コテージエリアボス戦(2)
これでハッピーエンドでなければ二度と、それは外れなくなる。
腕のパーツと同じく、だ。
しかし、もう片方の足を突っ込む前に部屋がミシミシと音を立てる。
は? まさか、こんな展開ゲームにはなかったぞ?
「っ!
「!」
ミシミシがバキバキ、という不穏すぎる音に変わると、
揶揄でなく、マジでラガーマンがやるようなガチのタックル。
俺の体がくの字に曲がった。
ついでにちょっと胃液オェって出たと思う。
それでなくとも胃になにも入っていないのに。
「ぐううっ」
「っ、こんなに跳んで……!? た、
「あ、う、うん。い、いいから」
ちょっと三途の川っぽい光景が見えただけだから。
それより、俺たちがいたコテージの二階がバキバキと触手に捻り潰される。
あそこにいたら、あのまま……。
そう思うとゾッとする。
ゲームより強くないか? あのイソギンチャク。
「それより、あのイソギンチャクの触手のつけ根に白い玉のようなものを見つけたんです。あれが核だと思うんですけど……」
「え、あ……」
どう思いますか、みたいな顔で見られてちょっと困った。
いや、けれど確かにイソギンチャクの弱点はそこだったはず。
よし、ここはそれとなく……。
「あ、ああ、俺もさっき見た時に白い玉みたいなのは見たよ。今までの敵も核のようなものがあったし、試してみよう。俺が注意を引くから、その隙に頼む」
「え! そんな、危険です! そこまでしてもらうわけには……!」
「いいから、やらせてくれ。俺だって多少は役に立ちたいんだ。まあ、腹減っててフラフラだけどな。……だから頼むよ」
「っ……はい!」
とりあえずそんなふわっとした感じでごまかしつつ、
いや、マジこの世界に転生して危ない目には山ほど遭ったしそこそこ痛い目にも遭ったけど、一番痛かったし苦しかったかもしれん。
しかしまあ、イソギンチャクの特性を理解している俺が囮になるのは理にかなっているはずだ。
敵の触手の数を思えば、
俺だって多少はゲームで鍛えてる。
「こっちだ化け物!」
コテージエリアの道路に飛び出し、大声で叫ぶ。
バキバキと木の枝を折る音が聞こえて、「あれ?」と思ったら瞬間にコテージの木材がぶん投げられた。
は、反則だろそれはぁー!
「くぅ!」
前転、側転、反復横跳び!
……全国の小中学生のみんな、「こんなのやっても、将来なんの役にも立たない。体力測定の時にしかやらないじゃん」なんて思わないでやってると役に立つぞ! こういう時に!
俺があまりにも華麗に避けたので、本体がズルズルと近づいてくる。
壊れたコテージから庭を通り、陽光差す道路に出てきた瞬間——!
「はああああああ!」
『ぴぎゃ! ビギャァァァァァァァァァアアァァァ!!』
イソギンチャクの怪物が、水のようにバシャン、と地面に飛び散って崩壊した。
「はあ、はあ、はあ、はあ……はあ……た、
「あ、ああ、なんとか大丈夫……」
でも本当に危なかった。
中の人のプレイヤースキルと
筋肉。やはり筋肉はそれなりになんでも解決してくれる、
高校生、大学生、社会人のみんな! 筋肉は裏切らない。鍛えておくと役に立つぞ! こういう時に!
「
「はい、私は——」
「イソギンチャクの棘で結構刺されていたはずだし、少し休んだ方がいい。こんな調子じゃあ、きっと炊事場にもなにかいる」
「っ……! ……そ、そう、ですね。なにかと戦うことになるなら、万全の状態で挑みたいです。でも、私もお腹が空いているので、やっぱり先を急ぎましょう」
「……そ、うか」
それもそうなんだよな。
万全の状態でいてほしいが、空腹もまたそれを損なう原因だ。
ついでに言うと……俺は炊事場に食糧がないとゲームでやって知っている。
今日もまた空腹で一日を過ごさなければならない。
食糧が手に入るのは明日だ。
明日、他人のキャンプスペースに残されたクーラーボックスからようやく食糧を発見し、焼いて食べることができる。
とは、いえ……俺も腹が減ってやばい。
ゲームの中の
まあ、耐え抜きたくて耐え抜いたわけじゃないんだろうけど!
「……炊事場に行く前に、他のキャンプ客の荷物を漁ってみないか?」
「え?」
「もしかしたら、食べ物が残ってるかもしれない。炊事場なら食器や調理器具もあると思うし、ゾンビになってしまった客の荷物を無駄にするぐらいなら活用させてもらおう」
「なるほど……そうですね」
俺が限界なので、今日荷物漁りさせていただきまーす!
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