第6話 やっぱり人間の仕業でした

 そんなわけで賀茂さんは僕の部屋に泊り込む事になった。一緒に夕食を摂って同じ部屋で寝た訳だけど、別にそれ以上の事があった訳でもない。賀茂さんと僕は交際しているから別に何かあっても構わないんだけど……僕も賀茂さんもそう言う気分じゃなかっただけだ。僕も賀茂さんも美少女妖怪の事が気になっていた。そういう意味では、僕と賀茂さんの心は一つだったのかもしれない。


「あ、あそこって……」


 朝。日曜日のニュースをぼんやりと眺めていると、身支度を整えた賀茂さんが小さく声を上げた。悪事を働いた地元の若者が逮捕された。カップルを脅してお金を巻き上げたり、若い男の子に暴力を振るったり女の子に手を出そうとしたりしたらしい。物騒だなと思いつつも、僕は遠い出来事のようにその報道を眺めていた。

 妖怪の女の子に出会ったりしたけれど、僕の周囲は割合に平和だったからだ。そりゃあまぁ他人の彼女と交際していたチャラい後輩とかはいたけれど。

 だけどそのニュースは、よくあるニュースの一つにはならなかった。

 この若者たちは、心霊スポットの周囲に出没し、何も知らない若者たちを脅していたのだと報道されていたのだから。しかも主だった根城は、昨日僕らが足を運んだ廃神社だったというのだ。というか今回逮捕されたのも廃神社の近辺で何かしているのを通報されたからなのだそうだ。時間帯は夜である。奇しくも僕らが帰ってから数時間後の事だった。


「幽霊の正体見たりって感じかしら、ね」


 賀茂さんはそこまで言うと残念そうにため息をついた。


「こうした事もよくある事だって、前に島崎主任が教えてくださったの。確かに本物もあるけれど、見間違いとか単なるデマに尾ひれがついたとか、そういう事の方が多いの、それに――今回みたいに人間がその噂を逆手に取って悪用する事だってある訳だし」


 ともあれ今回は深入りしなくて良かったかも。賀茂さんはそう言ったものの、嬉しくなさそうな表情だった。僕としては犯罪者に出くわさずに済んだから良い事だとは思うんだけど。心霊スポットが犯罪者の巣窟だった事を残念がっているのか、それとも……そこまで考えていた僕は、はたとある事に気付いた。


「賀茂さん。僕らは難を逃れたけれど、あの娘たちは大丈夫なんでしょうかね。その、時間帯的には……」


 あの娘たち、というのはもちろん京子さんたちの事だ。昨日の夕方、あの廃神社には京子さんたちも居合わせていた。調べ物がどうとかって言っていたけれど、あの二人は無事だろうか。僕たちと同じようにすぐに帰ったのならば多分大丈夫だと思う。だけどもしあの犯罪者たちに出くわしていれば……僕はゾッとした。


「言ったでしょ、あの二人は妖怪で人間よりもうんと強いって」


 不吉な僕の考えを振り払うかのように賀茂さんはきっぱりと言ってのける。少し呆れたような声音もあったけれど、目が合うと僕に微笑みかけた。


「仮にその犯罪者たちと出会っていたとしても、あの子たちならどうにかやり過ごせると思うわ。もしかしたら……にしているかもね」


 あの二人が悪いやつを返り討ちに……? 賀茂さんは自信たっぷりに言っていたけれど、生憎僕にはその姿は上手くイメージできなかった。やっぱり、可愛らしい美少女妖怪としてのイメージが憑き纏っているからなのかもしれない。



 心霊スポット脅迫事件は、テレビで報道されたのは一度きりだった。悪事と言えども怪我人や死人が出たような事件じゃなかったからだろう。それと発生場所が田舎だったという事も大きいのかもしれない。

 それでも僕は気になったから、賀茂さんが帰ってからスマホで調べてみた。素人とかフリーライターが書いたみたいな記事が既にチラホラとあったので僕は面食らってしまった。情報化社会だなぁなんて思ったけれど、僕自身平成生まれだしそこまで驚く事じゃあないのかもしれない。もしくは、あの犯人たちはそこまで悪名をとどろかせていたって事なのだろうか。

 どの記事を見ても、美少女妖怪たちがどうなったのかは書かれていなかった。その代わり、ある記事には興味深い事が書かれていた。逮捕直後の犯人は錯乱していた、と。に怯えているようにも見えたらしい、と。

 その記事のリンクで、やはり最近逮捕された若者の話があった。こちらは女の子によろしくない事をしていた大学生の話である。彼は出頭して身柄を確保されたらしいのだが、こちらにも奇妙なバケモノが絡む話になっていたのだ。犯行現場だったアトリエには、大型の獣――それも虎とかライオンレベルの大きさだ――の足跡らしきものが残っていたそうだ。それに何よりと彼自身も証言していたのだとか。

 もっとも、そのバケモノの証言について警察が取り合ったのかどうかは定かではないけれど。何しろ記事によると件の大学生もまた、ひどく錯乱した様子だったからだ。バケモノは人に擬態していたけれど恐ろしい獣に姿だの、を放っているかのように発光していただのと証言したらしい。確かに幻覚を見たと捉えられてもおかしくない話であろう。

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