第31話 エルフの退屈しない日々 2
【side:ナビナ】
ルカスと一緒に行かなかったのには理由があった。
あの人には言えない秘密をわたしは隠してる。だけど、まだ伝えたくない。
それでも、ここに連れて来てくれたウルシュラには伝えておかないと泣かれそう。
それに……さっきからあの爺さんから、ただならぬ気配。
きっと見抜かれているからだと思う。
「お前さん、エルフと言うが……」
気づかないうちに声をかけてくるし……。
「……何? 何か用?」
「この辺りにはエルフなんて見かけないんじゃが。お前さん、もしかして……」
「……あの子たちがいる所で教えたくない。外に行くからそこで……」
「む? わしの気付かぬ間にネコ族が迷い込んでおったか。ふむ……帝国支配が弱まったことでだいぶここに来とるんじゃな」
名ばかりの
あの男と違ってこの爺さんは強い。かなり長く生きてるはず。
あの二人の冒険者の強さを見ている限り、この大陸の冒険者はかなり弱い。
きっと今頃、ルカスとミディヌは苦労してる。
でもルカスには今のうちに学んで欲しいし、成長を望む。
そうじゃなければ意味が無い。そうじゃなければ――
「この辺りでいい」
ルカスに強くなってもらう為にも、この爺さんには大人しくしててもらう。
「ほぅ、その気配は……一戦交えるということでいいんじゃな? お前さん、正式の名は?」
「答える必要は無いから」
爺さんの実力なんて関係無い。
わたしがやれることをやるだけ。
「ほほぅ、お前さん……やはり――その目は魔眼のたぐいじゃな」
「……関係無い」
魔術師同士で戦うことには何の意味を持たない。
実力は明らかに爺さんの方が上だから。
そう思ったからこそ、一部だけでも解放しようと思っていた。
それなのに――
「あーー!! 何をやってるんですか~!? ナビナも、お爺さんも!! ケンカなんかしちゃ駄目です! お腹が減ってるからケンカを始めたのなら、今すぐ用意するから中に入ってください!!」
意外に鋭いのか、それとも天然の……。
まさかウルシュラに気づかれるなんて。
もしかしたら、戦いを嫌うウルシュラにはそういう察知能力があるのかも。
「うん、お腹減ってる」
「仕方が無いのぅ……お預けじゃな」
「……もうしない。あなたには気づかれた。違う?」
「魔の森に行かなかったのも、ルカスどのに気づかれるからじゃな?」
「わたしは魔の森に住んでたダークエルフ。ただそれだけ」
ルカスに気づかれたからって彼が変わるわけじゃない。
でも、魔の森に行けばわたしは彼の呪いをきっと深めてしまう。
ルカスにはそうさせたくない。
「ふむ。あのお嬢さんにはすでに伝える気持ちがあるんじゃな……?」
「うん」
「それならば、お嬢さんのそばで心を穏やかにする。それだけでもお前さんは変われるんじゃないかな?」
「……」
「いやいや、戯言として聞いてくれればいいんじゃよ。あとはルカスどのを染めていかないようにするだけじゃな」
知られたからにはウルシュラにも正直に言おう。
わたしが何者で、何が目的で近づいたのかを。
そしたらきっと、ウルシュラとはもっと近しい関係が築ける。
中に戻ると食事に夢中なネコたちと、爺さんののんきそうな光景があった。
ウルシュラはいつも忙しそうにしているけど楽しそう。
「ウルシュラ、お話、いい?」
「ん~? どうしたの?」
「
「ナビナが自分のことを『わたし』~! すごいすごい~!!」
本当に、どうしてウルシュラはこんなにも前向きになれるんだろう。
彼女にはやっぱり教えてあげたい。
「ウルシュラ。あのね、わたしは――」
「うんうん、分かってるよ~!」
「……え」
やっぱりウルシュラって、本当はすごい?
「ナビナは悪い子じゃない~! その目で私をどうにかするつもりなら、最初からそうしたでしょう? だからいい子いい子! それに私も伝えてないことがあるから」
「……子ども扱いしなくていいから。すぐにウルシュラなんて、追い越すから」
「えええ~? ナビナに越されたら私がなでなでされるの!?」
どうして嬉しそうにしてるの……。
「わたし、本当は……魔の森のダークエルフで――」
「どこのエルフでも大丈夫! 私はナビナが何者でも大好きだからね~!」
「……うん」
ルカスが戻って来たら、ルカスにももっとわたしを教えたい。
彼と一緒に成長していく為に……。
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