイルを3人に渡した。

「君達が一人一人得意なことをがんばったいいチームだと大沢先生がおっしゃっていたよ。これからもチームサイエンスとしてがんばってね」

拍手が起こった。市内で1番、しかもおしゃれなファイルが賞品、みんなの羨望の視線が集まった。でも自分より目立ってしまった3人にユリコは露骨にいやな顔をした。マサルはまた絶妙なタイミングで掛け声をかけてきた。

「この3人じゃ、チームサイエンスじゃなくてチームサエナイスだな!」

まわりで笑い声が起きた。でもマイコは、はずかしがることもなく、まったく意に介さずに、にこにこして戻って行った。

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