第11話 そうだ、ビールを買いに行こう。
緑水さんが帰った後、私はすぐにパソコンを開き、調べものを始めた。
「狐……妖怪…………」
ネットで検索するとたくさんの狐の妖怪が出てきた。
「玉藻前ならなんとなく知ってるかも……でもこれはしっぽが九本あるから違いそう……」
狐の妖怪には良いのも悪いのもいるみたいだし、種類もとても多い。
「緑水さんはどの狐の妖怪なんだろう」
さっき見た白銀の美しい毛並みのお耳としっぽを思い浮かべながら、さまざまな狐の妖怪と照らし合わせていく。
「へえ、宗旦狐だって。茶席に顔を出した? 寺のために尽力した? でもてんぷらを食べて神通力を失いました、だって……。緑水さんてんぷら食べて大丈夫だったかなあ」
色々な妖怪の伝説を見ていると、古来より日本人にとって狐が身近な存在だったのだということを思い知る。そして段々、狐の妖怪のことも可愛らしく思えてきた。もちろん、悪さをする狐の妖怪もいるからそういうのだったら怖いけど……。
結局、いくら検索しても緑水さんがなんの妖怪なのかなんて、わからなかった。
私はとりあえずもう、そのことについて調べるのはやめておくことにした。
悪い妖怪だろうが神聖な神様みたいな存在だろうが、結局緑水さんは緑水さんだから。
まあ本当は、知りたいのなら本人にきいてしまえば早いんだけど。
「緑水さんに直接きいてみる?」
うーん。
なんだかその勇気は出てこない。だってさっき調べた情報だと、狐の妖怪って大抵、正体がバレると逃げ去ってしまうんだもの。私が緑水さんの正体は化け狐だと知ってしまったのだと気づかれたら、緑水さんもう来なくなっちゃうんじゃないかな。
今緑水さんに去られたら、私はとても……。
いいのいいの。悪い狐の妖怪に化かされてるんだとしてもかまいませんよ。緑水さんは優しいし、美味しいもの食べさせてくれるんだから!
そうだ、今夜は緑水さんがさっき揚げてくれた山菜のてんぷらがあるんだよなあ。あのてんぷらをおつまみにビールでも飲んだら最高でしょうよ。
はあ。サクサクに揚がったてんぷらと、山菜のほのかな苦み。それを冷たいビールで一気に流し込んで……。
想像しただけでよだれが出てくる。
「あれ、でもビールあったっけぇ」
ちょっと嫌な予感。
ふらふら~っと台所へ向かい、冷蔵庫を開く。
「ビールがない……」
――その絶望感たるや。
えー。あのてんぷらに塩振ったのをつまみにしてビール飲みたいよおぉ。
「ビール買いに行くか……。気分転換にもなるし」
最近、自転車で二十分程のところに食品店があることに気づいてからは、よくそこへ買い物に行っている。この田舎の町での暮らしを支えてくれるありがたい存在だ。確か六時ごろまで営業していたような……時計の針を見ると、もうすぐ午後五時だ。
今すぐ行けば間に合うか。
「行ってビールとおつまみでも買ってこよーっと」
私はさっとパーカーを羽織り、家を出た。
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