23 秘密の地下室
二人はもとの人間に戻ってもう一度、コレクタードールハウスを調べ始めた。
「でもいったいどこにあるの?屋上には小さなドーム屋根があるけれどどうにも開かないし、あとどこに部屋が…?」
するとマイコが言った。
「守護天使様は確か、地下室と言っていたわ」
でも6つある部屋の上には屋上があり小さなドーム屋根が付いているが、下はコレクションボックスの棚と引き出しだけである。
「そうだ、ミリア、マイコがちっちゃくなってあちこち地下室の入り口を探してみるわ」
「やってみましょう。私は外からサポートするから」
そしてマイコは人形を取り出し、再び小さくなるとドールハウスの中へと入って言った。そしてここが怪しいと、1階から2階へとつながる小さな階段の周りを探した。
「どう、マイコちゃん、なにか見つかった?」
「階段は1階で終わりね。地下へはつながってないし、それらしい入り口もないわ…あ、あれっ。」
「どうしたの?マイコちゃん」
ちょっと弱気になったマイコの声がした。
「近くの壁を触っていたら、横にずれて…これって隠し扉かしら…?」
マイコはちょっとためらった。なぜならそこはドールハウスの裏側、なにもあるはずのない方向への扉だったからだ。マイコはちょっと怖かったが、その扉を開けてみた。
「あ…。」
なんと階段の裏は壁が二重になっていてそこに細い通路があり、さらにその奥に真っ暗な地下へと続く細いかいだんがあったのだ。ミリアが早速その方向を探してくれた。
「どうやら地下室があったわ。コレクションボックスの棚の後ろがやっぱり二重の壁になっていて、その向こう側に細長い空間があるみたい。どう、行ってみる?なんなら私も一緒に行きましょうか?」
マイコはちょっと考えてから言った。
「うん、守護天使様が大事なところはマイコちゃんがやりとげなければいけないって言っていたような気がするから…、もう少し一人で、奥まで行ってみるわ。」
ドールハウスの中はいつも光が入っていて明るかったが、この扉の中は少ししか光が入らず、奥は薄暗い。マイコは恐る恐る通路を進み斜めに続く階段を見下ろした。1番下はほぼ真っ暗だった。
「じゃ、階段を降りてみます。」
マイコは暗闇へと続く細い階段を1段ずつ降りて行った。
「あれ、なんだろう、これは?」
最初に目に入ったのは額に入った大きな満月の写真?だった。それが階段の途中にかけてあるのだ。クレーターやデコボコまでよくわかる写真だった。
「今度は何かしら?わっかが付いている、…土星?」
さらに下に降りて行くと、真っ暗な中にうっすらと顔のようなものが浮かび上がる。
「いったい何なの?!」
そいつは目が3つあり、それが額に入って壁にかかっているのだ。
よく見ようと近付いた瞬間、その3つ目がギョロッと動いた。
「きゃっ!」
マイコは息をとめてその前を一気に駆け下りると階段の奥にもう1つの扉を発見した。
「マイコちゃん、平気?」
心配したミリアの声がした。
「なんとか大丈夫。今、最後の扉を開けるわ」
それにしてもここは一体なんの部屋なのだろう?満月や土星の写真があって、目が3つの顔みたいなのまで飾ってある。マイコはドアノブに手をかけ扉をあけた。
「えっ?!」
そこはランプのほのかな明かりに照らされた、居心地のよさそうなベッドルームだった。
細長い部屋の奥にはふかふかの大きなベッドがあり、そこに誰かがぐっすり眠っていた。横を向いていて顔はよく見えない。
「あの、すみません、おじゃまします」
声をかけてみたが、ぐっすり眠っているらしく反応はまったくない。どうしよう。
「あれ、なんだろうこれ?」
部屋の少し入ったところに、なにか丸いものと棒のようなものがぶら下がっている。よく見ると何か妖精の文字が書いてある。マイコには意味がわかった。
「ええっと、御用の方はたたいてください」
たたくといったい何がどうなるのだろう?でも小さいことにこだわらないマイコはさっと棒を持った。
「1、2の、3!エーイ!」
ボワオオウォウォウォオオオーン
それは銅鑼だった。凄い音だった。小さいのに本物以上の音が出る。フォニーの魔法楽器か?!そのあまりの大きさに寝ていた者が飛び起きた。
「うおお、おはようございまーす!!」
同時に今までほのかに灯っていたランプが、ぱあっと強く輝き、朝のようにあたりが明るくなった。そのとたんテーブルの上に置いてあった鳥かごから、たくさんの鳥のさえずりが聞こえだした、リルリルの竹かごのようだ。さらに竹かごの隣のフォトスタンドの写真と同じコーヒーが光りながら姿を現し、魅惑の香りをたてだした。サチサチのフォトスタンドか?
「マイコちゃん、すごい音がしたけど、大丈夫?」
さすがにミリアの声が外から聞こえてきた。
「はーい、大丈夫、隠し部屋と妖精を発見しました」
「ああ、僕を起こしてくれたのは君か、ということは君は人間だね、人間じゃないと眠りの魔法は解けないからね」
その妖精は、今年が何年かマイコに聞いて、あまりに長いこと寝ていたことに気がついて少し焦っていた。
そしてその妖精は、大きく伸びをしてベッドから起き上がり、コーヒーを飲みながら、マイコの方に歩いてきた。
「天文の妖精、キラピカです。わけあって長い間魔法で寝ていました。起こしてくれてありがとう」
「天文の妖精?」
「ほら、ここの屋上に天文台のドームがあるでしょう、あの中に魔法の望遠鏡があって、僕も昼はここで寝ていて、夜になるとあそこで星を見ていたのさ」
それで月や土星の写真があったのか。
「え、あの3つ目のお面?ムヒムヒが宇宙に関係のあるお面だと言って、あの宇宙人のお面をくれたのさ」
あの人騒がせな3つ目の顔は、お面のコレクター、ムヒムヒのプレゼントだと聞いて納得したマイコだった。キラピカは、キラキラ・ピカピカ光る星を見るのが大好きな男の子の妖精だった。
やがてマイコとキラピカが階段を昇ってドールハウスの1階へと出てきた。ミリアはほっと胸をなでおろした。
「天文台も久しぶりに開けて中を整備しないとね。今度来てくれたら天文台にご招待するよ。それから長い間眠っていたわけも話さないとね」
マイコのドキドキする冒険は終わり、ミリアもワクワクしながらそれを聞いてくれた。
「マイコちゃん、今日は本当に楽しかった、それにお母さんのこともまたわかったし…」
ドールハウスの横では赤井バラとしろいバラが並んで咲いていた。
マイコはまた来ることを約束して、帰って行った。
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