ラスボス戦(1)

 

『認証確認』

『コード001、プロトタイプスーツ』

『出撃しますか?』

「しゅ、出撃?」

千代花ちよかちゃん! 『はい』と答えて!」

「は、はい!」

 

 どっちかというと、機械音声ではなく俺に対して『はい』と言ってしまったように見える。

 だが、返事は返事。

 音声は『了解しました』と言って壁を二つに割っていく。

 自動で左右に移動していく壁にあんぐりと口を開けっぴろげにする真嶋ましま墨野すみや

 気持ちはわかるが、このビルがそもそも地面に生えたり沈んだりしていることをかんがえると、もうこの施設最初からやべーだろう。

 それに壁が左右に割れたところで、まだ外への扉が出現しただけだ。

 今度は十角形の巨大な扉がガタガタ音を立てながらロックを解除させていく。

 ゲームの時は「三つ巴やゾンビが逃げないようにするにしても、ちょっと厳重すぎじゃねぇ?」とか思っていたが、ここでしていた研究を思うとこれでも足りないのだろう。

 だからここでラスボスが出てくる——!

 

『ビーーー! ビーーー! ビーーー!』

『出撃指令未承認を確認。着用者未登録。脱走者、または敵性と判断。排除を推奨します』

『エースタイプ、敵性存在を排除開始』

「っ」

 

 来た。

 扉の前の床が開き、下から出てきた千代花ちよかと同じ形、黒い色のパワードスーツ。

 今思えば“中”になにが入っていたのかはわからない。

 

『排除、執行開始』

「負けるわけにはいかない。私は、高際たかぎわさんと……みんなとここを出る!」

 

 ラスボスバトルがついに始まった。

 俺の言ったことを理解している千代花ちよかは、一気に距離を詰めて武器を奪い取りにかかる。

 だが、敵も素早く距離を取りながらハンマーを振るう。

 その時、違和感を持った。

 距離を一定間隔以上詰めようとする時の避け方。

 千代花ちよかが攻撃を仕掛けた時の避ける角度。

 蹴りで応戦する時など、その戦う姿は——千代花ちよかそのもの。

 

「全然当たりませんよ……! 大丈夫なんでしょうかっ」

「な、なあ、千代花ちよかが負けたら、次は俺たちなんじゃないか? に、逃げた方が良くないか?」

墨野すみやが逃げたいのなら逃げてもいいけど、俺は残るぜ」

「僕も残りますけど」

「マジかよぉ」

 

 俺たちを共犯にしようとするんじゃないよ。

 本当にケツの穴の小さいマッチョだな。

 

「それよりも敵の戦い方、千代花ちよかちゃんにそっくりだな」

「あ、そうか。既視感があったんですけど、それが理由だったんですね。同型機だからでしょうか?」

「同型機っつっても、なんかまるでコピーでもしたみたいじゃないか? ゲームでも思ったけど……」

 

 当時の俺のプレイヤースキルでも倒せたから、あまり深く考えたことはなかったが、実際目にしてみると違和感がすごい。

 千代花ちよか千代花ちよかと戦っているみたいなのだ。

 なんというか手の動き、足のはらい、身の捻り方、避け方、指先の動き一つ一つまで本人そのものであるかのようで——あ。

 

「そうか! ゲームの中で研究者たちが千代花ちよかを戦わせようとしてきたのは、このためか! 千代花ちよかの戦闘データを“アイツ”にダウンロードするため!」

「え! そ、それって、あのラスボスは千代花ちよかさんの戦い方を学習しているってことですか!? じゃあ、千代花ちよかさんは本当に自分自身と戦っているようなものじゃないですか!? ……ほ、本当に勝てるんですか!?」

「っ」

 

 そうか、千代花ちよかがパワードスーツのパーツを増やすごとに好戦的になっていったのも、データ収集のために戦わせるためか。

 気づくの遅ぇ〜、俺!

 だが、そうなると千代花ちよかが予想しない出来事にはラスボスも弱いはずだな。

 千代花ちよかが予想できない事態——。

 

「賭けだな」

高際たかぎわさん? な、なんで剣を持つんですか?」

「あんまり近接はしたくないんだけど」

高際たかぎわさん? ちょっと!?」

 

 先程から、一度も千代花ちよかは武器奪取の接近にすら成功していない。

 ここいらでテコ入れする必要がある。

 腹を括れ。

 千代花ヒロインに媚びてこその『おわきん』だろう?

 ゾンビから奪った剣や斧は結構持ってきているし。

 問題は間合い。速度。

 

「——なら、斧かな」

高際たかぎわさん!?」

真嶋ましま墨野すみやはここにいてくれ」

「た、高際たかぎわさん、本当になにするんですか!?」

「注意を逸らすだけだ。大丈夫」

 

 斧を二本持ち、走り出す。

 二人を巻き込まないように距離を取ってから、千代花ちよかが反対側にいる瞬間頷いてみせる。

 俺が“舞台”にいるのに、これで気づいただろう。

 左足を軸足に。右足をやや後ろに。右手の斧を大きく背中に振りかぶる。

 角度は斜め上へ。手首を目一杯後ろへ。

 からの——ぶん! 投げる!

 

「チッ、やはりセンサー付きか」

 

 せっかくぶん投げた斧が緩い円を描きながらラスボスに飛んでいくが、簡単にハンマーでへし折られた。

 けらど、その一瞬がほしかったのだ。

 攻撃を感知して俺を振り返ったラスボスだが、俺みたいな雑魚に構ってる暇、お前にはないだろう?

 


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