第33話 可愛いハンターたち

「――こんな感じかな」


 前方に見えていた魔物は沼に棲息する獣人トータス族だった。

 見た目はカメそのもの。動きも鈍く基本的には草食で狂暴性は低い。

 しかし近接攻撃をまともに受けると、鋭い歯で噛みつかれる危険性がある。


 そうならない為にも奴らに近づかれる直前で、即全身麻痺状態に陥らせた。

 ダメージこそ与えなかったものの、数時間は起き上がれない。

 これなら、こちらの歩みが遅くても追いつかれる心配はないはず。


「すごいにゃ~!! バッタバタとカメが倒れていったニャ。その目は何なのニャ?」


 冴眼でトータス族を倒したところで、ミュスカは嬉しそうに手を叩いた。

 そのまま俺の目に迫り、何度も首を左右に振って不思議そうに眺めだす。

 一応説明しておこう。


「あぁ、これは俺の力で――」

「おい、ネコ! 本当にこの先にトンネルがあんのかぁ? どう見ても行き止まりにしか見えねえぞ!」


 そうかと思えば、ミディヌが激しい剣幕を見せる。


「そんなはずないニャ!! 水草に紛れたところにトンネルがあったニャ! ミルはきっとそこに……トンネルがないニャ~……どこに行ったニャ~」


 ミュスカが指し示すところには、水草も無くトンネルらしきものが見当たらない。

 雨が降り続いているせいか、水草は倒れきっている。

 ここで見えているのはトータス族の足あとくらい。


「どこニャ~どこに行っちゃったニャ~……グスングスン…………」


 あああ、泣いちゃった。


「お、おい、ルカス……」


 背中のミディヌも何も言えなくなってるな。

 こうなったら手っ取り早い方法で会わせるしかないか。


「……ミューちゃん。他の子たちの名前を教えてくれないかな?」

「ニャ……? ミルの他~? それならフィーユとクプルニャ。あの子たちは東に行ってるはずニャ」


 ――名前が分かれば後はミュスカと似た気配を探れば……。

 セデラ沼からだと広範囲に探さなくても見つかるはず。


 一度目を閉じ、黒色のネコを思い浮かべる。後は遠くを広範囲で見回す。

 ネコたちの強さに関しては不明。だけどネコ族のいないラトアーニ大陸なら簡単に探せる。


「おにいさん、さっきからどうしたニャ? 眠ってるニャ?」

「こいつはお前の仲間を探してるはずだ。邪魔せずに黙ってな」

「そ、そうニャの?」


 ロッホが見える。しかもレグリースの中から同じ気配。

 帝都近くに宮廷魔術師の姿が無くなった時があったが、その隙に乗じて移動した?


「……ぅ」


 冴眼による索敵はまだ負担が大きいのか、めまいに似た感覚になりそうだった。


「――見つけたよ。今から会いに行こうか!」

「ほ、本当ニャ!? ど、どこにいたのニャ?」

「ミディヌ。今からレグリースに戻るから、降りてもらってもいいかな?」

「しょうがねえな」


 セデラ沼にいないと分かった以上、ここに留まる意味は無い。

 あとは呪符【レグリース】を使えばいいだけ。


「ミューちゃん、俺の手を握っててね」

「ニャ? よく分かんないけどそうするニャ!」

「――――」


 呪符のおかげですぐにロッホに到着した。

 しかし呪符自体俺のスキル依存ではなく、作った者のスキルが関係しているようで……。


「何だよ、教会の中じゃねえのか? ここはどこだ?」

「畑かな……」

「…………出してニャ~」


 見るとミュスカが土の中に埋まっていて、尻尾しか見えていない。

 彼女を引き上げようとしたところで、背後から殺気のようなものを感じる。


「お前、リーダーをどうする気みゃ?」

「ミューを救うにぁ!!」

「敵なら容赦しないにゃ! 大人しくこっちを振り向け~!!」


 ミュスカはミディヌに任せるとして、俺は大人しく振り向くことにした。

 振り向きざまの一瞬、俺に向けて三本のダガーが向けられていた。

 この気配はハンター狩人か。


 それにしても見事に区別がつかない。三人とも黒色のネコだ。

 なるほど、ミュスカとこのネコたちはハンターってわけか。


「ケホッ、ぺっぺっ……土がこびりついて取れないニャ~」

「――ったく、世話を焼かせるネコだ。……ルカス、何してんだ?」

「あぁ、これは何というか……」


 俺が言い訳をする前に、ネコたちは刃を引いてすぐにミュスカの元に駆け寄る。

 感動の再会ともいうべく、ネコたちの鳴き声と抱擁が始まったようだ。


「あれーー!? ルカスさん? そこにいるのはルカスさんじゃないですか!!」

「ただいま、ウルシュラ」

「ネコさんたちが増えてる……ということは、ルカスさんが探して来てくれたんですね! やっぱりそうだと思ってたんですよ~!」


 何だ、予想されてたのか?

 そうするとこれもナビナの予感が働いての行動?


「ウルシュラの姉ちゃん。メシは?」

「ミディヌも帰って来たんですね! はいはい、すぐに用意しますよ~! ここは教会の裏側なので、表に回って下さいね」


 裏の畑か。一応レグリースの範囲内ってことになるな。


「ルカス! あたしは先に行くからな!」


 そう言うと、ミディヌはさっさと教会の表側に歩いて行く。

  

「そういえばナビナと爺さんは?」

「ナビナなら中にいますよ! えーと、お爺さんは帰っちゃいました」

「帰った? え、どこに?」

「それがですね、えっと……ログナドの~」


 あの爺さんはさすがにクランメンバーになるつもりは無かったみたいだ。

 それにしてもログナドか。ウルシュラの故郷がある大陸……。


 遭遇するかは不明にしても、聖女エルセが渡った大陸ってことになる。

 姉に対しては何も無いが……ミディヌのこともあるし何とも言えないな。


「その話は後にして、ネコたちと一緒にご飯を頂くよ」

「それもそうですね! ではではお先に失礼しますね! ネコさんたちをよろしくです!」

「うん、そうするよ」


 ログナド大陸か。

 クランメンバーを集めるなら、ラトアーニ大陸だとそもそも冒険者パーティーをあまり見かけない。

 冴眼で一通り探して、それから考えるしか無いな。

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