2 嵐の爪痕
映画の登場人物にでもなったかのような、大人の恋愛。
花穂は奏斗とつき合う以前、男をとっかえひっかえしていたと聞いた。
それなのに、彼女にとって奏斗は『初めて』の相手。
執着しない相手を探していたのかも知れないし、後腐れなく遊べる相手を探していたのかもしれない。
──俺はそんな風に割り切れない。
約束通り終わりを告げた恋愛関係に対し、虚しさを感じているのは自分だけなのだろう。
消せない連絡先。
彼女は当時交際していた相手の義姉。だから会おうと思えば容易い。
どんなつもりだったか聞いたところで、満足する答えなんて返ってくるわけない。それなのに彼女とのことが今もなお、自分を蝕み続ける。
見た目のせいで軽く見られるから、真面目に生きてきたはずだった。
少なくとも遊びで『あんなこと』したいと望んだことはない。
男なら……後腐れなく遊べる美女がいることは、喜ぶべきなのかも知れない。だが奏斗はそんな価値観持ち合わせていないし、そういう偏見が何よりも嫌だった。
──あの関係に意味を求めているのは自分だけ。だからこんなにも引きずって、自分を赦せないでいる。
俺はバカだ。
恋愛関係に疲れを感じ、そういうことから遠ざかろうとした。それなのに、今の自分は以前よりもずっと面倒なことになっている。
意思が弱いのが駄目なのか、それとも罪悪感を抱えているからこうなってしまうのかわからない。
どうして友人関係では駄目なのだろう。人間として正しく生きたい。そう願っているだけなのに。
ブルッとポケットの中のスマホが振動し、気だるい気分のままそれを尻のポケットから取り出す。
『本屋に行きませんか?』
それは結菜からのメッセージ。
奏斗は優しい気持ちでそれを眺める。
結菜との関係は楽でいい。
恋愛初心者の彼女は簡単に肉体関係なんて持ち出さないだろう。
そう考えると、少しだけ気が軽くなるのだ。
奏斗は自分の居場所を伝えると、中間で待ち合わせしないかと持ち掛ける。
自分が今望んでいるのは、少なくとも『大人の関係』ではない。
子供みたいな優しい愛で良い。
同じものを見て考えて、刺激し合えたらそれで幸せだと思う。
『互いに歩きなら歩幅が違うから奏斗くんを待たせることになるけど、いい?』
と言う結菜からの返事。
見た目はギャル系なのに、真面目で天然の結菜。確かに彼女の身長は高い方ではない。
奏斗は足の長さのことまでは考えてなかったなと笑いながら、
『じゃあルートを送って』
と返信する。
するとすぐに地図が送られてきた。
結菜ならこの辺に詳しいだろうか?
そんなことを思いながら奏斗は歩き出す。
先日、愛美から受けた性的奉仕。
なんでこんなことをするのだろうと複雑な心境になった。
自分に対し『性的欲求を求められる』ことに嫌悪し、そのため男が苦手だった彼女が。
自分は特別などとは思えなかった。
──愛美にはあんなことはして欲しくない。
それが理想でエゴだとしても。
それなのに、制止することができなかったのは罪悪感と申し訳なさによるものだった。
この先の自分に愛美とヨリを戻すという選択肢はない。
彼女が悪いわけではない。
これは自分の問題で、自己都合。
愛美に導かれて欲情する奏斗を彼女は恍惚とした表情で見つめていた。
どうかしていると思う。
気が変になりそうだった。
欲望に従いそうになり、それをなんとか理性で抑え込む。
理性を失いたくはない。自分は人間でいたいと思った。
──愛なんてなくてもできると知ってしまったから、余計に愛美とはしたくない。彼女は穢れなきままでいて欲しい。
それがどんなに身勝手な願いだとしても。
今は……まだ。
旅行の約束をしている。
そこで彼女が何を望んでいるのか気づいていた。
覚悟はできないだろう。
しかしその時が来たら、覚悟を決めなければならない。
彼女の願いを叶えることが、唯一自分にできる償いだから。
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