5 不意打ち
食事を終えて外に出る二人。
やはりどこか場違いな自分に結菜は自己嫌悪に陥っていた。
「どうかしたのか?」
表へ出ると手を差し出す奏斗。
「えっと……美月さんだったら落ち着いているし、可愛いし、お似合いなんだろうなと思って」
と結菜は短い自分のスカートに手をやって。
奏斗は差し出していた軽く握った。
つかみ損ねたそれ。
結菜は奏斗の手からゆっくりと顔に視線を移す。
彼は呆れているのだろうか?
奏斗は横を向きため息をつくと、再び結菜に視線を移し、
「お前も……結菜も充分可愛いと思うけど?」
と首を傾げた。
「かわ……可愛い⁈」
素っ頓狂な声をあげる結菜。
「そ、そうやってお世辞を言って女の子を虜にして侍らしてるんですか⁈」
動揺する結菜に吹きだす、彼。
「誤解だし。鏡でも見たら? お前の可愛いの基準は俺には分からんが」
言って彼は結菜の手を掴むと歩き出す。
ショーウインドウに映し出された自分たちは、まるで映画のワンシーンのようにどことなく不釣り合い。
恐らく彼の上着を羽織ったままだからだとは思うが。
「なんでそんな愛美……美月のことばっか言うの? 飯食っている時も思ったけれど」
「どうして……って」
何故だろう? 自分でもわからない。
「まるで彼女が元カノにヤキモチ妬いているようで……ん?」
急に立ち止まる結菜に歩を止め、奏斗がこちらを振り返る。
「見ちゃだめ!」
結菜は慌てた。
的を得ていたのだと思う。真っ赤になる結菜。奏斗は酷く驚いた顔をする。それはそうだろう。奏斗と自分は『偽りの恋人』なのだから。
腕で顔を覆う結菜のその腕を掴むと、
「どうしたんだよ?」
と問う彼。
「奏斗くんは美月さんのこと……まだ好きなんだよね?」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「わたしは、奏斗くんが好き……なので。その、ヤキモチは妬きます」
なんでそんな意志表明をしているんだ? と自分でもツッコミたくなったが、気持ちを隠しておくのが辛くなった。
隠しているつもりなのに、言葉の端々に出てしまう。
ならばいっそ、カミングアウトしよう、そう思った。
奏斗は顎に手をやると、
「俺、何か好かれるようなことしたっけ?」
と不思議そうな顔をする。
「なに、その反応! 何かおかしくない?! 告白してるのに」
「うーん。じゃあつきあう?」
「へ?」
結菜には奏斗が何故そういう結論を出すのか分からない。
「だって、俺のこと好きなんだろ?」
何かまずい? と続ける奏斗。
「偽りの恋人同士をやめて、恋人同士になるか? って聞いているんだが」
「ちょ……まって、奏斗くん。自暴自棄は良くないと思うの。そもそも我々は奏斗くんが美月さんに気があるって思われるのが困るからこの関係をだね?」
結菜が説明をし始めると、奏斗はヤレヤレというように肩を竦め両手を天にかざした。
「
「だーかーらあ!」
結菜が拳をあげて殴るふりをすると、奏斗は一歩後ろに下がり笑っている。
「結菜といるのは楽しいと思うよ」
優しい笑みを浮かべそう言葉にする彼の真意は分からない。
「これが恋愛感情なのかと聞かれたら、分からないけれど」
”なにせ、恋愛経験少ないのでね”と続けて。
「でも、どんな結末になっても自己責任」
奏斗らしいと思ってしまっている自分がいる。
「ただ俺は……ちょっと、その。誠実さに関しては約束できない」
「は?」
「先に言っておく」
謎のカミングアウトをし、結菜の手を掴むと再び歩き出す奏斗。
「ねえ! やっぱり美月さんと何かあった?」
奏斗の背中に問いかけるが、彼は黙ったままだ。
──なにか……されたのかな?
隣に並び奏斗を見上げれば、彼は思い詰めた表情をし前を見つめていたのだった。
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