2 自分勝手な愛
「奏斗」
夜、彼女と会っていたという奏斗を愛美は自宅へ呼び出した。
逆らえない彼。
欲しいのは心。望んだ形にならないのは、辛いところだがゆっくりとこちらに向ければいいと思っていた。
力の差は歴然。
それでも逆らわないのは、彼の意思。
そう自分に言い聞かせ、愛美は奏斗の襟元を引き寄せ口づける。
だが、彼がどうして素直に受け入れるのかわからない。
前回のことで諦めてしまったのか、愛美が何をしても彼は拒まなかった。ただ静かに愛を受け入れて、瞬きする。
その瞳がまるで、
『満足した?』
と言っているように思えて、余計に夢中になった。
自分はどうかしていると思う。
無抵抗な彼に性的なことを一方的に望む。
彼が自分から求めるまでやめはしないだろう。
奏斗はそれを覚悟したうえで、会いに来ているに違いない。
それは愛ではない。
きっと後悔。
それでも良いと愛美は思った。自分がしていることは、自分勝手で自己中な愛。そんなことは百も承知。
彼が望まない限り、バッドエンドのその先へは進めない。
「
思い切って愛美は彼に問う。
「悪くないよ」
それは下手ではないということだろうか?
「でも、そんなにじっと見つめられるのは、恥かしい」
「うん、ごめんね」
自分の手の中で彼が熱を放つ様子をじっと見つめてしまうのは、優越感があるからだ。
奏斗は彼女とこんなことはしない。もちろん、その先も。
──キス、くらいはしたのかな。
考えると落ち込んでしまいそうだ。
これが良識に反することでも、法を犯しているわけじゃない。
恋愛関係は互いの信頼関係のみで成り立つ。
だが、この行為が彼女への裏切りなのは変わらないだろう。
愛美は奏斗の首に両腕を絡めると、彼に口づけた。従順に従う彼。その手をゆっくりと愛美の背中に回す。
あの時間違った選択をしなければ、その先へ進めたはずなのに。
何度後悔しても後悔し足りない。
奏斗とこんな風になって、一人で泣いた。どうして手に入らないのだろうかと。拒まないのは何故なのだろうか? 罪の意識からなら、ただ悲しいだけだ。ほんの少しでもいい、自分のことを好いてくれていたらいいのにと思う。
「愛美」
彼の手が背中を伝い、腰に回る。
奏斗が嫌な奴だったなら、どんなにか良かったろうと思った。
「夜景でも観に行こうか。気分転換に」
「気分転換?」
「うん」
優しく微笑む彼の瞳をじっと見つめていたが、腰に回った腕が震えていることに気づいた愛美は、自分がしていたことが無駄ではなかったことに気づく。
愛美は一方的に快楽と言う名の愛を奏斗に与えていたつもりであった。
いつかその理性が崩壊して、自分に愛欲が向くことを願って。
もちろん、彼が簡単に理性を手放すことがないことくらいは分かっているつもりだ。だからこれは長期戦になるだろう。
しかしそのタイムリミットは、奏斗が『大川結菜』と一線を越え、身体の関係になるまで。それまでに自分に向けなければ勝機はない。
それなのに、彼は既に崩壊しそうな理性と戦っていることに気づく。
「気分転換が必要なの?」
意地悪な質問だと思った。
だが彼は、一瞬驚いた顔をしただけで、
「うん」
と答える。
「手放しても良いのよ? 理性なんて」
”わたしはそれを望んでいるのだから”と彼の耳元で悪魔の囁き。
「そんなわけにはいかないよ」
ため息をつきながら、愛美の髪を撫でる手。
「どうして?」
好きな人と一つになりたい。自分はそれを望んでいる。
「どうしてって……そんな無責任なことはできないよ」
「だったら、彼女と別れてわたしと付き合えばいい」
人のものを奪ったところで幸せになんてなれはしない。分かっているのに彼に執着し続ける自分はバカなのだろうか?
──ただ、奏斗が好きなだけなのに。
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