第7話 仕事先での非日常です

 まぁそんなわけで休日には美少女妖怪に出会ったりしてドキドキしたり、賀茂さんの様子を見て緊張したりした僕だけど、普段の生活が待っている事には変わりない。

 そうこうしているうちに休日も終わり、会社勤めの日々が戻ってきたのだ。


 月曜日、火曜日は特に変わりなく過ぎていった。賀茂さんとは会えなかったけれど、通話アプリとかで連絡を取っているからまぁ大丈夫。賀茂さんも賀茂さんで仕事が好きだから、特に寂しがっている感じはなかったし。

 僕の部署も所々忙しさの波が襲っては来る。だけどこの塩梅だったら平和に休日が終わるかもしれない。僕は火曜日の晩にそんな事を思っていた。そう言う不確定な考えが浅はかな物だと気付かずに。



 異変があったのは水曜日の朝だった。夜中に停電があり、その影響が朝になっても尾を引いていたのだ。最初は僕も何があったのか解らなかった。単に部長とか次長とか課長とかが何やらざわついていなと思った位である。

 それでも自分のパソコンを起動させた時に何が起きているのか知る事になった。サーバーダウンのせいで内外のネットワークに繋がらないのだ! 左下のネットワークアイコンは、オフラインを示す地球のマークを見せているだけ――それにしても何でオフラインが地球のマークなのか、それはそれで不思議だけど――だし、起動してすぐにエラー画面が二つ出ていたのだ。社内サーバーだけではなく、電話の機能も駄目になっていた。


「ハラダ君。そんなわけで夜中に停電が起きてネットワークが駄目になったみたいなんだ」

「そう、みたいですね……」


 デスクの島を巡回していた部長が、僕の前でそう言った。部長が通り過ぎて他のデスクに向かうのを見届けてから、僕はため息をついた。

 今日やろうと思った仕事がほぼほぼ出来ないじゃないか……! 僕の心はその事で埋め尽くされていた。

 デスクでのパソコン作業が僕のメイン業務なのだけど、データはほぼほぼサーバーの方に保存していたのだ。パソコン本体のハードディスクの方にはほとんど仕事のデータは入れていない(まぁハードにばかり入れていても、ハードディスクが潰れたらどうにもならないんだけど)。客先に提出しないといけない報告書も、納品書を管理するデータベースも全部サーバーの中だ。一体どうしたものか。

 しかもよく考えたら下の倉庫にある自動梱包機もチェックしないといけないし。

 停電おそるべし、そして停電許すまじ。そんな言葉が僕の脳裏にふわりと浮かんだ。



 僕たちの会社に彼らがやって来たのは十時前の事だった。見慣れない顔ぶれなので僕は一瞬ぎょっとしたが、聞けばかつてこの会社の通信回線の工事を行った所から派遣された業者らしい。サーバー絡みの事だから、てっきりお馴染みのシステム会社の人たちで解決するのかと思っていたのだ。

 もっとも、お馴染みであるシステム会社の人も、彼らとは別に来ていたのだが。


「回線工事の業者さんだけど、チラッと見たら案外若い感じの子たちばっかりだったから驚いたよ」


 僕にそんな事を言ったのは先輩である主任だった。主任は僕よりも三歳上で、二十八のアラサー社員である。


「工事の業者って言ったら三十代とか四十代とかもっと上の人も多いですもんねぇ」

「そうそう。だけどあの子らはうんと若かったよ。多く見積もっても二十過ぎ、下手をすれば高校出てすぐぐらいって感じがしたんだけど……」


 そこまで言って主任は声のトーンを落とした。若い子が回線工事に来ていて不安だ。そう言った本音が先の言葉の節々に隠されていたのだと僕はこの時になって気が付いた。

 だから僕は曖昧な表情で頭を揺らすだけにしておいた。確かに僕とて回線工事の業者と言えば年かさのベテラン社員を連想してしまう。しかし若いけれど優秀な人もいるだろうし、単純に若く見えるだけのベテランも世の中には存在する。もしかしたら今回やって来た業者たちもそんな人たちなのかもしれない。僕はそんな風に考える事にした。


 自動梱包機のチェックをしていた時に、僕は業者の人たちとすれ違った。二人とも帽子を目深に被っていたからはっきりとした人相は判らない。だけど主任が言う通り若い感じの子だと思った。先を歩く一人の若者の帽子から僅かにはみ出した巻き毛が、薄い銀色に輝いて見えたのはきっと目の錯覚だろう。

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