3 ノスタルジックな街並みと彼女
「お前、またそんな寒そうな恰好をして……」
ギャルとは何故、寒々しい恰好を好むのか。
自分に若々しさが足りないのか、それとも彼女たちが高温なのかわからないが少なくとも奏斗には寒そうに見えた。
「お、お洒落というのは忍耐なのですよ!」
と結菜。
「腕を出すなら足を隠す。足を出すなら腕を隠すというのがお洒落の基本では?」
何かの雑誌で見た朧げな情報を奏斗は提言してみる。
「それだとやはり、わたしの目指すものとは反するのですよ」
何故敬語なのかも謎だが、何を目指しているのかも謎だ。
「こんな時期にそんな薄着して、風邪ひいても知らないからな」
そろそろコートの必要な時期でもある。日中はそんなに寒さは感じないが、夜は冷える。
「ううう」
「これでも着てろ」
唸る結菜に先ほど購入したロングで薄手のカーディガンを渡す。
「値札は取れよ」
「うわ、センスいい。そして高ッ」
値札を見て”汚したら困るからいい”とつっかえそうとする彼女に、
「本屋で何して汚すつもりなんだよ」
と奏斗は笑う。
それもそうかと呟き、彼女は小さなハサミで値札を外すとカーディガンを羽織った。
「ねえ、見て。萌え袖ー」
何がそんな嬉しいのかわからないが、結菜が喜んでいる。
「遊んでないで行くぞ。俺も行きたいところがあるんだ」
「え? それは暗につき合ってということでしょうか」
「できれば案内して欲しいところだな」
”この辺詳しいんだろ?”と続ければ、
「どうしてそう思うのです?」
とキラリーンと空気眼鏡を煌めかせた。
「詳しくなければ、わざわざ裏道使って最短距離でここにはこないだろ」
急がば回れと言うものだ。
まともな人間なら、慣れていない裏道なんて待ち合わせをしている時に使わないだろう。
「さすが探偵さん!」
いつから俺は探偵になったんだと思いながら、
「結菜がまともで良かったよ」
と零す。
「ん? んんん? 今、何か変なこと……」
「言ってない。それよりも、この辺に洋楽のCD売ってるようなところない? できれば品揃え豊富なところ」
話の途中で遮るのは”やましいことがあるから”。ぷくっと膨れていた結菜だったが、奏斗に頼られるのは嬉しかったのだろう。すぐに機嫌を直し、えっへんと腰に手をあてて威張って見せる。
「もちろん知っているのですよ」
ウインクをし、人差し指を立て得意顔だ。
──クソ可愛いな。
「この優秀な助手が案内してあげましょう」
「その探偵ごっこはいつまで続くんだ?」
素朴な疑問を投げかけつつ、奏斗は結菜の後に続く。
「もー! ノリが悪いよ奏斗くん」
「そんなことない、うん」
適当な返事をしつつ、視線だけで左右を確認する。駅前の大通りは良く活用するが裏道は初めてだ。こんなところがあったのかと感心した。
奏斗が周りを観察していることに気づいたのか、
「ここいいよね。ノスタルジックで」
と結菜。
「その格好にはまったく馴染んでないけどな」
思わず出てしまった言葉に口元を抑えると、
「そうだね」
と彼女は笑った。
──あれ? 気にしてない?
「ずっとね」
「ん?」
「いろんなものが不釣り合いだったの。大好きなものはみんな」
後ろに手を組んだ結菜がこちらを振り返る。
「わたしはこういう格好が好きなだけで、でも同じ系統の服を好む子とは話が合わなかった。だからね、奏斗くんと出会うまでは”お一人様”が楽で」
なんでそんな泣きそうな顔をするのか。
「それなのに、奏斗くんに出会ってからは楽しくて。今は一人だとちょっと寂しいなって思うの」
「泣くなよ。俺が泣かしているみたいじゃん」
奏斗は彼女の腕を掴むと胸に抱き寄せる。
「呆れてる?」
「いや……」
奏斗はパーカーのポケットからハンカチを取り出すと結菜に押しつけた。
彼女は”いい匂い”と言いながら目にあてている。
「奏斗くんは”お一人様”寂しくないの?」
不意に彼女が問う。
どうやら何か誤解されているようだ。
「俺はボッチじゃねえよ」
”一緒にするな”と言って奏斗は笑う。
「うそ! いつも一人じゃない」
「たまたまだよ」
「えー」
結菜の疑いの眼差し。
どうやら信じて貰えないようである。
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