第30話 エルフの退屈しない日々 1

【side:ウルシュラ・バルトル】


「はいは~い! ここにある椅子は全て捨てちゃいましょう~!」

「全部? 誰も座らないようにするの?」

「そしたらもっと広く使えるし、体を伸ばして寝られるよ! ナビナもその方がいいでしょう?」

「……じゃあ、あの子たちも雑魚寝を?」


 ナビナがどこかに向かって指し示す。


 ここには私とナビナ、それにお爺さんの三人しかいないはず。

 ナビナってば、相変わらず私を怖がらせようとするなんて。

 それともルカスさんと一緒でナビナの目でも何かが見えている?


「い、嫌だなぁ~、ここにはだぁ~れも……」


 あ、あれ?

 何だか扉の辺りに複数の耳が見えます。やっぱり何かいる?

 聞きたいけどナビナは無言のままだし、お爺さんは奥にいて気づいてもいない。


 私が見るしか無いのかな。

 仕方が無いので私が近づくしかありませんね。


「あ、あの~誰かいますか~?」


 いないよね? さっき見えてた耳も見えなくなってるし……。


「は~いにゃ」

「いますみゃ」

「ここにぅ~」


 ええ? 

 い、いた……しかも同じ感じの子が確かに。

 

「ネコ族? えっ、どうしてここに?」


 ネコ族はログナドには多くいる種族だけど、こっちに来てるのは旅行か何か?

 とにかく落ち着いて話だけでも聞いてあげないと。

 留守を預かっているし、ルカスさんがいない時こそ私がしっかりしよう。


「迷ったにゃ」

「帰れないみゃ」

「通れなくて分からないにぅ~」


 ひえええ。いっぺんに言われてもどうすればいいのか分からないよ。

 しかもこの子たちみんな、黒い毛触りしてるから見分けが……。


「え、え~と、帰れないのはログナドに?」


 それしか考えられないけど。

 ルカスさんじゃないけど、帝国下のこの辺りにネコ族が隠れられる所なんて。


「ログナドに行きたいけど洞窟トンネルがにゃ~」

「お店たくさんあるところみゃ~」

「東、東に行きたいにぅ」


 うぅ、一人ずつ話してくれないと私じゃ理解が追い付かないよ。

 でもやっぱりこの子たちは、ログナドから来たのは確実。

 そうなるとまずは……。


「お名前を教えてくれる? 私はウルシュラ・バルトルって言うんだけど~」

「ふんふん? ウルシュラもログナドにゃ?」

「えっ」

「ログナドに連れて行ってくれるにゃ?」


 これはもしかして、一緒に行って欲しいという意味?

 ナビナなら今のやり取りで分かっててくれそうな……ちらりと彼女に目をやると、


「……うん。ウルシュラの思ってるとおり。その子たち、ログナドに渡りたがってる。でも、足りないって言ってる」

「足りない? 何が足りないの?」

「リーダー。この子たち、はぐれてるから。引っ張ってくれる人を探してる」

「リーダー……。この子たちってパーティーなの?」

「うん。迷子のネコたちだから」


 何だ、そうなんだ。だから私が頼られているんだね。

 そっかそっか~。

 それならまずは、この子たちのお名前を聞いてあげないと始まらないよね。


 私の気づきに、ナビナの表情も穏やかなものになってる。

 ナビナは私にはあまり笑顔を見せることが無かった。

 だけど何だか嬉しそうだし、ここで私が頑張れば……。


 ルカスさんに見せるような笑顔も見せてくれるかも。

 うん、頑張ろう。

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