第二章:私と二人の妖怪たち、時々彼氏

第20話 真実とステロタイプのはざま

 世の中というか、世間には色々なステロタイプとか迷信みたいなものが数多く存在している。それはきっと、本当の事が知られていない事もあるだろうし、何よりステロタイプの方が面白いからというのもあるのだろう。昔から、地味な真実よりも派手な嘘の方が人々は注目するというではないか。

 私――賀茂朱里――は知っている。妖怪とか、陰陽師絡みの領域にも、色々なステロタイプがある事を。


 陰陽師は華々しく妖怪や怨霊と闘っている――かつて巻き起こった陰陽師ブームでそんなイメージが出てきたのだろう。陰陽師の本来の仕事は異形の正体を見抜くだけなんだからその先はお坊さんの仕事でもある。

 それにだから、陰陽師の子孫もまた能力があるとか、不思議な力を持っているとは必ずしも言えない。私自身、安倍晴明の師匠だった賀茂忠行の子孫と言われているけれど、霊感とか妖怪の正体を見抜く力は特に無いし。

 

 妖怪は現代文明や科学技術に駆逐され、滅んだか追いやられて細々と暮らしている――多分これは、文明や科学技術を推し進めた人間たちの、悔悟と強襲の念から生み出された話だと私は思っている。確かに、人間の対比としての妖怪の存在。文明を追い求めた人間の業深さ。そう言う話にすればエモい話になってくれるのかもしれない。

 だけど実在する妖怪は、そんなに儚くてな存在ではない。彼らは令和の世でも伸び伸びと自由に暮らしている。人に擬態して、或いは独自の社会を護りながら。少なくとも人間の構築した文明や科学技術は彼らの敵ではない。何となれば科学技術は妖術の下位互換に過ぎず、だからこそ妖怪たちが科学技術の発展に関与したという話さえあるくらいなのだから。


 そして私は他にも知っている。玉藻御前の子孫たちがどうやって暮らしているのか。私の恋人であるハラダ君が魅了された「」妖怪たちの本性も。

 ハラダ君たちが出会った者たちの持つ謎について私は知っている。そしてその謎を私は語っていきたいと思っている。

 だけどその事を話すには昨年の春に話を遡らないといけない。の、妖狐と雷獣の二人組と私の関りと交流はそこから始まったのだから。

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