第2話 自分探しのダイヤモンド―3
ミイとムツは、二人でジュエリーショップに向かった。事前に連絡はしたのだが、遊びに行くわけではなく、仕事を依頼しに行くため、緊張してしまう。それがムツにも伝染して、二人して、ぎこちなく店の中へ入った。
「こんにちは」
「こんにちは、ミイさん。奥へどうぞ」
店内の奥にある個室に通された。ブレスレットの付喪神、先輩の彼女が対応をしてくれるらしい。聞けば、後輩のネックレスの子は、今日外部の展示会の手伝いに行っているという。
「さっきメッセージを送ったら、わたしも会いたかったですー! って言ってました」
「後輩さんも元気そうで何よりです。また来ますって伝えてください」
ミイは、簡単にムツを紹介してから、さっそく本題に入った。
「この写真の指輪のことを調べて欲しいんです」
「さっき電話で話してくださったものですね。拝見します」
管理課から聞いた金剛の事情については、事前に連絡した際に、大方話してあった。写真を受け取った彼女は、色々な角度から撮られたそれを、吟味するようにしっかりと見ていた。
「どう、ですか?」
「ちなみに、鑑定書などはありますか」
「わたしたちの手元にはありません。今の持ち主である女性は持っているかもしれませんが、持ち出しは難しいです。正面から接触しに行くのも、今の段階では厳しいかと」
「そうですか」
彼女は、再び考えるように写真を見つめた。やはり、写真だけでは難しいだろうか。
「後から本人の許可の元、実物を持ってくるつもりです。それまで、何か少しでも情報が得られれば、と……」
「あ、すみません、考え込んでしまって。出来ないってことではなくてですね」
彼女は、一旦言葉を切ってミイに問いかけた。
「この写真を、鑑定士にみせてもいいですか。ヒトの」
「えっ、でもそれは」
緊張しっぱなしで自己紹介以外、話せていないムツが、思わずといった様子で声を上げた。不安そうにムツがこちらを見つめてくる。ミイも金剛の事情を考えると、少し迷いがある。
「そのヒトは、信用出来る方ですか」
「はい」
彼女は即答した。
「鑑定士は、わたしたちよりも、わたしたち宝石に詳しいです。ヒトですから、この世にある時間は、百年にも満たないですが、宝石に関して、あのヒトより凄い方は知りません」
彼女は、きっぱりとそう言い切った。そこまで言うのなら、ミイは彼女とその鑑定士に任せることにした。
「分かりました。お任せします」
「ありがとうございます。ダイヤモンドのカットの形だったり、指輪の裏側に刻印があったり、アプローチはいくつか出来ると思います。本部には、お世話になりましたし、私自身も全力を尽くします」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
ミイとムツは、彼女に写真を託して、店を後にした。陽が傾きかけていたが、少し歩いただけで、じんわりと汗が出てきた。ミイは、右手でぱたぱたと顔を仰いだ。
「……ミイ先輩、良かったんですか」
「ヒトに頼むことが、かしら?」
「はい。灯さんも、ヒトより付喪神の方がって……」
ムツは、ミイがヒトの鑑定士に調べてもらうと決めたことを、納得していないようだ。その表情を見るに、不満を持っているというよりは、不安に思っているといった方が近いかもしれない。
「確かに、灯さんはヒトの鑑定士よりも、付喪神の方がちょうどいいと言っていたわね。でもそれは、事情が話せるかどうか、という意味だと思うわ」
「何か、違うんですか?」
「事情を全く話せないヒトと、事情を話してある付喪神が間に入ったヒト、では、やっぱり違いが出ると思うわ。彼女は信頼出来る人だから、その彼女が信頼しているなら、って任せたのよ。それに、早くその男性が誰か見つけるなら、より詳しい者に聞く方が、いいわ」
「相談者のため、ってことですね。誰だか分からない自分の姿の正体が、早く分かるに越したことはないですもんね……」
ムツは、自分の中での落としどころを見つけたようだ。だが、記憶がないこと、つまりムツ自身も自分の姿の主が分からないことに同調してしまっているのが、少し心配だ。
「さあ、早く本部に戻りましょう」
「はい」
その後、管理課の調べ物の成果を聞いてみたが、目ぼしいものは見つからなかったらしい。今の持ち主の夫や、父、祖父、叔父、など親族の男性を遡ってみたり、仲の良かったと思われる人物を探したりと手を尽くしているが、金剛の姿のヒトはいない。
もし、該当のヒトの写真が手に入ったとしても、それが幼少期や学生の頃だったら、四、五十代の金剛の姿と一致しない可能性もある。
「わたしたちも、明日から手伝います」
ミイはムツと共に、少しお疲れ気味の灯にそう言った。
「ああ、よろしく頼む。ジュエリーショップの方にも期待だな」
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