第29話 雑貨屋からの手紙

「――えっ? あっ、あなたは確か……」

「はい。北ガレオスを動かす為政家いせいか、ノイトラにございます。まさかこちらにお見えになっていましたとは! 丁度よくお会い出来て何よりです」

「あ、いや、たまたま立ち寄りまして」


 イーシャの呪符で北ガレオスに着いた。

 しかも人が多く行き交う中心地。そのせいで、ミディヌたちとはぐれた。

 こればかりは呪符使いのスキルが関係してるから仕方が無い。


 この間来た時は転移門と、案内された転移装置の間しか見ていなかった。

 そのせいか、ガレオスの街並みには目を見張るものがある。


「驚かれましたか?」

「そうですね。帝都とは全然違うので」


 帝都の街並みは全体的に石造り。宮廷魔術師が至る所にいて、人によっては窮屈に感じる街だった。

 しかしここは――栄華を極めたような光景が広がっている。


「中心地は湾曲する川に沿うように、東に向かって発展した中心街でしてね。西には魔の森と帝国。南は転移門で旧ラザンジ村へと行けますので、移動に関しては冒険者たちに不便をかけることが無いのです」


 転移門はあまり便利でも無いような……。

 ここから東となると大陸境の旧都か。

 ログナドに渡るには東を通るか、途中の港町に行くかのどちらかになる。


「なるほど。ところで、自分に何かお伝えしたいことでもあるんですか?」

「ああ、そうでした! ルカスさまは、雑貨屋アーテルをご存知でしょうか?」

「え? アーテルですか? 利用してるのでもちろん知っていますが……」


 中立都市の人間が積極的に関わるとしたら、南の雑貨屋くらいしか無い。


「おお! やはりそうなのですね!」


 そういうと、ノイトラは懐にしまっておいた手紙を取り出す。

 

「アーテルから手紙が来るのは滅多に無いのですが、そうですか、ルカスさまとも関わりがあったのですね。いやいや、お渡し出来て良かった! ルカスさまであれば、いつでも転移門を開けておきますのでお声をおかけください! それでは!」


 アーテルからの手紙か。

 またお使いか何かだろうか?


 中身を読む前にミディヌたちを探してからにしないと。


「なぁにきょろきょろしてんだ? ルカス」


 そうかと思えば、ミディヌがあっさり見つかった。

 ファルハンとイーシャの姿は無い。


「ミディヌは今までどこに?」

「んあ? あいつらジャッドアームと途中まで見て回ってたけど、別れた。ルカスによろしくだとさ!」

「ええ? そのまま別れたってこと?」


 ファルハンとイーシャは、クランメンバーに加わった二人。

 常に一緒に行動する冒険者パーティーじゃない。とはいえ、意外にあっさりな別れだった。


「――つっても、あいつらはもうクランメンバーなんだろ? 別れたってまた会えるだろうし、いいんじゃねえの? それと呪符の姉ちゃんからお礼をもらっといたぜ!」

「お礼?」


 ミディヌに渡されたのは、今回のように一瞬で転送の出来る呪符が数枚ほど。

 羊皮紙に書かれた文字には、【レグリース】【雑貨屋】【旧都】とある。


「移動に役立ててくれだとさ。良かったな、ルカス!」

「……確かにこれは便利なものだね」


 今のところ俺たちが移動出来る手段は、転移門か徒歩でしかない。

 帝国を含め、馬車や馬を置くところが無いのが原因でもあるが……。


「んで、どうする? ウルシュラの姉ちゃんのところに戻るのか?」

「うーん……アーテルから手紙が来てるんだけど、そっちに行ってからでもいいのかなと」

「あの雑貨屋? ふぅん……気になるんならそっちが先でいいんじゃねえの? 呪符ですぐ行けるだろうし、すぐ終わるだろ」


 移動手段は確保出来た。そう考えるとまずは手紙を読んで、雑貨屋に飛ぶのがいいかもしれない。


「なになに……、ウルシュラに渡し物があるから取りに来てね――か」

 

 俺じゃなくてウルシュラへの素材渡しって。

 雑貨屋が先で良かったわけか。


「とっとと行こうぜ、ルカス」

「そうだね、行こう」


 まさかイーシャの呪符をすぐに使うことになるとは。

 とはいうものの、転移門を使うより早くて正直助かった。


 呪符【雑貨屋】で、案の定すぐに到着。

 ミディヌは話すことが無いということで、魔物を軽く狩るとか言って一旦離れた。


 俺だけ店に入る。

 すると、カウンターで待ち受けていたアーテルが笑顔を見せた。


「あっ、ルカスさん。お手紙は読んでいただけました?」

 

 店内には他に客がいるようで、そこそこ賑わっている。


「どうも、お久しぶりです。読みましたけど、どうして北ガレオスに手紙を?」

「あそこにはお得意様が多いの。特にお偉いさんとかね」


 あぁ……やっぱりそうだったんだ。

 

「それで、ウルシュラへの素材というのは?」

「それなんだけどね、また後にして違うことを頼まれて欲しいの。いいかしら?」

「依頼……ですか?」

「私じゃなくて、ミューちゃんがね」


 ミューちゃん……。

 またコボルト族か何かだろうか。


 そう思っていたら、アーテルが奥の方に向かって手招きをしている。

 手招きを受けて、女の子が俺の目の前に現れた。

 

「ボクは漆黒のネコノワールキャットのリーダー、ミュスカ・プーナって言いますニャ! ボクのことはミューと呼んでいいニャ~」


 コボルト族じゃなくて、ネコ族か。

 ラトアーニではあまり見ない種族だ。

 そもそもネコ族は人間と近しい関係は築かないはず……。


 雑貨屋アーテルは、そういう意味では"何でも"ありのようだ。


「リーダー? ということは、他にもいるのかな?」

「そうニャ~! でもでも、ここにいるのはボクだけニャ。探しに行きたいけど通行出来ないニャ。だから連れて行ってくださいニャ~」


 またしても迷子だろうか。

 それにしてもパタパタと振る尻尾といい、仕草が可愛い。


「アーテル、彼女のこれは依頼ですか?」

「ええ、ルカスさんにお願いしたいの。彼女の仲間たちみんな散り散りになって、どこに行ったのか分からないみたいで。もしかしたら、ロッホにもいるかもなんだけど……」

「可能性はありますね……」

「でもとりあえずで悪いんだけれど、思い当たる所を一緒に見て回ってあげて?」


 呪符があるから帰るのは一瞬。

 そう考えれば、アーテルへの信頼度を上げておくのも悪くない。


「分かりました。やります」

「ルカスさんならそう言ってくれると思っていたわ! そのお礼になんだけど、これでも食べて力をつけて!」

「干し肉ですか。これなら移動しながらでも食べられますね」


 今回は装備品ではなく、即席で食べられる干し肉をいくつかもらった。

 そうなるとまずは、


「ええと、ミュー……ちゃん。一緒に行くことにしたけど、準備はいいのかな?」

「いつでも行けるニャ!」

「じゃあ外にいる俺の仲間と合流してから行くよ」

「は~いニャ!」


 ――とはいえ、迷子のネコたちをどうやって探せばいいのやら。

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