迷宮制覇

 

「では、ラスボスはどんな敵なんですか?」

「ラスボスは——ヤバかったね。女の人、なんだけど……千代花ちよかちゃんが着ているのと同じパワードスーツなんだ」

「っ!」

 

 DLC版をやってないから謎すぎたラスボスなのだが、先程の研究者の話を聞いた今だとあれがこの施設の——そして今回の事件を引き起こしたウイルスを研究していた組織の長だったのではないか——と察することができる。

 今考えてもDLCやってないと正体がわからないラスボスとか『おわきん』ダメが過ぎるぞ。

 そしてラスボスらしく、強い。

 千代花ちよかと同じパワードスーツを着ている時点で、今までの敵とは比べ物にならないほど強い。

 

「しかも千代花ちよかちゃんが持っていない、ハンマーの武器も持っている。ぶん回してくるし、片方は尖っているからモロに食らうとパワードスーツが破壊されるんだ」

 

 柄の長いハンマーで近接戦闘しかできない千代花ちよかは、どうしても苦戦してしまう。

 しかもパワードスーツが破壊されていく。

 せっかく完成させたばかりだというのに。

 クソだろ。

 本当に初見であれはクソだった。

 

「す、すごく強敵ということですか」

「ああ、ラスボスらしく本当に強いぞ。俺から言えるのは——ハンマーはとにかく避ける。戦闘中何度か取っ組み合うモーションが発生していたんだが、その時武器を奪えるんだ」

「武器を奪えるんですか!」

「うん。それで戦わないと勝てない」

 

 掴み合い、拮抗した時にボタン連打で武器奪取。

 それで戦うのが唯一の攻略法だ。

 

「でも同じように拮抗した時に奪い返されたりもする。そこは注意かな」

「武器が鍵なのですね」

「うん。奪う時はなんとか接近しなければいけないけれど、奪ったあとはとにかく接近させない。できる限り間合いを取りつつハンマーで相手のパワードスーツを破壊して倒す。でも、戦闘スタイルは千代花ちよかちゃんと同じ高速格闘でもあるから、一気に接近されることもある。相手の動きに注意して」

「わかりました。……緊張しますね」

「うん。今までの敵とはレベルが違うもんね」

 

 あのラスボスはマージで強い。

 そしていつも通り攻略対象たちはなんの役にも立たないので、後方待機。

 頷き合い、気合を入れて迷路を進み始めた。

 足を怪我している真嶋ましまには、時々休んで三階と四階で見つけた傷薬をかけて熱を取る。

 千代花ちよかのボス戦のために、八個は残しておきたい。

 

「あの、高際たかぎわさん」

「ん? なんだ? 真嶋ましま

「ボス戦を超えたあとも、外に出ると軍隊に襲われるんですよね? 僕たち、本当に無事に外へ出られるんでしょうか?」

 

 手当を終えてから、脂汗の滲んだ真嶋ましまが不安そうに言う。

 痛むんだろうに、その不安の方が今は強いのか。

 

「まあ、ゲームでは無事に出られたしな。俺を信じられないのなら、別にお前と墨野すみやは上に戻ってもいいんだぜ」

「い、いえ。僕は……僕も高際たかぎわさんを信じます。ずっとあなたは冷静で、みんなを支えてくれたんですから。高際たかぎわさんと千代花ちよかさんのおかげで生き延びられている。だから僕は最後まであなたたちに命を預けます」

「ま、真嶋ましま……」

 

 ああ、そういえば墨野すみやが四階で襲われた時、真嶋ましまは眠っていたんだっけ。

 だから、墨野すみや千代花ちよかに暴言を吐いたのを知らないのか。

 知らないのに、そんなことを言うのか。

 墨野すみやの居心地悪そうな顔。

 肩に真嶋ましまの腕をかけて、立ち上がるのを手伝ってやる。

 

「じゃあ、頑張って生きて出ようぜ」

「はい」

 

 ここから出たらなにがしたいか、とか、話した方がいいんだろうけど……ホラゲでその話題は死亡フラグだ。

 誰一人口を開かないまま、曲がり角があった時だけ俺が指示を出して迷路を進んでいく。

 たどり着いたのは最後のパワードスーツパーツの部屋。

 

「これを取ったら……どうなるんですか?」

「ボス部屋への通路が開くんだ。でも取っただけじゃ開かない」

「え、そうなんですか? えーと、それじゃあどうすれば……」

「とりあえず全部着てみて」

「あ、はい」

 

 ついに完成する千代花ちよかのパワードスーツ。

 胴体上半身。

 着ると頭の部分が自動的に出現して、フルフェイスマスクが千代花ちよかの顔を覆い隠す。

 うわあ、カッケェ。

 カッケェけど、乙女ゲームであること忘れるなぁ。

 

「か、かっこいいですね、千代花ちよかさん!」

「うんうん、かっこいいな」

「……」

 

 墨野すみやだけノータッチだが、千代花ちよかは俺と真嶋ましまが褒めちぎるので照れている。

 背中から羽みたいなブースターも出てきて、いやー、ほんとジャンルをどうしたいんだ『おわきん』。

 

「完成したスーツで、そこの部屋の中央にある色の違う床パネルに乗ってくれ」

「あそこですか? わかりました」

「俺たちは部屋の入り口に行くぞ。ラスボス戦が始まるからな」

「は、はいっ」

千代花ちよかちゃん、気をつけて!」

「はい!」

 

 すごく頼もしい返事を聞いて、俺たちは部屋の入り口のスペースに移動する。

 俺たちの安全を確認した千代花ちよかが、部屋の中央よりさらに奥の壁際にある黄色い床へと向かう。

 その床に千代花ちよかちゃんが乗ると、蛍光灯の色が変わる。

 やや青白いライトが四方八方から千代花ちよかちゃんの姿を照らす。

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る