駐車場


 見つかる前にビルを迂回して、遠回りになってでも数の少ない方へ、と思ったが真嶋ましまのやつが俺に賛同しつつやってくれやがった。


「うわあ!」


 迂回先に先回りしようとでもしたのか、でかめの木の枝を踏み、足を取られて尻餅をついた。

 それだけでなく、悲鳴までも。

 ドサァ!とかなりいい音が響く。

 せっかく小声で話していたのに、なんの意味もないー!

 さすが公式トラブルメーカー野郎!


「あぁ」

「うぅ、あぁ、ぅ」

「うあああぁ」


 ゾンビたちの目が光る。

 一斉にこちらを見た。

 やべぇ、なんだあれ、めちゃくちゃ怖ぇ。


「私が!」


 両手に装着したアーム兵器を展開すると、前へ出る千代花ちよか

 けど、序盤のゾンビは動きが遅い。


「待て、戦う必要はない! 走って逃げるぞ!」

「で、ですが……」

「よく見ろ、向こうは多分走れないタイプのゾンビだ。こっちが走れば逃げ切れる。ビルを迂回して、キャンプ場の入り口へ行けるはずだ。相手の動きは遅いから、暗がりで近付かれないように気をつけよう。行くぞ、こっちだ」

「は、はい、そうですね」

真嶋ましま、お前は足元に気をつけろよ」

「はい、気をつけます」


 割とガチめに注意したが、響いてなさそう。

 足の遅いゾンビたちを振り払い、ビルを大きく迂回してキャンプ場の入り口を目指す。

 しかし、俺はストーリーを知ってる。

 キャンプ場の入り口は閉じられており、登って逃げるのは不可能。

 しかし、ここで重要なアイテムを手に入れることができるので無視して進むことはできない。


「そんな……!」

「入口が閉鎖されていますよ!? どうなっているんですか!」

「落ち着くんだ、二人とも。こうなっていることは予想できただろう」

「よ、予想だと!? できるわけないだろう! 車は見えるんだ、よじ登って——」

「無理だ。目を凝らしてよく見てみろ。車体が下がっている。……パンクさせられている」

「! ほ、本当だ……」


 脳筋墨野すみやがフェンスに手をかけるが、暗がりでも駐車場の異様さがわかる。

 中にはタイヤを外されているものまであるぞ。

 散らばったタイヤは、潰されてており、大きめのキャンピングカーは天井がへこまされているものまである。

 鉄球の重機でも持ち込んだのかって感じだ。


「だ、誰があんなことを……」

「俺が知るわけない。けど、駐車場から出るのも危なさそうだな。他の脱出ルートとなると、駐車場と真逆の方向にある沢に沿って山を下るしかない、か? けど、あっちにもフェンスがあったはずだよな」


 とりあえずストーリー通りに話を進めておく。

 俺はここで手に入れられるアイテムが早くほしい。

 次の脱出経路を話し合うのも大切だし。


「フェンスなら、私のこの兵器でなんとかなるかもしれません」

「そうですよ! 鬼武おにたけさんにフェンスを破ってもらいましょう!」

「確かにそれなら逃げられるかもしれないが、俺たちを追いかけてゾンビまでキャンプ場から逃げ出したらどうするつもりだ? 町にゾンビが一匹でも入れば、感染が広がるんだぞ」

「「「あ」」」


 あったなー、バッドエンディングに。

 そういうルートが。

 無事に逃げ出せたが、フェンスを破壊したせいでゾンビが町に入り込み、瞬く間に感染が拡大してゾンビの溢れかえる世界に変わる。

 しかも攻略対象と恋人になることもない、最悪のバッドエンド。

 つーか、本当ただのバイオハザードエンドだったわ。

 それはマジで勘弁。


「ち、小さい穴を開けるくらいなら、大丈夫じゃありませんか?」

「……もう一つ妙なことがある」

「え?」

「駐車場にたどり着いたのが俺たちだけって、おかしくないか?」

「「「あ」」」


 このパニックが開始したのは夕方だ。

 時計を見ると三時間経ってる。

 現在夜の六時。

 俺たちはビルで時間を潰してきたが、駐車場近くに最初からいた人たちはどうして逃げられなかったのだろう——っていう話だ。

 ゲームだとご都合で流されていたが、やはりちゃんとした理由はあるらしい。


「小石……? どうするんですか?」

「こうしてみるんだ、よっと」


 道端で拾った親指サイズの小石を投げつける。

 途端にバチっと高圧電流が流れた。

 暗がりでもわかるほど真っ青になる三人。

 俺も、正直ここまでするとは思わなかった。


「そんな、そんな……! こんなのどうやって逃げたらいいんですか……!」

「わ、私の武器でもダメってことですか?」

「見たところ金属っぽいから逆に感電して危ないね。ゴム手袋でもつければなんとかなる可能性も、ゼロじゃないけど……」

「キャンプにゴム手袋って持ってくるか?」

「い、いいえ」


 潔癖症な客なら持ってそうだけど、あまり持ってるイメージはない。

 っていうか、相当分厚いゴム手袋じゃないと破れたら一貫の終わりだぞ、あれ。


「逃げられないってことかよ……!? じょ、冗談じゃない!」

「俺だって冗談じゃないよ。でも、明日になればさすがに俺のマネージャーが帰ってこないことを不審に思ってくれるはずだ。このキャンプ場に来るのは教えてあるから、外からの助けを待つ方がいいと思う」

「あ、そうか! 高際たかぎわさんはモデルさんなんですよね!」

「一応明日の夕方に仕事のスケジュールが入ってるんだ。こう見えても仕事は真面目な方でね」


 なぜなら高際たかぎわ義樹よしきはチヤホヤされるのが大好きだから。

 高際たかぎわ義樹よしきの記憶を見るに、仕事は割と本当に真面目に行ってる。

 チヤホヤしてもらえるから。


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