合流
「ひっ!」
遠くで人間のうめき声のような、悲鳴のようなものが聞こえる。
森で反響して、位置まではわからないけれど。
「っ……このままここにいるのは、ヤバいよな……」
ヒロインに出会う前から死ぬのは勘弁だ。
思い出せ、思い出せ……!
確かヒロイン視点でゲームが開始して、この玄関のないビルで攻略対象達と出会うんだ。
つまり、なんとかして入れるはず。
どこだったっけかなぁ?
入ったところから四人で出てくるはずなんだ。
建物に添って歩いていると、窓ガラスがあった。
鍵が、開いている。
「ここだ」
多分、ここ。
ガラリと開けて、中へ入る。
一応ゾンビに入ってこられても嫌なので締めておくが……このガラス、妙だな。
なんとなくコンコンと叩くと、車の窓ガラスみたい。
普通のビルに使われるガラスとは、なにかが違う。
……なんだっけ、本当プレイしたのが結構前すぎて、ストーリーが思い出せない。
ヒロインがパワードスーツでゾンビをぶっ倒しまくる、無茶苦茶な戦闘が入るのは印象に残ってるんだが。
それ以外がなぁ……。
とりあえず攻略対象は生き延びるためにヒロインに縋るしかない。
俺も例に漏れず、ヒロインに媚びるしかないのだ。
階段から落ちて……夢でも見てるのかもしれないが、こんなに生々しい夢あるだろうか?
それに、どうせ夢ならなにも『おわきん』みたいなクソゲーの攻略対象時点にしなくてもいいだろうに。
それとも本当に今人気の“転生”なの?
どちらにしても冗談きついけどな……!
「えっと……確か、三階の調理室……」
ヒロインと合流して生き延びれば、元の世界に帰れるかもしれない。
そのためにも三階へ上り、調理室と書かれた部屋の中へ入る。
ビルの中は学校のようになっていて、生活スペースのような場所まであった。
その時、少し記憶が蘇る。
ヒロインと合流してから、攻略対象たちは「水と食糧確保」を提案する。
非常に妥当な考えだ。
ただし、食糧はどこにもない。
広いビルの中を探索するが、水道は止まっており保存食すら見つけることができないのだ。
見つけられるのは包帯とガーゼの入った救急箱のみ。
この救急箱、後々それなりに役に立つので持っていくのは確定として、場所がどこだったか。
「……だ、誰だ!」
「ひっ!」
「ま、待て!」
調理室を開けると、すでに二人の攻略対象が潜んでいた。
ガタイのいい刈り上げの男が
その後ろでビクビク怯えているのが
まあ、この時点でこいつらの名前をよくぞ思い出せたと言える。
俺の記憶力もまんざらでもないな。
他のことは、現地に行けば思い出せるだろう、多分。
「お、俺もキャンプに来ていたんだ。そしたら、ゾンビみたいなやつらに追い回されて。お前たちは?」
「お、おれたちもそうだ」
「僕も……。あ、僕は
「おれは
「俺は
本物の
してもヘイトを高めるだけで意味ないしな。
自己紹介を無事に終わらせ、俺たちの間には沈黙が流れる。
お互い、なんとも言えない表情。
どこから手をつけていいのか、わからない現状のせいだろう。
けど、実際なにから始めるべきなんだろう?
ヒロインが来るまで、家探しでもしておくか?
最初のこのビルにゾンビは出ないはずだし。
「あ、あの、
「え?」
そう、そうじゃん!
スマホ!
慌てて画面の割れたスマホを見ると、電源はつく。
ギリギリまで充電していたので、バッテリー残量もたっぷりだ。
だが——。
「け、圏外!?」
「やはりですか……」
「ってことは、君たちも?」
「ああ」
そう言って二人もスマホの画面を見せてくれる。
二人のスマホも『圏外』になっていた。
クッソ、外との連絡は完全に遮断されているのか。
そういえばゲームの中の敵組織が、ジャミングでキャンプ場全体を通信不能にしていたっけ。
……そうだ、組織だ。
乙女ゲーとは思えない、悪辣な組織により、ヒロインは兵器適性ありと診断されてこのキャンプ場に招かれる。
そして組織がばら撒いた失敗作の被験体により、ゾンビ化するウイルスがばら撒かれてゾンビに噛まれると感染してゾンビになってしまう。
ホラーゲームの王道みたいな設定だが、ヒロインがどんどん乙女ゲー離れした装備品を手に入れて、怪物をバッタバッタと薙ぎ倒して無双するのが『おわきん』の特徴だ。
俺たちはそれに巻き込まれた、被害者。
とはいえ、現状ヒロインと合流してヒロインに戦ってもらいながらキャンプ場を出る以外、生存の道はない。
やるべきことは、なにも変わらないのだ。
「い、いったいなにが起こっているんだ……。さっきの怪物みたいなやつは、まさか、ゾ、ゾンビじゃないよな?」
そう怯えながら呟くのは
元自衛官で現役消防士のはずなのだが、やはりゲーム通りに臆病な性格らしい。
俺と同じ転生者なのでは、と思ったが、二人はそんなこともないのか?
「僕もゾンビに見えました。でも、まさかですよね? ゲームや映画じゃあるまいし、そんなこと、本当に現実で起きるわけがないですよ」
二人とも現実を受け止め切れずに、見たものを否定している。
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