第25話 魔の森への誘い
「え? 行かない……?」
「うん。ここでウルシュラとお留守番してる」
俺とファルハン、イーシャとで出発する準備をしていると、ナビナが行かないと言い出した。
ナビナがそんなことを言うのは珍しい。
そう思っていると、
「ルカスさん。私もお留守番します! ……じゃなくて、帰って来たのでもっと綺麗に片付けたいと思いまして、私一人だと大変なのでナビナにもいて欲しいなぁということなんですよ」
そう言われると、しばらくぶりに帰って来た感じがする。
広間を見回してもまだ手つかず状態になっていて、見映えは良くない。
「残るのはウルシュラとナビナだけ?」
「それがですね! お爺さんが少しだけ手伝ってくれることになりました!」
素性不明の爺さんか。
今は外にいるミディヌと話をしてるみたいだが。
ウルシュラのことも知っているみたいだし、任せてもいいのかな。
そうなると魔の森に行くメンバーは……。
俺とミディヌ、ファルハンとイーシャの四人か。
そういうことなら、行く前に爺さんに彼女たちのことを頼んでおこう。
実力は確かっぽいしたぶん問題無いはず。
「手伝い? それならまぁいいかな」
「それとですね、もしかしたらファルハンさんたちのような冒険者さんがここを訪れるかもしれないので、私はここにいた方がいいのかなと思ったんですよ~」
なるほど、無くは無いな。教会自体、元々冒険者ギルドとして開いていた。
外観も少しだけ直しかけてもいる。
いずれ違う場所に行くにしても、原状回復をさせるのもいいかもしれないな。
「そういうことならぜひ頼むよ! ここはウルシュラの場所でもあるからね」
「本当ですか! よかったぁ~!! ナビナも残るって言ってくれたので頑張れますよ!」
「ウルシュラのことを頼むね、ナビナ」
「うん」
元々ここにはウルシュラとナビナしかいなかった。
そして、ギルドとしてやって行こうとしていたことも見ている。
二人がここをもっと良くしたいという気持ちがあるなら、俺は首を縦に振るだけだ。
「ルカス」
「うん?」
何かを言いたいのか、ナビナが耳元に近づき少し背伸びをしてくる。
俺も少し屈む。するとナビナは、周りに聞こえ無いような小声で、
「ルカスの冴眼の力は魔の森に行くと自然に発揮するから、思うままに動いていい」
「……自然に?」
「行けばすぐ分かるから。頑張って」
そう言い放つと、ナビナはすぐに俺から離れた。
言い方が柔らかくなったような。ナビナも穏やかになってきたかな?
「マスター。こっちは行けるぜ? 着く頃には夜になっちまうし、夜明けでも構わねえけど……」
「いや、問題無いよ。魔の森に向かおう。イーシャもそれでいいかな?」
魔の森の魔物は夜になると少し凶悪になる。
だが同時に、魔術師の魔力が増幅するという場所としても有名だった。
もっともこれは、宮廷魔術師時代の知識と話。
とはいえ、巡回任務の経験と知識が役に立つ日が来たのは驚きだ。
「いいですわよ。ですけれど、北ガレオスが近いこともありますし、そこで一息つくのも悪くありませんわね」
「よし、それじゃあ――」
外に向かおうとすると、
「ルカスさん~、ちょっと待ってください!!」
揃って外に出て行こうとすると、ウルシュラが何かを手にして駆け寄って来る。
もしかしてまた着替えでもさせるつもりだろうか?
「マスター、おれらは先に外で待ってるぜ」
ファルハンたちが外に出たところで、その予感はすぐに的中。
ウルシュラが手にしているのは、魔術師向けの装備らしきものだった。
「これは……?」
「私特製の、《ミストクローク》です! こう、フードを頭に垂らすとですね、魔物に顔を見られる心配も無く……」
ウルシュラが身振り手振りで装備品の説明を始める。
そしてそのまま、
「ちょっ!? ここで着替えを?」
「肌着まで脱がせるつもりは無いので、遠慮なく着替えちゃってください!」
「それならいいかな……」
「では、着替えながらでいいので聞いてくださいね! ミストクロークは何と! その名の通り、霧に強いクロークなんですよ~。ルカスさんの冴眼の力と合わせると視界良好です!」
頭からかぶる胴装備で見えない中。
ちらりと見えるウルシュラの動きは、身振り手振りだった。
「ではでは、ルカスさん! いってらっしゃーい!」
「ルカス、またね」
「行って来るよ。二人とも、留守をよろしく」
「ルカスさん、わっしょいわっしょい~!」
ウルシュラのよく分からないかけ声で、盛大に送り出されてしまった。
「やっと出て来たな、ルカス。あたしを二度も待たせるなんていい度胸じゃねえか!」
外に出ると、そこにはミディヌと爺さんの姿があった。
ファルハンたちは町の外で待っているのか、ここにはいない。
「何度もごめん、ミディヌ。それから、ウルシュラたちのことをよろしくお願いします」
「まぁいいけどな」
「いやいや、あのお嬢さんの助けとなれればと思って残るだけじゃから」
やはりウルシュラとはどこかで会ってるのか。
「……ウルシュラのことをご存じなのですか?」
「まぁまぁ、その話はログナドに来た時にでもお話しましょうぞ」
そこまで隠すことでも無いような。
しかし彼女たちを任せるにしても、爺さんのことだけでも聞かねば。
「ではあなたの名だけでも」
俺がそう言うと、爺さんとミディヌがお互いに相槌を打っている。
「――では、ルカス・アルムグレーンどのに免じて、お教えしましょうぞ。長いので、一度しか言いませぬよ?」
長い名前……。だから爺呼ばわりをさせてたのか。
「き、聞きますよ」
「わしは、ソフォクレス・フォン・アールデルス……まぁ、昔は大賢者をしていただけの爺ですじゃ」
「え? 貴族で……大賢者!?」
「貴族はともかく、元……ですじゃ」
宮廷魔術師相手に派手に戦ってたらしいけど、そういうことだった。
そうなるとミディヌは――
「あん? あたしは貴族じゃねえよ?」
ミディヌは爺さんのかつての仲間ってことか。
「まぁ、ともかく……わしのことは
「彼女たちをよろしくお願いします」
どうりで宮廷魔術師では歯が立たないわけだ。
賢者の上級職か……。
「とっとと魔の森に向かおうぜ、ルカス」
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