10 土の中の水中の生物

 さてゴールデンウィークも終わり、学校が始まり、そして土曜日にまた科学センターも始まった。今日は以前に用意した顕微鏡の観察の本番、そして学校ごとのミニ発表だ。

「では、今日は大学からミニコーナーが出ます。それぞれの学校で必要に応じて参加してください」

 提携している市内の大学の研究員のお兄さんやお姉さんが白衣を着て入って来た。中央小学校の大きな理科室の後ろに高倍率の大型の顕微鏡コーナー、ここでは鮮明な拡大画像の写真も撮影できる。そしてもう一つ最新のデジタル顕微鏡コーナー、ここではリアルに動く微生物の動画も100インチの大画面で見たり、撮影したりができる。そしてすぐ近くのパソコン室に、プレゼンテーション用のソフトが動いていてこれを使っても発表できるのだ。そして白衣のお兄さんお姉さんが、手とり足とり教えてくれる。

「…最新のデジタル顕微鏡か、僕、前から興味あったんだよ」

「プレゼンテーションソフトね、私、得意だからちょっと覗いてこようかしら…」

 ユウトとゆかりがそんな話をしていた時、いつの間にかいなくなっていたマイコが突然両手にビーカを持ってやってきた。

「ちょっと、すごい、何か動いている?!ほらほらたくさんいるよ」

それはゴールデンウィークの前に田んぼから取って来た土を入れたビーカだった。水を入れ、ラップをして日向においていた間に、確かに微生物が発生したのだ。

すると中央小の指導員の先生が声をかけてきた。

「ははは、毎年田んぼの土を使った研究をやってるけど、何か今年の東小のビーカは特に微生物が多いような気がするね」

するとマイコがにんまり笑った。

「うふふ、ほら、水を入れる時、校庭の池の水を入れたじゃない、きっとそれがよかったのね」

「へえ、マイコちゃんのひらめきが大当たりだ、すごいね!」

ユウトとゆかりが目を丸くした。マイコはたしかに甘いモノ好きのうっかり屋さんだが、はずかしがらずにどこでも眠るし、こんな風にたまにひらめいてしまうのだ。

やがて観察時間、羽毛や花粉、微生物などのそれぞれのプレパラートの作り方や上手にできるコツなどの学習をしてから動き始める。

「へえ、水中の微生物は一度ロ氏で水をへらしてから、スポイトでとってホールスライドグラスにいれるとみやすいんだ」

マイコはもう微生物に集中して黙々と作業を始めた。たくさんの微生物が動いているのをみんなで確認すると、さっそくユウトはデジタル顕微鏡コーナーへ、ゆかりもパソコン室のプレゼンテーションソフトへと動き出した。マイコは微生物の水をロ紙で減らしてプレパラート作りに一直線。

「あれ、何かすごいのが入ってる?!」

すぐに先生をつかまえて顕微鏡で確認する。

「ふむふむ、この沢山動いているのが、タマミジンコ、ケンミジンコもいるようだね。他にも植物性プランクトンやゾウリムシとかもいるようだ。ここに微生物図鑑があるから調べてみなさい」

「あと先生、ここにちょっと大きめのものが…」

「ほう、これはホウネンエビだ。珍しいものを見つけたね。これはもうふたまわり大きく育って、顕微鏡でなくてもよく見えるようになるよ」

まさかエビの子どもがわいてでてくるなんて…、マイコは波打つように動くホウネンエビのしなやかな遊泳脚をながめて、ワクワクしてきた。

「マイコちゃん、何かすごいもの見つけたんだって?!」

少ししてユウトが帰って来たが、マイコの発見を見て、さっそく動きだした。あの研究員のお兄さんお姉さん達に声をかけた。

「すいません、さっそくこの微生物を撮影できるんでしょうか」

「もちろんよ、やってみる?」

「お願いします」

さっそく撮影の仕方を教わると、マイコと顕微鏡を操作し、やってきたユカリとともに発表画面を工夫し始める。ここでマイコとユカリはユウトの不思議な才能を知ることになる。何かいつも楽しそうで聞き上手、みんなの意見をうまくまとめて、次はあれやろう、次はこれをやればと段取りを立てて能率よく動けるのだ。ユウトと一緒に実験していると、何かこちらも楽しくなり、いつの間にか能率よく動いている自分に気付くのだ。

そしていよいよ時間が来てみんなすぐ近くのパソコン室に移った。

「それでは、学校ごとの発表を始めます」

司会の先生の声にあのセンター長の大沢先生が出てきた。大沢先生は実験観察中も発表の用意の時もニコニコしながら各班をまわっていた。やさしく声をかけてくれたりアドバイスしてくれたりしていた。その大沢先生や指導の先生、大学のお兄さんやお姉さん達もみな顔をそろえた前で発表が始まった。鶏の体や行動の観察から、風切り羽や羽毛の違いをきちんとまとめた班、高精度の拡大写真で美しい羽毛の様子を写した班、校庭のあちこちの花と花粉の拡大映像をまとめた班など、どこの学校も力作ぞろいだ。

「では次、東小の土の中の水中の生き物、お願いします」

さてユカリのお得意のプレゼンテーションソフトの画面数がかなりの数だ。校庭、田んぼ、田んぼの土、水をとった池、土と池の水を入れたビーカなどが、パラパラとテンポよく映って行く、そして今日、そこに沢山の微生物が動いている驚きが伝わってくる。

「おおっ!」

なんとゾウリムシやワムシなどの拡大写真に加え、ユーモラスに泳ぐタマミジンコや脚を滑らかに動かすホウネンエビの動画が、100インチの大画面に映ったのだ。

最後に一人一人の楽しそうな感想が出て発表は終わった。

すべて終わると、先生方が話し合い、優秀な学校が表彰された。

「…最後に最優秀賞、東小学校、土の中の水中の生物です」

「ええっ?!」

思ってもみなかった。あの大沢先生が出てきて話し始めた。

東小は田んぼに行き、土を取り、池の水を入れ、最初はゴミぐらいしかなかったのが沢山の微生物が動きだしたところまで、実に順序良く細かく写真をとってあり、実験の経過がとてもよくわかりました。さらに、一人一人が自分の得意なことに打ち込み、短い時間の中で仕事を分担しながら楽しそうに実験を進めたのが良かった、実験の様子がよくわかる中身の濃い発表でした」

そんなことを言ってくれた。大沢先生は一人一人の動きまでよく見ていてくれたのだ。

拍手が起こり、3人は誇らしい気持ちで帰途に着いた。東小学校のそばの噴水公園でバスを降りると、マイコが二人を待たせてすぐ近くにある自分の家にかけ出して行った。

「まま、お友達が二人いるの。スナ袋ある?」

「あるわよ。冷蔵庫から1lのペットボトル入れておくからね」

ユウトとユカリが待っていると、またどたどたとマイコがかけてきた。

「最優秀賞のお祝いしよう」

噴水公園の涼しい日陰のベンチに、マイコがスナ袋という名前のリュックサックを出してきた。

「なんなのスナ袋って?」

すると砂袋からは、チョコレートからポテチ、おシャブリコンブから果汁グミ、キノコの山、ポッキーまで色々なお菓子が出てくる。ジュースと紙コップ、大きなゴミ袋までセットになっている。そう、スナ袋とはお菓子好きのマイコがいつも持ち歩くスナック入りのリュックサックだったのだ。

「最優秀賞に乾杯!」

3人は紙コップで乾杯、お菓子を食べてお祝いした。みんな笑顔で、得意げだった。この3人が色々な事件や、妖精と小悪魔の戦いに巻き込まれるとはまだ、誰もしらない。

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