地下へと進むために


 パワードスーツのパーツの残りは上半身胴体と下半身。

 つまりあと二つだ。

 確か上半身のパーツから、頭部パーツが出てきて頭を守ってくれるようになる。

 上半身のパーツは最下層。

 ボス部屋の直前だったはず。

 パーツの部屋へ行くのに、研究員たちの異様な罠があったんだよな。

 ああ、胸糞悪いやつな。

 

「全部で地下何階あるんですか?」

「えー、何階だったっけかな? 意外とそんなに深くなかった気がする……えーと……確か……あ、そうだ。地下五階だ!」

「え、あと二つですか?」

「そ、そらなら地下を目指した方がいい、か?」

 

 地下四階に下半身パーツがあり、五階が最下層となる。

 ボスを倒してボス部屋を抜けると山道のような場所に出て、そこから町が見えるのだ。

 その町を攻略対象と見下ろすのが、エンディングスチルだった。

 ここは三階なので、真嶋ましまの言うとおりあと二つの階。

 もちろん、ホラゲの二階層なんて危険と隣り合わせで安全性など一切保証できない。

 なんなら『おわきん』は積極的に攻略対象を殺しに来るしね。

 

「時間をかけて、ゆっくり進みましょう。敵は無限に出てくるわけではないんですよね?」

「ああ、地上のゾンビはキャンプ場の客だっただろう? 地下も同じで、おそらくなにかの研究の犠牲者で、ゾンビ化した原因が進行しているから強いけど倒したあと灰のようになって消える」

「では、一層一層敵を殲滅してから真嶋ましまさんと墨野すみやさんを下ろしていきましょう。お三方には階段で待っていてもらい、私がその階層を探索して敵をすべて倒します」

「いや、でも」

「それが最善で、最速です。全部倒しちゃえばもう出てきませんし!」

 

 超脳筋なんだが!?

 

「それでどうでしょうか」

「う……うーん……ま、まあ、とりあえずやるだけやってみよう」

「ありがとうございます、高際たかぎわさん! 墨野すみやさんと真嶋ましまさんも、それでいいですか?」

「わ、わかりました」

「俺も……それなら……」

 

 そもそもお前らは見捨てられても不思議じゃないんだけどな。

 千代花ちよかの優しさに感謝しろと言いたい。

 それなのに、嬉しそうな千代花ちよかが「では地下に進むことに決まりですね!」と言うから口を挟む気にもなれなかった。

 俺は本当に、彼女が笑うならそれでいいと思うようになっているのだ。

 

千代花ちよかちゃん、頼みがある」

「は、はい。なんでしょうか」

「このパイプ椅子の脚を一本折ってくれ。武器がなにもないのは、やっぱり不安だ。他にもゾンビが持っている武器は、回収してきてほしい。多分使えるものが中にはあるはずだ」

「なるほど……! わかりました」

「どれもこれも錆びてはいるが、鈍器としては使えるだろ。千代花ちよかちゃんと必要になったら容赦なく使えよ」

「はい」

 

 と、いうわけでようやく俺も尖った鉄パイプという武器を手に入れた。

 椅子の脚なので鉄パイプにしてはとても短いけれどな。

 本当は銃がよかったけど、贅沢なこと言ってる場合じゃない。

 あとはゾンビたちの持っている錆びた剣や斧。

 生身でゾンビと近接戦闘なんざ絶対無理なんだが、それでもないよりはいい。

 気休め程度にはなる。

 

「では、この階を探索してゾンビを殲滅してきます」

「気をつけてね」

「はい、高際たかぎわさんも」

 

 ほんの少しだけ照れた顔をされて、なんとも言えない気持ちになる。

 まあまあ、うまいこと攻略されて、無事に生き延びれればそれでいい。

 この『おわきん』はヒロインに攻略されないと生き延びられないのだから。

 足をやられた真嶋ましまの代わりに、右腕の動く墨野すみやとバリケードを入り口に構築する。

 殲滅までいかずとも、地下への階段までのルートにいる敵性クリーチャーどもを減らしてくれれば安全性は高まるからな。

 

「二人はとりあえず眠って体力を回復してくれ。寝てれば痛みもわからないだろう」

「す、すまねぇ」

「痛くて眠れそうにないです」

「目を閉じてじっとしているだけでもいい。傷薬はあちこちにあるはずだから、またすぐ手に入る」

「うう、わ、わかりました」

 

 時折聞こえてくる化け物の呻き声や悲鳴、物音。

 部屋の電気はついていないから真っ暗。

 その代わり、バリケードの奥の廊下では点滅する蛍光灯。

 怪我をした二人を隠すように横たえたテーブルに背中をつけて、鉄パイプを握りしめる、

 なにかを引きずるような音とゾンビの足音。

 息を殺してやり過ごすのを数回。

 どれだけ待っていればいいのだろう。

 やたらと長い時間こうしているような気がする。

 

『あぁう』

「——っ」

 

 バリケード越しの廊下に、ボロ布を纏ったゾンビが一体立ち止まった。

 気づかれたか?

 鉄パイプを握り直し、ゾンビを睨みつける。

  

「たぁ!」

『ぎあ!』

 

 ぐしゃ、とバリケードの隙間からでも千代花ちよかがゾンビの頭を蹴り潰すのが見えた。

 もはや見慣れてしまったグロ映像。

 血飛沫も瞬く間に黒い灰のようになって消えていく。

 

千代花ちよかちゃんっ」

「すみません、粗方始末したと思っていたんですが……」

「いや、助かったよ。君は大丈夫だった?」

「はい。比較的ゆっくりと探索できるようになっているはずです」

「そうか、わかった」

 

 じゃあ、可哀想だけど墨野すみや真嶋ましまを起こすか。

 安堵の溜息を吐いて、立ち上がる。

 やべえ、震えとる。

 自分が思っていたよりも緊張していたことに気づく。

 

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