3 噂とは異なる彼
結菜
1 女は決断力?!
『脳は0.5秒で恋をする』
そんなことを言っているのを、以前TVで観たことがあった。
それはきっと、一目惚れのことを言っているのではないかと思う。
結菜は学習机に頬杖をつき、白石奏斗から貰った黒猫のストラップを眺めていた。あの日、あの場所で彼に出会ったのは、ただの偶然。
派手な見た目に反して純情で、ぶっきらぼうなのに優しくて、イケメンだけど奢ってなくて。繊細で真面目でセンスが良かった。
その上、元カノは美少女……。
そこで結菜は項垂れた。
どう考えても負け戦だ。
奏斗をじっと見ていた彼女の様子を思い出す。
あれはどう見ても、まだ未練があるに違いないと結論付けて、さらに落ち込んだ。
しかも奏斗が一途に思い続けた相手。今でも両想いなら、入る隙などないのではないか?
けれども初めての恋なのだ。簡単に諦めたくはなかった。
どうせなら頑張って、納得した上で終わりにしたい。
「後悔役立たずって言うしねえ……」
何かちょっと違う。
結菜は机に突っ伏すとスマホに視線を移す。
『協力してくれてありがとな。何かあった時のために、連絡先交換しないか?』
別になにもなくても連絡くれても良いけれどと、彼は付け加えて。
もちろんそれには結菜もOKはした。
またとないチャンスだったから。
「何もないのに連絡するって無理じゃない?」
なにもなければ進展はしない。仲良くなることもできない。
分かっているのに、一文字も打てないでいる。
「ハードル高すぎだよ。世の若者はどうやって連絡とっているの?!」
結菜は額を机に打ちつけた。
当然のことながら、痛い。
──わたしも一応、若者……なんだけれど。
顔を上げ、チラリと姿見の方へ視線を向ける。
そこにはギャル系と言われる容姿の自分が映っていた。
こんな見た目だが、彼氏いない歴=年齢の女子大生だ。
軽くみられる為、ロクな男が寄ってこないのが難点。結菜のことを良く知っている友人がいつも彼らを追い払ってくれる。
親友と呼べるような相手がいれば、相談もできるのだが見た目のせいでこれまた系統の違う女子しか寄ってこない。
──でも好きなの! この格好が。
奏斗も見た目のせいで苦労したということを知って、親近感が湧いたのは事実。きっとわかり合えることも多いに違いない。
「そういえば、妹さんがいるって言ってたなあ」
結菜と同じく黒猫のシーズを愛してやまない妹が。
「申し訳ないけれど、ここは味噌汁にすべき?」
それを言うなら、
結菜は思い切ってメッセージアプリを開く。
奏斗のアイコンが本人の写真だったため、一瞬悶絶した。
IDを交換した時のことを思い出す。
「アイコン、写真なんだね」
「あ、まあ。別に知っているの家族と高校時代からの友人くらいだしな」
アイコンについて指摘をすると、彼はそんな風に言った。
彼のページとなる部分は、彼に似たちびキャラだ。それは妹が描いてくれたらしい。
「初めは景色とかにしていたんだけれど、誰だかパッと見分からないって不評だったから自分の写真にした」
その写真も妹が撮ったという。
──凄く仲の良い兄妹なんだなあ。
結菜は一人っ子だったため、その感覚がつかめない。
初めは怖いという印象しかなかった奏斗。だが実際は違うと知って、今は良く見えてしまう。きっと妹にとっても優しい兄なのだろうと想像する。
妹の話題を出せば、自然に話せるかもしれない。
──妹さん、どんな子なんだろう?
「よし。女は決断力って言うし」
結菜はグーのポーズを作って覚悟を決めるが……やはり何か間違っている。
「えっと……」
結菜は奏斗へ向けて、『先日はありがとう。楽しかった。妹さんも黒猫シリーズが好きって言っていたけれど、どんな子なの?』
と三つに分けて打ち込んだ。
するとすぐに返事が来る。
『こちらこそ。変な奴だけれど、見る?』
見た目が変なのか? と思っていると写真が一枚添付された。
それはどう見ても可愛らしい女の子だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。