乙女の悩み(1)
ゲームならきっと
「傷口も洗ったし、ひとまずこれでいいだろう。夕飯は諦めろよ」
「う、す、すまん。わかってる」
「
「え、一人で大丈夫なんですか?」
「あの辺りは高圧電流の流れるフェンスがあるから、ゾンビみたいな雑魚は近づいてこないんだよ。出るとしたらゾンビよりヤバいやつだな。まあ、そん時はスマホの防犯ブザーでも鳴らすさ」
「「え! スマホって防犯ブザーついてるんですか!?」」
「知っておけよ若者」
スマホによって防犯ブザーの発動方法は違うけど、俺のスマホは専用のアプリを入れてあるからホーム画面にブザーメニューが追加されている。
他のメーカーのスマホだと、電源ボタンと音量ボタンの上げる方を同時に押すとけたたましいブザーが鳴り出したりする。
さらに電源ボタンを連続で五回押すと119番に繋がったりするそうだ。
圏外でなければぜひ使いたい機能だよなぁ。
「し、知りませんでした」
「超便利機能じゃないですかっ」
「災害時にも使えるから、アプリだけでも入れておくといいよ」
「「はい!」」
女子高生と大学生に限らず、身を守る術は一つでも多い方がいいもんな。
特に
そんな話をしてから数時間後。
スマホの時計は0時を回った。
すやすやと聞こえる二つの寝息。
痛みがそれほどでもないのか、痛みが気にならないほど疲れ果てていたのか。
「
「私はまだ大丈夫です」
「ダメだよ。昼間も戦ったんだから。見張りは俺がやるし、なにかあったら起こすから寝て寝て」
「うっ……わ、わかりました」
とはいえ、作った簡易ベッドは一つだけ。
椅子を並べて、背もたれを落下防止ガードのように使い寒々しい寝方をするしかない。
しかし寝ろと言ったのに、
さっき「わかりました」って言ったよねぇ?
いや、ヒロイン
「
「すみません。でも、あの……少しだけ話してもいいですか?」
「え? 俺と?」
「はい。えっと、
「お礼……? なんの?」
「ここまで導いてくれたお礼です」
みちび……?
なんの話だ?
「いや、俺はなにもしてないよ?」
とにかく
裏切ったり、逆らったりすれば死ぬからな、『おわきん』は。
実際ごねてた
そう、攻略対象がヒロインに媚び諂う、ヒロイン至上主義の乙女ゲーム。
その中でも攻略対象がヒロインに守ってもらわねば死ぬ、ホラー要素強すぎクソゲー。
それが『おわきん』。
マジで初日の金曜日が終わってる気がしない。
タイトル通りなのがマジでクソ。
「じゃあ、私が勝手に感謝しているんです。少なくとも私だけだったらきっと……私じゃなくなっていました」
「どういうことだ?」
「よくわからないんですけど、この武器……パワードスーツが増える度に、戦うことに快感みたいなものを感じるんです。もっと戦えって、体が求めるみたいに。最初はあんなにゾンビを倒すのが嫌だったのに、今は積極的に探して倒そうとしている自分がいます。私、きっとこの力に酔っている……呑み込まれそうになっているんです」
「……っ!」
ゲームではそんな話出てこなかった。
やはりこれ、DLCネタなのでは?
くぅ、今ならいくら払ってもいいからDLCやらせろって思うー。
っていうか、物語の確信的なところをDLCにするのやっぱりせこくねぇ!?
『おわきん』やはりクソゲーだな!
いやいや、今は
スーツのパーツが増えれば増えるほど、戦うこと、命を奪うことへ罪悪感がなくなっていく?
もっと戦いたい、ゾンビを倒したいと、それ自体を快感のように感じていた?
別の意味でもクソゲー確定だが、
なんとなく、二日目あたりからゾンビを倒すことにも手慣れてきた感があったけど……。
「でも、まだ“私”なんです」
体育座りをした
黒い髪がサラリと流れ落ち、俺の視界から
言葉とは裏腹に、声はとても不安げだ。
「
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