第34話 崩落した洞門  

 四人のネコたちが揃ったレグリースは、かなり賑やかだ。

 そこで早速行われた話し合いは、ネコたちが騒いでいるだけのものだった……。


「ミューは東に通りたいのニャ!」

「同じみゃ!」

「でも通れないにぁ」

「どうするにゃ?」


 ミュスカたちは元々、旧都に行きたいらしい。

 要点だけを理解した俺は、彼女たちを連れて行く話になったのだが。


「ミューたちの中では一番活発なのはミルなのニャ! ミルにお願いしたニャ! おにーさん、ミルをよろしくニャ~」


 リーダーのミュスカは、一緒に行く気満々なはずだった。

 ところがレグリースに来て安心して眠くなったらしく、元気なミルだけを行かせることにしたらしい。


「よろしく頼むみゃ! 魔物相手なら任せてくれみゃ」

「そ、そういうことなら、よろしく」

「おにーさん、ミューたちはここでくつろいでおくニャ。通れそうならすぐに戻って来てニャ~」


 ミュスカがいう通れそうな場所は、旧都の東にあるトンネルのことだ。

 そこを通ればログナド大陸に渡ることが出来る。


「ルカス。通れなかった時のことを考えたら、ネコは一人だけでいい」

「う~ん、やっぱりそうした方がいいのかな」

「うん。そうして」


 ナビナの言葉どおり、他のネコたちには留守を頼むことに。

 さすがにネコたちだけ残すのはまずいので、ミディヌに残ってもらおうとした時、


「おっす! マスター、久しぶり!」

「ごきげんよう、みなさま」


 彼らがクランに顔を見せにきた。

 

「何だ、マスターはまだ旧都に飛んでなかったのか?」

「ネコの彼女たちに協力してたからね。君らはどうしてここに?」

「そりゃあ、クランメンバー成りたてだからな! 少しは役に立ちたいってもんだ。なぁ、イーシャ?」


 ファルハンが顔を向けると、イーシャが俺のそばに寄って来た。

 呪符を取り戻したおかげなのか、その表情はだいぶ柔らかい印象を受ける。


「……お久しぶりですわ、マスター。呪符はご活用頂いておりますか? おっしゃって頂ければ、いつでも差し上げますわよ?」

「うん、ありがとう。すでに二枚使わせてもらってるし、助かってるよ」

   

 翡翠の腕ジャッドアームの二人は魔の森でのことが済んだ後、一度北ガレオスに戻った。

 その足で帝都に行ったらしいのだが……。


「帝都の治安はあまり良くねえな。マスターがいた時は統制が取れてたかもしれねえが……。だからといって、西の転移門を使えるほど中に入れねえけどな」

「フン、それであんたはのこのこと逃げて来たのか?」

「逃げるわけねえだろーが! ちっ、ここで勝負してもいいんだぜ? 双剣のミディヌ」

「……くだらねえな」


 口が悪い者同士が集まるとすぐこれだ。

 実力的にはミディヌが圧倒しているはずなのに、ファルハンにも意地があるといった感じか。


 旧都はもちろん、大陸境がどうなっているのか気になるところ。

 ネコたちだけでも問題は無いとはいえそれでも何があるか分からない。

 

「……ミディヌとファルハンはここに残ってもらうよ。ミュスカたちだけでも戦えるにしても、ここに帝都の人間が来ないとも限らないからね」


 彼らに他意は無いにしても、帝都に寄って来たというのが気がかりだ。

 帝国に近いロッホにクランを構えている以上、何も起きない保証はない。


「あたしは元からそのつもりだった。ルカスと行くのはいいが、どこに行くにも大勢で動くのは好きじゃねえからな」

「お、おれもここで留守を? え、イーシャは?」

「俺と一緒に来てもらうことにしたよ」

 

 俺の言葉にイーシャは軽く頷いてくれた。

 二人パーティーが一人になるのは不安なんだろうけど。


「イーシャが納得してるうえにマスターがそう言うなら……」


 渋々と納得して、ファルハンもレグリースに残ることを決めてくれた。

 俺たちはすぐに呪符【旧都】を使い、宮廷魔術師のいない東転移門前に着いた。

 そこから旧都は目と鼻の先。すぐにでも行けたのだが……。


「ソニド洞門が崩落して行けないみゃ~。どうやったらログナドに行けるみゃ?」


 事前にミュスカが言っていたとおり、ログナド大陸に繋がるソニド洞門は崩落していた。

 試しに冴眼で中の様子を覗き込んでみたが、内側から閉ざしたように見えた。


「……自然崩落ならこうはならない。ここから感じるのは魔力」


 ナビナがそんなことを言うので、イーシャにも聞いてみた。

 すると、


「ええ。わたくしの呪符に似た攻撃属性を感じますわ。マスターがお使いになったように、呪符をただ使うだけでしたら誰でも使えますのでおそらくこれは……」

「ルカス。とりあえず戻ろう?」

「あ、うん」


 ナビナとイーシャの言葉を聞き、俺たちはいったんそこを離れることに。

 ログナド大陸に渡る手段はソニド洞門以外にもあるが、まずは旧都に向かう。


 現在の東デローワは旧都と呼ばれている。ここにはかつてデローワ王都があったからだ。

 しかし砂塵が酷い環境下にあった為、住む人は少なくなり今では旅の行商人だけが留まるのみ。

 

 真っ当な商売人だけがいると限らない場所。

 ということで、【東デローワマーケット】と呼ばれるようになった。


「ふわ~! すごい光景ですよね~!! 私、初めて見ました」

「すごいみゃ~! 人間がたくさんいるみゃ~」


 ウルシュラとミルははしゃぎながら、市場を見て回っている。

 そんな中、俺とナビナ、イーシャだけが難しい顔で悩んでいるわけだが……。


「マスター。ソニド洞門の件、どうされます?」

「う~ん……"力"で岩を破壊するのは簡単だけど、崩落させられたとなるとね……」

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