13 もう1つの使命

 そろそろ梅雨入りなのか、次のお茶会の日は静かな雨が降っていた。今日は庭からとってきたアジサイを花瓶に入れてお出迎えだ。

 ウフルンはご自慢の花模様の傘とかわいい長靴、そしておしゃれなレインコートでさっそうと登場だ。

「それでは今日のお茶会を始めます」

 女王が開会を告げると、すぐにチャムチャムとハニハニが出てくる。

「今日はちょっと肌寒いので、ダージリンにミルクとカルダモン、クローブなどをブレンドしたオリジナルのチャイを用意しました」

「今日は大得意のモンブランです。日本産の紫芋と生クリームでつくったタネをカステラとムースの上にのせたオリジナルです」

「うわあ、彩りもきれい!」

 チャムチャムとハニハニのゴールデンコンビは今日も絶好調、ほのかな甘みとスパイシーな風味のチャイと、紫芋のモンブランがとてもよく合う。みんなが言葉も忘れて食べていると、今日も1番バッターのピコピコが立ち上がった。…あれ、今日の動物コスプレは中国風?頭に鉄の輪をはめた、金色の毛のサルのコスプレだ。

「今日の動物は孫悟空のモデルになったと言われる金色のサル、キンシコウでーす」

ピコピコは長い棒をグルグルと振り回し、京劇のポーズを決めた。

「かっこいいぞー!」

今日もやんやの喝さいだ。

「ではキンシコウでグルグルしりとり行きます」

女王様が大きくうなずいた。

「キンシコウ、ウマ、マツムシ、シオマネキ」

今日も無事につながった、みんな拍手。

「ええっと、サルつながりで、チンパンジーを使ったグルグルしりとりをしたいんですが、チンパンジーの続きはジから始まる動物でもいいですか?」

「いいでーす」

みんなも女王様もうなずいた。

「ではいきます。チンパンジー、ジャイアントパンダ、ダイオウイカ、カマス、スズメバチ」

やった、つながった。パンダも、ダイオウイカも出た、みんな大拍手だ。

「ではポエポエさん、お願いします」

そしてノートを持ってポエポエが出てきた。今日はチャムチャムによく似たツユクサ色の素朴な服を着ている。

「そろそろ梅雨ですのでそれにちなんだ詩です」

一つ目は、雨の日に土手の道を歩いていた時の詩。

「シトシト降る雨にうつむけば、川の水は豊かに澄みわたり」

二つ目は梅雨の晴れ間の詩だと言う。

「悲しみが1回りして水たまりに青空」

マイコはこんな雨の日でも素敵に思えてくる気がした。ポエポエは今日も大きく息をして、拍手の中席に着こうとした。

すると女王様が言った。

「ポエポエさん、すみません、この間の小悪魔の事をみなさんにお話ししたいの。マイコさんもお願いね」

するとポエポエは早速魔法の鏡を取り出した。まずマイコがスペードの男と黒いテルテル坊主の話をして、ポエポエがみんなに魔法の鏡の映像を見せた。

「おお、これは…!」

お茶会の席がざわめいた。するとあの男爵が話し始めた。

「この黒いテルテル坊主は、冥界の小悪魔で名前をヒロと言います。魔女の手下で、たいした力はもっていない下っ端です」

さすが男爵だ。とてもくわしい。ちょっと安心した。

「ただ問題は、ドールハウスを探しに来た男に着いていたという事です。もしかしたら裏でもう少し力のある悪魔が糸を引いているかもしれない」

それを聞くとマイコはまた少しだけ心配になって来た。

「あのう、私にも何か気をつけることがありますか?」

すると女王は、にこっと笑って、男爵に言った。

「そろそろマイコさんみも、ドールハウスのもう1つの使命を伝えてもいいわね。では、男爵お願いします」

もう1つの使命?意外な展開になって来た。男爵は続けた。

「では、このストラトス・ゼルキンのドールハウス造りの歴史からお話ししなくてはなりません」

男爵の魔法のレンズが光ると、そこにストラトス・ゼルキンの作業する姿が浮かび上がった。

「若き日のゼルキンは家具職人の修業をしていましたが、その腕を買われて大きなお屋敷の家具の仕事を受けました。その時、お屋敷に出入りしていたサンジェルマンという伯爵に仕事ぶりを気にいられ、彼の注文で次々に特殊な家具を作り、頭角を現したと言う事です」

すると今度はゼルキンの横に気高き貴族のサンジェルマン伯爵が映った。

「でも一方、サンジェルマン伯爵は、高名な科学者であり、錬金術師とも、ダイヤモンドなどの宝石を自由に作れる力を持っているとも言われていた謎の人物です。やがてゼルキンは秘密裏に伯爵に弟子入りしたとも言われ、後に独立したゼルキンは特別なドールハウスの制作を始めました」

「特別なドールハウス?」

「ドールハウスは、遊ぶためだけではなく、文字を読めない人に仕事を教えるためだとか、客人をもてなすためだとか、色々目的を持っているのです。でも人々の幸せを願い、世の中の役に立ちたいと思っていたゼルキンは、町を守るドールハウスを考えたのです」

「町を守るドールハウス?」

「楽しく遊ぶことによって幸せの波動を町に広げ、さらによい妖精を呼び、守護天使に祈りが通じるように魔法をかけたドールハウスです。このティールームドールハウスを始め、いくつものドールハウスが作られ、ヨーロッパのあちこちの町におかれました。そう、あちこちの町を幸せの波動で守っていたのです。でも、今はその多くが失われ、特に第一次世界大戦の時に多くの被害を受け、大二次世界大戦のころにこの日本に3台のドールハウスが運ばれてきました」

「えっ、3台?」

「はい、マイコさん、実はあなたのお婆様のおじいさまにあたる方のお屋敷に昔は3台とも置かれていたそうです」

「じゃあ、あとのドールハウスは今、どうなっているの?」

「はい、3台のドールハウスはそれぞれ別々の女の子のいる家に引き取られていきました。このティールームドールハウスは、お婆様へと受け継がれてきたものです。もう1台のコレクタードールハウスは前の持ち主がお亡くなりになって、今は倉庫で眠っています。もう1台のテーブルゲームドールハウスは、この町のおもちゃ博物館で修復中だと聞いています」

このドールハウスの歴史がだんだんわかって来た。すると女王様がマイコの目をじっと見て言った。

「だからこのドールハウスであなたが楽し思いをするほどに、幸せの波動で小悪魔達が近づけなくなるのです。でも小悪魔の方からしたら何かと邪魔でしょうね」

「だから人間を操って、ドールハウスを売ってしまおうとしたのかしら…」

すると男爵が発言した。

「昔は3台あったドールハウスが今は1台だけになった。ドールハウスに妖精がいることを知る人も少なくなり、気をつけなければストラトス・ゼルキンの願いも途絶えてしまうかもしれません」

「そうだわ、それに物置に眠っているドールハウスなんて、いつあのスペードの男に持っていかれるかもしれない、そうでしょう?!」

マイコは本当に心配になってきてそう言った。

すると女王様が言った。

「でも、それは妖精の力ではできません。人間がその物置に行って、青い宝石のついた鍵で、そのドールハウスを開けなければならないのです…」

するとマイコが手を上げた。

「青い宝石の鍵ならあるわ、私がいくわ。場所はとこなの?」

はずかしがらないというか、度胸があるというか、マイコはこういうことは何でもなかった。場所はこの町のバラ園にあるカフェだと言う…。

「えっ、バラ園のカフェ?!前にママとパパが出かけたところだ…」

女王様はにっこり笑って言った。

「ありがとうマイコさん、一度様子を見に行ってもらうだけでもいいの、無理はしないでね。さてさて、では今日の女王の金言にまいりましょう。フムフムさん、お願いします」

するとあの読書好きの妖精フムフムが大きな本をパラパラさせて立ちあがった。

「それではストラトス・ゼルキンの弟子への手紙からの最後の金言です。なぜ人間はさからったりはむかったりするのか、ゼルキンは、ある日、はたと閃いたそうです。読みます。壁をつくるから壊したくなる。押さえつけるからはむかいたくなる。無理にさせるからさぼりたくなる。笑顔を向ければ素直になる」

するとマシュマロン女王が、大きくうなずいて言った。

「この金言は目から鱗でした。反抗的だったり、はむかったり、さぼったりするのもその人間を指導する側が原因を作っているかもしれないと言う事なのです。決まりや人間関係でしばりつけるから暴れたくなるのだし、頭から押さえつけるからはむかうのです。やりたくもない仕事は誰だってサボりたくなります。まずは笑顔で話しかけ、そこから心を通わせ、やる気を起こさせ、築き上げていくことなのです」

そして柱時計が鳴り、今日も拍手のうちにお茶会は終了した。

夕食の時にママにバラ園のカフェの話をすると…。

「パパとママが行った時は、これから春のバラが咲きだすって頃だった、ちょっとだけ早かったの、まあそれなりに咲いていたけどね。今だったら、たくさん咲いているんじゃない?天気がよくなったら、さっそくママと出かけない?」

実はバラ園に同じようなドールハウスがあると噂に聞き、あのスペードの男に持っていかれないか心配なのだと相談すると、ママの目に力がこもった。

「そういうことならなおさらよ。明日にでもバラ園に出かけるわ!」

雨は夜遅くにはあがって、星も出てきた。マイコは小さな決意を胸に、すこやかに眠りに着いたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る