ラスボス戦(2)

 

「もらった!」

「よし!」


 千代花ちよかが敵からハンマーを奪い取る。

 そしてすぐさま攻撃に転じた。

 奪った瞬間に回転させて、腹部分を砕く。

 ナイスヒット!


『ジジ……』

高際たかぎわさんは戻って、ください!」


 続けて二撃。

 腰と右膝に一撃ずつ入れて、ラスボスが体勢を崩した。


千代花ちよかちゃん! 頭だ!」

「はああああああっ!」


 左足をハンマーの柄で払い、跪かせてから千代花ちよかはラスボスの脳天を尖った方で叩き砕く。

 クリティカルヒットォ!

 あまりにも綺麗に入ったので、俺のテンションまで上がってしまう。


「はあ、はあっ……た、高際たかぎわさん! なんで無茶をするんですか!」

千代花ちよかちゃん! まだ油断するな!」

「え」


 だが、まさか千代花ちよかが俺の方を振り返るとは思わなかった。

 ラスボスは、他の敵より強いからラスボスなのだ。

 千代花ちよかを背中から抱き締めて、そのまま締め上げ始めた。


「ううっぐああああっ!」

「くっ!」


 俺もあのモーションは初めて見る!

 千代花ちよかのパワードスーツがひび割れる音を上げるほど、強い力。

 そんな状態が続いたら、さすがの千代花ちよかも潰される。

 駆け寄って千代花ちよか顔としたハンマーを拾い、ラスボスの背後に回ってハンマーを振り上げた。

 俺の力でラスボスの耐久性を貫通できるとは思わないが、俺しかいないだろう。

 狙うのは——


「離せ!」


 頚椎!

 肩部分の関節、腕への力を伝達する部分にも近く、重要機関がある可能性も高い。

 衝撃があるだけでも防衛機能が働くだろう。

 そう思ったが、千代花ちよかが先に入れていた脳天への一撃のおかげで頭のヒビが頚椎まで下りてきた。

 脆くなっていたんだろう。

 それにしても俺の力でもここまでダメージ食らうって千代花ちよかの一撃重すぎでは? 怖。


「た、か、ぎわ、さん!」

「パス!」

「はい!」


 突き出した柄を、千代花ちよかとラスボスが同時に握る。

 だが、千代花ちよかが思い切り振りかぶったのでラスボスは完全に握ることができなかった。

 千代花ちよかの左足が床に埋まる。

 身を回転させ、俺が離れるのを見計らったかのように右側からハンマーがラスボスへと叩き込まれた。


「セイ!!」

『……!!』


 まるで野球。

 ホームランって感じの振り。

 あの力で、あの武器で、あの勢いで。

 元々崩れかけていたラスボスの体が、今度こそ地面に転がった。

 中身は機械人形。

 エラー音が延々と繰り返される。

 最後にボフン、と煙を立てて小規模な爆発をした。

 持ってきていた斧をもう一度拾って、ラスボスの部品を散らす。

 あ、あった。多分これだ。


高際たかぎわさん! なんであんな危ない真似を——」

千代花ちよかちゃん、これ」

「な、なんですか? これ」


 ボスの体から出したのは、一見するとバリカン。

 いや、レジのバーコードリータ読み込み部位みたいなやつ。


「多分これでパワードスーツを解除できると思う。持って行った方がいいだろう」

「……! 脱げるんですか!?」

「うん。あとはこれだな。エネルギーパック」

「エネルギーパック?」


 持ち上げたのは比較的小さな三十センチ×十五センチ代の長方形。

 薄くて軽いが、充電できるようになっている。

 エネルギーパックとは言ったが、もっとわかりやすく言うと乾電池だ。

 この激強ラスボスを動かすほどのエネルギーが入っている。

 ちょっと信じられないよねぇ。

 千代花ちよかのパワードスーツもそうだけど、これをつけて持っていけば色々融通してもらえるかもしれないよね。


「まあ、このロボットの乾電池みたいなもの。救助してもらう時に手渡せば、楽に交渉できるかもしれないだろう?」

「できるのでしょうか……?」

「とりあえず扉は開いたしね」

「あ」


 ラスボスを倒したことで、ついに外への出口が開いた。

 太陽がやや傾き始めている。

 だいたい午後三時半から四時って感じだろうか。

 それにしても、と息を吐き出す。

 今更震えてきた。

 まだ終わりじゃないっていうのに、その場に座り込んで盛大に息を吐き出す。


高際たかぎわさん、大丈夫ですか? ……ホンットに驚いたんですよ!? 急に近づいてくるから……!」

「ああ、うん、ごめんね。でも、敵の虚を突くには俺が動くしかないと思ったんだよね」

「っ」


 実際ラスボスは思いも寄らなかったんだろう。

 攻略対象たちは戦わない。

 ゲームでも、そして今までもそうだった。

 俺もできればやりたくはなかったよ。

 普通に怖かった。


「……まあ、あと、その……」

「?」

「す…………好きな女の子がピンチだと、なんか、あんまり、深く考えないっていうか……か、体が、無意識に動いた、というか……」

「っっっ」


 本当に我ながら、なにも考えなかった。

 体が先に動いていたのだ。

 特に最後。

 高際たかぎわの体に感謝しかない。

 程よく鍛えておいてくれたおかげで、比較的ゲーム内のような動きが再現可能だったのだから。

 前世の俺の体だったら無理だった。

 今後も程よく鍛えよう。

 筋肉は本当にだいたい解決する。

 筋肉があっても本人にやる気がなければなにも解決しないけどな。




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