第15話 鯉のぼり祭り。鮎の塩焼きと焼きまんじゅう。

「わー、鯉が空を泳いでら」


 私はぽかーんと口を大きく開き、空を見上げる。

 上空に張られたロープに繋がれた色鮮やかなたくさんの鯉のぼりが、晴れ渡る青空を悠々と泳いでいた。

 今日、私は鯉のぼり祭りを見に来ている。


「あそこに見えるのが会場か……」


 鯉のぼりが泳ぐその下には神流川という川が流れており、その河原には屋台やイベントステージ、子供向けの巨大なエア遊具なども設置されている。


「へー、思った以上にお祭り騒ぎ」


 久々にわくわくした気持ちになってきた。のんびり田舎暮らしもいいけど、たまには気分を盛り上げたいものだ。


「大和くんがいるっていうテントはどれだろう……」


 大和くんのおばあちゃんは手作りこんにゃくを作って、町営のテントで販売しているらしい。大和くんはそのお手伝いしているのだとか。


「あのテントかな……特産品販売とか書いてある……」


 遠くに見えたそのテントに向かって歩き始めたのだが、途中で様々な誘惑が待ち受けていた。


「えっ、鮎の塩焼きがあるじゃん……。後で……いや、今食べよう」


 まるで強力な磁石にでも吸い寄せられるかのように、私は鮎の塩焼きのテントへと向かった。


「一本ください」

「はーい、ありがとねぇー」


 さっそく鮎にかぶりつく。


――ふわっ。

 やわらかな白身からはほのかにスイカのようなみずみずしく甘い香りがする。皮はパリパリ、こびりついた塩はジョリジョリ、旨みがジュワジュワ。背には脂がのっていて、骨までやわらかくなっているから余すところなく食べられてしまう。


「美味しすぎるでしょ……」


 あっという間に鮎一匹をペロリとたいらげ、また大和くんのテントを目指す。

 だが、次なる誘惑が私を待ち構えていたのである!


「焼きまんじゅう?」


 その存在は知っていたが、実際に売っているのは初めて見た。

 群馬を代表するB級グルメ、焼きまんじゅう。


「これは食べておかねば……。すいません、一本ください」

「あいよ」


 手渡されたトレーの上に、味噌だれを塗った巨大なおまんじゅう四つを串刺しにしたものがのっかっている。 

 え? 量、多すぎじゃね?


「食べきれなかったら持ち帰るか……」


 とりあえずひと口。

 はむっ。


――えっ。ふんわり。

 思った以上に軽い食感。中に餡子でも入っているのかと思いきや、何も入っていない。表面にたっぷり塗られたベタベタの甘い味噌だれだけで満足できてしまう。


 そしてふんわりなので、見た目は大きく見えても案外食べれてしまう。どう見ても量が多すぎると思っていたのに、こちらも一串、ぺろりと完食。


「ちょっとこれも美味しすぎるな……」


 味噌だれでベタベタになった口元をティッシュで拭き取り、持参したペットボトルの緑茶を飲んで一息つく。

 はあ。落ち着く。


「じゃ、行きますか」


 だいぶ寄り道してしまった……。

 私はようやく、大和くんがいると思われるテントに向かって歩き始めた。

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