39 宝島の激戦
その日、ちょっとだけ涼しくなった太陽の下、マイコ達3人は学校の校庭で待ち合わせて、すっかり水草や浮草が増えて、池らしくなったトンボ池へ行くと、すぐに観察を終え、駅前へ向かった。今日はマイコのポーチからチャムチャムが覗いているだけじゃなく、ユウトのリュックから男爵が、ユカリのバッグからウフルンが姿を見せていた。
「やあ、いらっしゃい。もういつでも対戦できるよ」
休館日のオモチャ博物館は人影もなかったが、今日はもう掃除も住んでいてピッカっピカ、植草館長のやる気が伝わってくる。
奥さんと娘のミサさんももう来ていて、今日もスペシャルなおやつを用意しているからと声をかけてくれる。
「館長、今日もよろしくお願いします」
ユウトが男爵と練り上げた、今日の対戦の詳細のプリントが配られる。ポイントになるのは、対戦者の他に認められた応援参加者だ。スゴロクなどは、多人数でやるのが普通だし、ボードゲームでは協力プレイもできる。難しい全軍将棋では持ち場を分担したり、相談相手にもなる。もちろん、応援参加者が勝っても、対戦の結果には関係ない。あくまで、どちらの対戦相手が勝つかということなのだ。
第1試合、キャプテンダイスの宝島スゴロク。対戦者ユウト、応援参加者ユカリ。
第二試合、ハワード教授の博物館の怪物ボードゲーム。対戦者マイコ、応援参加者ユウト。
第三試合、ルビーレッド女王とブルーダイア将軍の全軍将棋。対戦者ユカリ、応援参加者マイコ。
もちろん、相手チームのことはまだ分からない…。
3人は少し緊張し、博物館のテーブルを一つ借りて時間を待った。やがて、1番先にやってきたのは、児童会長のユリコだった。
「ごきげんよう、みなさん。あら、やけに早くから来ていたみたいね」
高身長のすらりとした体に、高価なブランド物をバシッと決めて、一つのすきもなく、自信にあふれてやってきた。肩にはあのブロンドの小悪魔、ミランダが乗っている。その威圧的とも取れるファッションに激しく反応したのは、ウフルンであった。
「まだ5年生なのに、あんな大人びたブランドの服を来て、こっちを見下してくるなんて、絶対おかしい、間違ってるわ、私は断固戦う!!」
なぜかファッションから火が付いてしまった。
そしてすぐに、いつものジャージ姿で小柄なマサルがやってくる。
「チワーっす!本当だ。チームサエナイスの3人組がそろってるよ。今日は悪いけどぶっちぎりで勝たせてもらうよ」
肩の上には、黒っぽい戦士のコスチュームの、小悪魔ヒロが見え隠れする。
そして、一人遅れて時間ぎりぎりでやってきたのは、あのサッカーエリート少女、ユウトにドンクというあだ名をつけた毒舌のキララだった。
「えええっどういうことなの?!」
みんなキララを見て驚かずにはいられなかった。いつも男の子みたいなキャップをかぶり、女子サッカーチームの練習着か、Tシャツ姿しか見たことなかったキララが、ピンク色のワンピースを着て、かわいい帽子をかぶりやってきたのだ。何かの作戦か?みんな顔を見合わせた。肩の上には、今日は黒いサマードレスの小悪魔ジルが乗ってみんなを睨んでいる。
「今日はよろしくな。おらおら、じろじろこっちを見てんじゃねえよ」
口の悪るさは、相変わらずだ。なぜか安心した。
「はい、こっちのチームもこれで全員そろったね。じゃあ、ちょっといいかな」
植草館長が近づき、今日のゲームや対戦相手、応援参加者など、細かいことを説明する。
やがて、相手チームの態勢も決まってきた。
第1試合、宝島スゴロク。ユウトとユカリの対戦相手はキララ。応援参加はマサルだった。
みんなで例の個室に異動、今日はたおやかなユリの花が飾ってあった。テーブルゲームドールハウスに着席し、まずは上の引き出しから海賊船の操舵室を組み立てる。海図や羅針盤、酒樽やテーブル、舵を並べると、海賊船長キャプテンダイスの登場だ。大きな海図のゲーム盤を広げ、宝島や海の怪物や大渦のミニチュアを置いていく。どれも大航海時代風の古めかしいデザインで雰囲気たっぷりだ。
「この間、幸運の女神像をつけたら、金運の確率がマイコちゃん上がっていたよな…」
ユウトは、この間大活躍した大砲に加え、幸運の女神像を買い足した。すると応援参加者のマサルの耳元で、小悪魔のヒロが何かをささやいている。
「なるほどね、じゃあ、こっちも手を打とう」
小悪魔のヒロは相手の心を読み、作戦の裏をかいてくる。結局キララが幸運の女神を舳先につけ、マサルが大砲を装備した。これはこの間のマイコとユウトと同じ状態になる。
「ようし、ゲーム開始、出向だ。帆を上げろ!」
キャプテンダイスの声が響く。ユウトは女神と大砲の両方を買ったので、すっからかん状態だ。イベントで失敗すると、宝や金貨を払わなければならない。払えなければ1回休みだ。ユウトは男爵と話し合い、危険度の低いサンゴ礁エリアで、まずは地道に稼ぐ作戦だ。ゲームの妖精キャプテンダイスの前で、アドベンチャーゲームブックがパラパラとめくれていく。ゲーム盤のマスに書かれた数字のイベントが読み上げられる。
ユウトが楽園の白いビーチで夜光貝の貝細工をまずはゲット。
次に、清流と滝の島に上陸。透き通った川に沿って遡る。青い滝の下の川辺で、天然メノウと砂金を運良くゲット。大した金額にはならないが、幸先良いスタートだった。
ユカリは、また岩礁の地図を手に入れて、もう少し高価なお宝を狙った。
「いいわよ、ユカリ、どんどん進みましょう」
ウフルンの声援にのり、なんとユカリは遺跡のエリアに突入、岩礁をのりきって、古代の島に上陸成功。密林を分け入り、謎のジャングルピラミッドに侵入して、サイコロを振った。
「やったー、古代の翡翠の指輪をゲットしたわ」
キララとマサルは、敵の海賊が多い海賊エリアに進み、強気でイベントに挑戦しまくった。さっそく危険が迫ってくる。
「なに?海賊ごときが私の船を襲うつもり?!上等じゃない!」
「そうよキララ、やっちゃいましょう!」
ジルの声が飛ぶ。強気のキララは他の海賊船から逃げず、海賊の襲撃を迎え撃ち、サイコロ勝負に勝って敵を撃破。お宝をせしめたのだった。そしてマサルは海賊の本拠地、要塞島に襲撃をかけた。そこは、海賊達が、天然の岩山をうまく使って堅牢な基地を作り、さらに石の壁を築いて、敵を寄せ付けない要塞にしたのである。マサルは海上から大砲を打ち込み、砲撃戦に持ち込んだ。
「ようし、マサル、お前は無敵だ!」
「バーン、ドドーン!!ザッパーン!」
被害も受けたが、要塞島に上陸し乱撃戦。大砲で穴をあけた石の壁から侵入、がっぽり金貨を儲けたのだった。
その頃、地道なユウトは、まだ美しいサンゴ礁の海にいた。
「く、しまった!」
ユウトは白い砂浜のあるジャングルの島に上陸。ヤシの木を越えて進み、胡椒やナツメグ、クローブなどの高価なスパイスを探したが、サイコロに見放されて断念。次の漁師の港でも、マッコウクジラから採れる高価な香料のゲットに失敗。損失こそ小さかったが、お宝がなかなか集められない。
「よし、ここで勝負だ」
だが、ユウトも最後は、サンゴ礁のエリアで1番のお宝を引き当てた。
まるで血のように赤い、宝石サンゴが手に入る島だ。だがここで雲行きが怪しくなる。
「え、ここで酒樽ゲームか?!」
酒樽が描かれた3つのカップに、敵チームが、ガイコツと宝箱と錨のミニチュアを隠して、ユウトが1つを選ぶことになった。宝箱を引き当てれば、もちろん宝石サンゴゲット。錨なら1回休み。ガイコツなら嵐に遭遇して大損となる。マサルがセットし、慎重に考えて選ぶユウト。
「フー、よかった」
酒樽の中からは宝箱が現れた、宝石サンゴゲットだ。これで少し持ち直した。
「よし、キララ、嵐の海を越えて人魚の海のエリアに行くぞ」
強気のキララとマサルは、近道して、お宝が多い人魚の海を目指した。なんとか、大きな被害を受けないようにサイコロを振り、嵐の海を突き進む。セントエルモの火があやしく燃える帆柱、渦巻く黒雲。その時、キララの帆船に迫る白い影、船幽霊は帆船の外側を昇り、甲板へと一人、また一人と上がってきたのだ。
「海の底へ突きき落してやる。2度と戻ってこれないようにな」
キララはまったくひるまず、冷徹にサイコロを振る。同じくして、マサルの目の前にはボロボロの海賊旗を上げた幽霊船が姿を現した。ガイコツ姿の船長が銃をぶっ放す。もともと弱気なマサルだが、キララとチームを組み、小悪魔ヒロに耳打ちされ、まるで別人のように強気になっている。幽霊船のガイコツどもが、剣を振り上げ、一斉に襲い掛かってくる!
「行け!幽霊船のお宝をゲットだ!」
その頃、遺跡エリアから順調に進んできたユカリは、一足先に人魚のいる多島海エリアにたどり着いていた。ここは宝物がたくさんあるのだが、海の魔物セイレーンの歌声をうまくやりすごさないと、座礁したり自分が難破船になってしまう恐ろしいエリアでもある。
まずは真珠の入江と呼ばれる静かな入り江に入る。
水の妖精ニンフが反魚人にいじめられ、助けを求めてくる。
「いじめっ子はゆるさない。みてなさい」
反魚人と戦う。反魚人をこらしめて追い払うと、水の妖精ニンフが宝をくれる。
「やったー、黄金色のパールをゲット。これはすごい!」
だがその時、遠くから心を酔わせる美しい歌声が聞こえてくる。船員達の目がうつろになっていく。危ない。
その頃、白い船幽霊に襲われたキララは、窮地に追い込まれていた。斬っても斬っても船幽霊は不死身。不気味な唸り声を上げながら迫ってくる。このままでは、手に入れた宝物まで失ってしまう。だが、アドベンチャーゲームブックには、いくつかの選択がのっていた。
「ええーい、こうなりゃ一か八か、幸運の女神の能力発動よ!」
舳先につけた女神は、金運を上げる以外にも、邪悪なものをはらう力がある。そのためにはサイコロで5以上を出さなければならない!キララがサイコロを振る。
「やったあ、5よ」
女神の体から、金色の光があたりに広がり、船幽霊達が輝きの中に崩れさるように消えていった。
「船幽霊撃退、このまま人魚の海に突撃よ!」
なんと勝負強いことか、キララはジルの怖さを忘れる魔力も重なって、今のところトップだ。
マサルも幽霊船の宝物はゲットできなかったものの、ガイコツどもを撃破、大きな損失もなく、ついに嵐の海を乗りきり、青い空の下で帆をはためかす。人魚の海へと船を進めていたのだった。
「ユウトごめんね、足止めくっちゃって」
ユカリの船は、海の魔物セイレーンの歌声に捉えられ、なかなか先に進めない。回転の速いユカリは、ゴール前の海戦エリアが危ないと予想し、気が気ではなかった。海戦エリアでは近くにいるプレイヤー同士が、互いのお宝のいくつかを賭けて戦う事もできる。もちろん戦わなくても自由だが、もしゴール前で応援参加のマサルがユウトに海戦をしかけてきたらどうだろう。マサルが負けても応援参加だから関係ないが、ユウトが負けたら勝負も危なくなってくる。自分も早くゴールに近づかなくては!!ユウトを守るのだ。だがそのころユウトもあまり宝を手に入れられずにあせっていた。
「くそ、なんとかゴールに1番で着いて、大海賊の宝を手に入れないと…。こうなったら、勝負をかけるか。こっちには女神も大砲もあるんだ」
ユウトが進路を決めたのは、1番危険な海の怪物エリアだった。
ユウトは、危険な海の怪物エリアに突入、早くも大変なカードを引き当ててしまった。怒れる巨大な白鯨だ。仲間を人間に殺されて、復讐に燃える怪物だ。戦うこともできたが、優しいユウトは、舳先に着いた女神像に祈りをささげてサイコロを振った。
1回目失敗、宝を1つ失う。2回目、またもや失敗、再び宝を失う。3回目、ついに祈りが通じて、白鯨は穏やかになり攻撃をやめる。そして仲間となった白鯨はトリトンのホラ貝というアイテムを渡してくれる。値段は安いが何かの役に立つと言う。
だが、高価な宝をいくつも失って、ユウトはピンチだ。そのころキララとマサルは、人魚の海のエリアでお宝を目の前にしていた。
マサルは帰らずの大渦に遭遇。ここでうまくサイコロの目を出し続けると、ポセイドンの神殿に行き、超高額のお宝をゲットだ。だが渦の力は強い。悪い目がたった2回出ただけで、中心へと巻き込まれていく。これは大砲ではどうにもできない。マサルは最後で足止めをくってしまった。
「あ、今度は人魚が襲われている!」
絶好調のキララも、最後に事件に出くわす。急に暗くなってきた海を、人魚の群れが逃げていく。海の魔物に追いかけられているのだ。
「えええっ、ここで酒樽ゲーム?!」
今度は3つの酒樽カップに、錨とお宝、そしてタコのミニチュアが入る。人魚を追いかけているのがサメや反魚人なら、撃退してきり抜けられるが、運悪くタコを選ぶと、巨大な怪物クラーケンに襲われて宝物の大半を失ってしまう。
「ええーい!」
さて、その結果は…?!
ドドドドー、ザザー…!
キララの目の前で突然、海が真っ二つに割れて道ができ、浅瀬に沈んでいた難破船への道が開けた。キララはお宝を引き当てたのだ。サメをなんなく退け、人魚の魔法で海底への道が開けたのだ。難破船の中からは、宝箱いっぱいのローマ金貨がザックザクと出てきたのだった。
その頃ユウトは、火山島のそばで大怪魚ギロ・ドガに追いかけられていた。ごつごつした岩のような体、海面にとてつもなく大きな背びれが見え隠れする。こいつは大きな口で、帆船の1隻ぐらい簡単に飲み込んでしまうのだ。だが思いついて、白鯨にもらったトリトンのホラ貝を使う。すると大海原にホラ貝の大きな音色が響き渡る。そしてあの巨大な白鯨が大きく潮を噴き上げる。
「やったー!」
猛スピードで近付いてくる白い魚影。
「ザザザザザー、ドッカーン!!」
白鯨が、ギロ・ドガの横っ腹に体当たりして、そのすきに脱出成功だ。その時、ギロ・ドガの口から吐き出された難破船の宝箱をゲット、意気揚々とゴール直前のエリア、海戦エリアに出たのだ。計算しないと分からないが、このお宝で優勝のチャンスもぐっと近づいてきた。だが…。
「待て、ユウト、このままゴールへは行かせない。俺と勝負しろ」
「え?!」
ゴール前で待っていたのは…大渦に巻き込まれたマサル?ではなかった。海の魔物に魅了されて足止めをくったユカリ?でももちろんなかった。
「キララ、お前、タカラ稼いだんだからそのままゴールしても勝てそうなのに、なぜ?」
いつものキララなら、理由も言わずに攻撃してきただろう。だが今日は、怖さを打ち消すジルの魔法がかかっていたのだ。キララはまっすぐにユウトの目を見て、はっきりと言った。周りに人がいるなんてもうどうでもよかった。
「…ユウト、ずっと前から好きだった。俺が勝ったら俺とつきあえ!」
「え…」
だから悪口言ったり、意味なく突っかかってきたりしたのか?いつもは着ない、夏物のピンクのワンピースがまぶしかった。ユウトは何と答えるのか?ユカリもなぜかとても気になり胸がドックンドックン鳴りだした。
「…」
ユウトは何も言わなかった。いや言えなかった。
「すぐにはこたえなくていい。お前に勝って、お前とつきあうだけだ」
海戦には、お互い一番高い宝を賭けなければならない。ユウトがギロ・ドガの宝箱を賭けると。
「俺は今日、手に入れた宝をすべて賭ける」
キララは本気だ。サイコロ3回で決着がつく。
「勝負!」
1回目はユウトが勝つ。大きく息をする。
だが2回目はキララが勝ち、3回目もキララが当然のように勝つ。そのままゴールし、大海賊の宝も手に入れて、1回戦のキララの勝利が確定した。
「ふふ、やっぱキララは最強だぜ!」
小悪魔のジルが、勝ち誇ってキララを祝福した。
「勝ったぞ、ユウト、おい、聞いてんのか?」
うれしそうなキララの前で、ユウトは茫然として声も出なかった。お宝の合計でも、ユカリ、マサルに続き、ギロ・ドガの宝を失ったユウトは4位に後退した。
「ごめん、負けちゃった…」
みんな声のかけようがないと思った。だが、ユウトの肩をぽんと叩く者がいた。
「大丈夫、ユウト、次は私とユウトだよ。絶対勝つから平気、平気」
こんな時、理由もなく自信ありげなマイコの明るさが、なんと心強いことか…!
「そうだ、そうだよね、マイコちゃん。この間も勝ったしね、次は頑張るから…」
ユウトはわけもわからず、泣きそうになりながら、でも、顔を上げた。
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