25 トンボ池危機一髪

 翌日、朝から学校プールに行くと、受付の列にユカリもユウトも並んでいた。

「じゃあ、プール終わったら…」

「もちろんトンボ池に直行よ」

「いくらなんでも、まだ生き物は来てないよね」

 みんなワクワクしながら、プールで泳ぎ、さっと着替えてユカリとマイコは受付へと出てきた。

「あれ、ユウトがあっちから歩いてくる?」

「ほら、男子は着替えるのが早いから、もう池を見に行ってたんじゃない?」

 マイコが近寄りながら手を振った。

「早いね、ユウト。もう池に行ってきたの?」

 するとユウトは力なくうなずくと、そのまま下を向いてしまった。明らかに様子が変だ。

「どうしたのユウト君」

「…トンボ池が誰かにめちゃくちゃにされた。これから先生に相談して、もう一度ス  コップを取りに行こうと思って…」

「ええっ!!」

 ユカリとマイコは走り出した。いったいどういうこと?

 田んぼが見えてきた、いつもと変わりなく、稲が少し伸びて緑色が鮮やかにそろっている。こっちは何の変化もない。ところがトンボ池は…!!

「ひ、ひどい、誰がこんなことを?!」

立ち尽くすマイコ、土手が2か所に渡って崩されていた。ユウトが何回も固めていたあの土手だ。ユカリはクサヨシの岸辺に駆け寄った。岸に沿って1列に植えられたクサヨシは無残に踏みつぶされ、水の中に倒れていた。ユカリが座って、起こそうとするが、もう茎が折れていてどうにもならない。

「それだけじゃないわ、クサヨシの株が根っこごといくつもないんだけど!」

ユカリがぱっと立ち上がって当たりをきょろきょろ探す。

「あーっ!」

引っこ抜かれたクサヨシの株が、ばらばらに田んぼの中やあぜ道に投げ出されているではないか!株を拾いに行くユカリ。マイコは別のことに気がついて唖然とする。池の脇の立て看板に貼られていたポスターが引きちぎるようにはがされ、くしゃくしゃにされて池の中に投げ入れられていた。

「これは私が家で描いてきたもとのポスターじゃん」

カラーコピーのもとがもうこのありさまだ。拾って広げると水辺の自然を大切に…の文字が濡れてにじんでいた。

ユカリは、自分は記録係だからとスマホで辺りを撮影し始めた。クサヨシの株を撮影しながら、唇をかみしめていた。目には涙がにじんでいた。一人でリヤカーを引いてそこにユウトがやってきた。そして黙ってスコップを取り出すと、黙々と土手の修理をはじめた。

「ユウト、クサヨシが…」

ユウトはポツリポツリと答えた。

「…ユカリ、自分で言ってただろ。クサヨシはとても丈夫な草だって。まだ枯れたわけじゃないから、どうなるか分からないけど、植え直してやったらどうかな…」

ユウトはあくまで前向きだ。ユカリは少し間をおいてから言った。

「うん、そうする。まだ生きているからね」

そしてユカリも株の植え直し作業を始めた。マイコは破れて濡れたポスターのしわをのばすときれいに折りたたんで荷物に入れた。

「…もう一度描いてくるよ」

やがてユウトから連絡を受けた松重先生が、野村さんを連れてやってきた。

「ひどいことをする人がいるねえ」

松重先生もがっくり肩を落としていた。

「昨日、昼過ぎに見回りに来た時は何もなっていなかったんだけどな。午後にやられたか、それとも朝早くか…」

野村さんもショックを受けていた。昨日は児童会やスポーツクラブの子ども達だけではなく、4年生が何人か田んぼの草取りに来ていたらしいし、用水路のザリガニを取りに1年生や2年生もうろちょろしていたという。犯人は簡単には見つかりそうもない。

「俺も見回りの回数を増やすからさ」

なぜか野村さんも責任を感じているのか、やさしく声をかけてくれた。

ユウトを先頭にみんなで修復を続け、クサヨシは半分ほど倒れたままだったが、土手も元通りになおり、立て看板もひきちぎられた残りがはずされ、きれいになった。

「週末の土曜日には、いよいよ魚鳥だ。もうすぐ魚やいろんな生き物が来るぞ」

ユウトがみんなを元気づけるように言った。今度は川に入るので、松重先生も朝早くから来てくれると言う。

でも、またいたずらされやしないかと、胸が痛かった。水を取る水路が壊されなかったのは幸いだった。池は、不安な空気の中再び動き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る