6 お買い物デート
「なんつうか、さ」
試着ルームの前で奏斗は眉を寄せ、結菜を眺めた。
「なによもう! 何着ても似合わないって言いたいんでしょ⁈」
結菜は”おこ”なんだからね! と奏斗に拳を振り上げる。
「猫手パンチかよ」
その拳を包み込み、苦笑いをする奏斗。
「そんな無理して美月に合わせなくても。フェミニン系のファッションはやめて、ガーリー系にしたらどうよ」
「わたし身長ないし、子供っぽくなるよー」
「ロングスカートだって似合わないだろ?」
「むう」
結菜は試着していた服を脱ぎ試着ルームからでると、眉を寄せ元の場所へ戻す。奏斗は結菜に似合いそうな服を選んでくれているようだった。
「これなんかいいんじゃない? 総レースのワンピース。丈もひざ下くらいだし」
「うん、可愛い! それにしても奏斗くん慣れているんだねえ。やっぱり女の子といっぱいデートしてたんじゃ?」
と結菜が
「お前、ホントヤキモチ妬きだな。想像力豊かと言うか」
と笑われる。
「だってえ!」
「妹の買い物に良く付き合わされるだけだよ」
”そんな妬くなって”と頭を撫でられ、妹扱いされているんだと奏斗に抱き着いてみた。
「ちょ……なに、こんなところで」
慌てる奏斗。
「わたしのこと、妹扱いしているでしょ?」
と抗議すれば、
「してないし」
と彼は両手をあげたまま答える。
「イチャイチャしたいのは分かるが、場所を考えよう」
と奏斗。
「ちがうもーん!」
結菜はじとっと奏斗を見つめながら離れる。
「結菜は告白は恥ずかしがるくせに、結構大胆だな。”我々”は恋愛初心者だぞ。派手な行動は慎み給え」
「なにそれ、わたしの真似⁈」
奏斗はくくくと笑う。
「そんな言い方してる?」
「概ね合っているはず。それよりも試着してみたら」
「概ねって……」
ワンピースを受け取り、再び試着ルームへ足を向ける二人。
「妹さんってどんな服着るの?」
「あいつは……フリルの凄い……ペチパンツっていうんだっけ? あんなのばっかり履いてる。その割には妙なプリントTシャツばかり着ているが」
「妙なプリントTシャツ?」
ペチパンツのことは結菜も知っていたが、気になるのは”妙な”の部分。
何がどのように妙だというのか。
「”先輩命”とか”あなたの貞操お守りします”とか」
視線を天井に向け、思い出すように言葉を紡ぐ奏斗。
その内容に結菜は吹いた。
「ちょっとクレイジーな妹だから」
とフォローにならないフォローを入れる彼に、
「妹さんに会ってみたいなー」
と要望を告げると、
「じゃ、うちくれば?」
と奏斗が言う。
「え?! いいの?」
「問題ないだろ? 二人きりじゃないし」
おかし気な妹に会わせるのは気が引けるけどと続けて。
急展開だ。
まさか奏斗の家に行けるとは。
結菜は急にウキウキした気分で奏斗の選んでくれたワンピースを試着する。肌の露出が減り、少し落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
これなら彼の横に並んでも恥ずかしくはないだろう。
「いいの?」
「いいよ」
結菜は買ったばかりのワンピースを着て店を出る。
確認をしているのは、奏斗が払ってくれたからだ。
恋愛は対等。彼にばかり負担をかけるものじゃないとは思っている。しかし日本ではまだ格差がなくならない。
アメリカのように男女平等で格差がないなら、
『今日はわたしが持つわ』
などとカッコイイセリフもきまるに違いない。
とは言え、結菜はバイトをしているわけではなくお小遣いをもらっている身であった。
──カッコつかないなー。
わたしも何かバイトしようかな?
本屋さんとかいいなー。
初めての恋。初めての恋人。
バイトをすれば一緒にいられる時間は減るだろう。
それは嫌だなと思いつつも、これからどうするか考える。
「なんだ、嬉しそうだな」
「うん。見て!」
とショーウインドウに移る自分たちを指す結愛。
「さっきよりお似合い!」
「そうだな」
と彼が優しい目をする。
「え?」
小さな変化に喜ぶ結菜は、奏にぎゅっと抱きしめられたのだった。
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