第33話 狐の尻尾とミーム汚染 ※怪文書注意!

 ハラダ君の家でのお泊りデート(?)から一夜明けた日曜日の昼下がり。私は早速島崎君たちと喫茶店で会う事になっていた。まぁ私としては向こうも用事があるだろうからそんなに早くに会わなくても大丈夫かなと思ってもいた。来週の土日とかでも御の字だろうと呑気に考えていたのである。

 ところが島崎君も雷園寺君も急な用事だったにもかかわらず対応してくれたのだ。二人とも一応会社員だし、日曜日は休みだから空いていたのかもしれない。


「内容が内容ですから、早めに会って話しておいた方が良いと思うんです」


 真面目な様子でそんな連絡を返してくれたのは島崎君である。欲望に忠実だのなんだのと言いつつも結構真面目だしこっちを気遣ってくれている感が伝わって来る。こういう部分は素直に好感が持てるなと私は思っていた。


 待ち合わせの場所に向かう道中で、私は鳥園寺さんと出会った。聞けば彼女も島崎君から連絡を受けて、相談に乗ってくれるそうだ。


「賀茂ちゃんも女の子だし、あの二人とはいえ男ばっかりの所で一人っきりって言うのはきついだろうからって事で、島崎君に呼ばれたのよ」


 言うて私は島崎君たちと三人でを時々開いているんだけど。鳥園寺さんはそう言っていたずらっぽく笑っていた。男女比は二対一でも女子会って言うのかしら。少しだけ気になったけれど、そこを突っ込むと色々とややこしそうなので私は黙っていた。


「それはそうと賀茂ちゃんにも彼氏が出来たのね。彼氏への惚気話とかクレームとかも、今回の女子会でぜーんぶ話しちゃって大丈夫よ」


 そう言って微笑む鳥園寺さんの姿は何とも頼もしくて、私も柔らかく笑い返していた。鳥園寺さん自身はおっとりとした可愛い系女子と言う見た目である。でもやっぱり話してみると面白いし、頼りになるって感じる所が結構あった。私よりも本当は三、四歳くらいしか違わないのに本当にすごい。


「本当に申し訳ないです……! 賀茂さんのみならず、ハラダさんにもご迷惑をおかけしてしまいまして」


 一夜明けて島崎君たちと対面した訳であるが、私を見た島崎君は謝罪の意を示し、のみならず深々と頭を下げたのだった。雷園寺君は気圧されて何も言えずにいるのかしら。そう思ってみたものの、よく見ればニヤニヤしながら私たちを眺めているだけだった。

 もちろん、そんな雷園寺君の態度はすぐに島崎君も知り、「雷園寺君、元はと言えば君が尻尾を出したからあんな事になったんだぞ」と言い募ってもいた。

 それでも私に視線を戻すと、何ともしおらしい表情を見せ、意を決した様子で口を開いた。


「乙女心を弄ぶのは赦されざる大罪ですが、それはうら若き男性であっても同じ事です。であれば僕はお二人に対して誠意を見せて……尻尾を詰めないといけませんかね」

「尻尾を詰めるだって!」


 島崎君の言葉に真っ先に反応したのは雷園寺君だった。真顔になり、その上少し血の気が引いて蒼ざめてもいた。


「先輩ってば大げさですし重すぎますししかもグロいじゃないですか。妖狐の生命である尻尾を一本でも落とすなんて……でも尻尾もから離れたら血みどろの肉塊なんですよ。そんなのハラダさんも賀茂さんも気味悪がりますよ」


 血みどろの肉塊。その言葉に私はぎょっとしたが、雷園寺君の前にイチゴソースのかかったワッフルがあるのを見てちょっとだけ吹き出しそうになってしまった。鳥園寺さんは呆れたように息を吐いてから言い添える。


「ユキ君。流石に島崎君だって取れたての状態で賀茂ちゃんたちに送り付けるわけないじゃない。少なくとも血抜きとか防腐処理は抜かりなくやってくれると思うわよ。でもねぇ……血統書付きの玉藻御前の末裔の尻尾でしょ。何かこう禍々しいというかヤバそうな呪物になりそうな気配がするのよね。

 うっかり部屋に飾ってたら、男子が全員女の子になっちゃう気がするの。呪いと言うかミーム汚染的なアレでね。


 ミーム汚染で女の子になってしまう。鳥園寺さんの言葉は更に面白い物だった。笑いをこらえるためにコーラを口に含んだが、上手く飲み込めない。炭酸飲料を選んだのは間違いだったみたい。

 島崎君はちょっと怒ったような表情を作り、唇を尖らせていた。怒り顔ではあるものの、実は私はそんなに怖くはなかった。島崎君は穏和な性格である事は知っていたし、怒っているように見せているだけだって何となく解ったから。


「ユッキーの発言は別に良いとして、呪物とかミーム汚染の汚染源だなんて……鳥園寺さんは僕の尻尾が何だと思っているんですか?」

「でも島崎君は誉れ高き玉藻御前の末裔なんでしょ? 殺生石が割れた事であれだけ大騒ぎになっていたから、島崎君の尻尾単体でも色々と籠ってるんじゃないかなって思ったのよ」


 それで賀茂ちゃんはどうするの? 鳥園寺さんはやにわに向き直り、彼女の隣に座る私に視線を向けた。私は島崎君を見やり、小さく首を振った。


「別に良いよ島崎君。尻尾を取るって痛そうだし、私もそんなに怒ってないから、ね。それに私やハラダ君が尻尾を貰っても、多分使い道に困ると思うから」

「良かったやん先輩。先輩が詰めるんなら俺も詰めた方が良いのかなってちょっと悩んでいたけれど、そんな事にもならなさそうだし」

「別に俺がやるからってユッキーも真似しなくていいんだぜ? 賀茂さん……今回は本当にありがとうございます」


 愉快そうに肩を叩く雷園寺君にツッコミを入れていた島崎君は、もう一度私に頭を下げていた。雷園寺君はマイペースかつヤンチャな言動で島崎君を振り回しているように見える節もある。だけどそれでも、島崎君もそれを楽しんでいるように見えるから面白かった。

 話も一段落したし、これで二人から話を聞き出せるだろう。私は安堵の息を漏らしていた。

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