ピンチ
「っ、う」
そして、鉄パイプを握りしめる。
ゾンビならともかく三つ巴を俺が倒すのは無理だ。
頭を三つ潰す前に間違いなく殺される。
血が飛び散り、バリケードの中に流れてきた。
研究者を食い終わったら今度は俺たちかもしれない。
なんて思っていたら、三つ巴は研究者を抱え、食いながら歩き出す。
息を殺し、気配を殺し、三つ巴がそのまま立ち去るのをただただ願う。
こちらに気づかないまま、どっかに行ってくれよ。頼むから……!
「ふ、ふぅ……」
足音が遠のく。
聞こえなくなるほど遠くなってから、ようやく息を吐き出した。
血溜まりがバリケードの下を越えて入ってきていて、近づいて廊下を確認するなんて気も起きない。
緊張感で吐きそう。
「い、行ったか?」
「あ、ああ……多分。でも、このままおとなしくしていよう。ゾンビはともかくあいつは普通の人間じゃあ太刀打ちできない」
「わかった……」
今までで一番ホラゲーらしい緊張感だった気がするわ。
いや、気を抜いた瞬間壁からバーンとか出てくるかもしれんし、武器は手放さない方がいいな。
『ぐぁぁあああああっ!』
「ッッッッーーー!」
背中の方で
さっきの三つ巴だが、四本目の腕と四つ目の頭が生えている。
その四つ目の顔は、先程三つ巴に食われた研究者。
『入れてッテェ! ゆったノニィイイィイイイイ!』
「く……くそ!」
咄嗟に鉄パイプを構えるが、あっさりと弾かれて武器を失う。
それならばとゾンビから回収した剣を持ち上げ、崩れたバリケード目掛けて三つ巴の足元を潜った。
後ろには
ヘイトを上手く俺に向けなければ、二人が死ぬ!
「こっちだグズめ! 誰がお前なんか助けるか!」
『イ、イギギィィィィ』
びしゃり、と手足が血溜まりで汚れる。
なにが最悪って血溜まりの滑りのおかげで廊下まで上手く逃れられたってところだろ。
くっそ、マジで気持ち悪い。
『うおおぉ』
『ァァァァァア……』
「マジかよ!?」
廊下に出た途端、左側から血の匂いに惹かれて近づいていたゾンビの群れ!
だがじっとしているわけにはいかない。
すぐにゾンビの群れの方へと走り出す。
俺がいた場所に三つ巴の拳が叩き込まれ、床に大きなヒビが入る。
あっぶねぇー!
『ウォオオゥ』
「うっせぇ、邪魔なんだよ!」
こちとらセミとはいえVRMMOで鍛えたプロゲーマーだぞ。
セミプロの時点でプロと名乗っていいのか怪しいところだが、積み重ねてきたフルダイブゲームのおかげで剣の扱いは現代人とは思えないレベルだろう。
問題は敵のゾンビも武器を持っているところ。
そして、手持ちの武器が同レベルのゴミというところだ。
だがゴミとはいえ武器は武器。
剣は剣である。
一匹目のゾンビの剣を薙ぎ払い、二匹目が斧を持ち上げていたところ脇の下に滑り込む。
その後ろのゾンビは自分のところに俺がこんなに早く来るとは思ってなかったのか、面食らったように後ずさる。
できた隙間に体を滑り込ませて剣を構え直して一回転。
剣先で一番後ろのゾンビのアキレス腱を、両方切り裂いた。
『ううウァァァ!』
『ァァァァァ』
倒れたゾンビに、前方にいたゾンビたちが引っかかって倒れる。
ぶっつけ本番でよくできた方だと思わないか、俺!
正直こんなに上手くいくと思わず、心臓が早鐘のようだ。
『イァァァアアイァ!』
「クソ!」
そのゾンビたちのうごうごした塊を、三つ巴が四つん這いになって踏み潰す。
いや“ちょっと強い敵”部類のはずだよな、お前。
強すぎんだよなぁ!
足止めも意味がなく、そのまま俺の方に勢いよく近づいてくる三つ巴。
頭が四つある時点で変異種確定。
四つん這いでは足の間のすり抜けもできない。
詰んだ。
——死ぬんだ、また。
階段から落ちた時、てっきり俺は意識不明の重体程度だと思っていたが、今俺は明確に『死』を思った。
“また死ぬ”と。
つまり俺は意識不明の重体ではなく、
元の世界には帰れないんだ。
死の間際にそれに気づくなんて、俺は——。
「
「っ」
俺を飛び越えて、
そのまま蹴り上げて、ゾンビたちをボーリングのピンのように吹き飛ばす。
宙返りで俺の前に仁王立ちした
その姿はレビュー通り『男前すぎる』『おっぱいのついたイケメン』そのもの。
その背中の安心感半端なくて、ちょっと泣きそうになった。
「ち、
「大丈夫ですか、
「あ、ああ……
「わかりました。では前方の敵を殲滅します!」
か、カッコいいいいぃ〜〜〜!
乙女ゲームのヒロインなのに、俺攻略対象なのに、まんまと攻略されてしまう〜!
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