第13話 修復の力、覚醒

 俺はミディヌのことを怖がるウルシュラを、何とか落ち着かせる。

 落ち着かせたまま、ミディヌの腕を見てもらった。


 すると、


「……これは――! ふむふむ、ほうほうほう……、なるほど~!」


 さっきまで怯えていた同一人物とは思えないな。

 ウルシュラは楽しそうな表情に変わり、ミディヌは嫌そうな顔をしたままだ。


「ウルシュラ。何か分かった?」


 彼女のスキルは聞いただけではまだ不明。

 単純な支援職じゃないことはコボルトへの調理で分かった。

 だが、それ以外はまだ分からないままだ。


「はい! ミディヌさんの両腕の武器は私のスキルで直せると思います!」

「本当か、姉ちゃん! 弱そうなのにやるじゃねえか!」

「ひぃっ」


 ウルシュラは園芸師。スキルは園芸師が持つ特性スキルだと思われる。

 冒険者パーティーにいた頃、ウルシュラは魔道具や武器を作っていた。

 作るだけではなく、直すことも得意ということになるが。


「そういうわけですので、ルカスさん」

「うん?」


 意を決したような凛々しい表情。

 普段は見ることの無いウルシュラの"本気"が、間近で見れるのだろうか。


「ルカスさんのお力も必要です! 私が二本の剣を直すので、その間、ミディヌさんの両腕を治癒し続けてください」

「ミディヌの両腕だけを?」

「あぁん? あたしの腕は剣と同一だ。それをどうするって?」


 本来なら冴眼の力だけでどちらも治すことが出来た。

 しかしナビナは、まだそこまでじゃないとも言っていた。

 冴眼の力に"覚えさせる"には、別の力が必要とも……。


「剣と腕はミディヌにとって表裏一体なんです。腕だけなら平気でも、武器を直そうとすると腕の方は抵抗をするんです。私は怪我そのものは治せませんが、武器となる部分だけは直せるので……ええと~」


 腕だけ治癒しても武器を直さないと完全回復にはならない。

 しかし武器を直そうとすると、肉体の腕は抵抗を始める。

 厄介な性質なのは間違いない。


「切り離せないものとはそういうもの……ルカスはウルシュラのしたことを、冴眼で見る必要がある」


 ナビナが言ってるのは、ウルシュラの専門的な力を見て覚えろってことだな。


「あっ……と、いけない。お店を閉めておくわね!」


 これから起こることを察したのか、アーテルは急いで店の出入口を閉じている。

 その合間に、ウルシュラは店内の道具をあちこち引っ張り出して準備を始めた。

 

「ルカス。治癒しながら覚えるだけでも疲れる。だから、覚えたらたくさん寝た方がいい」

「見てるだけなのに?」

「うん。きっと疲れる」


 魔力を使って治癒する時は力の加減が分かる。しかし冴眼にはそれが無い。

 ナビナが言う力をまだ使いこなせていないところは、その部分のはず。

 

 その始まりがミディヌの腕治しだとすれば、感覚的にやるしかない。

 

「ルカスさん、近くにお願いしますね~!」

「あ、うん」

「……ルカスはいいけど、そっちの姉ちゃんは大丈夫なのかぁ?」

「大丈夫です!!」


 ミディヌの茶化しも気にしなくなっているな。


「それでは私は二本の剣の修復に入ります。ルカスさんは傷口を広げないように、彼女の腕を治癒し続けてください」

「分かった」


 ――なるほど。

 ウルシュラの動きを見つつ、治癒を使うのか。確かに疲れそうだな。


 正直、ウルシュラの手の動きを見るだけでは、何が起こっているのか不明だ。

 だが武器修復スキルという治癒に似た力の光が、彼女の手元から放たれているのだけは見える。

 

 肝心の俺の動きは特にない。

 しているのは冴眼を輝かせながら、ウルシュラの動きとミディヌの腕を交互に見つめるだけ。


「へぇ……姉ちゃんは鍛冶師スキルもあるんだな」

「大体のことは出来るんですよ~! もう少しの辛抱ですよ~」


 ウルシュラは職人スキルを複合で持っているってことか。

 それはそうと……。


「…………」

「ルカス、疲れた?」

「目で見ているだけなのに、物凄く体が重い……」

「それでいい……次に目覚めた時、冴眼は覚醒を果たす。でも、まだ足りない。ルカスが持つ魔力も同時に使うようじゃないと駄目」


 ナビナの目も、何らかの宝石が含まれている。

 俺の冴眼とは違う力のようだが……。何にしても体がだるい。


「ルカスの目はすげぇな! そいつを見てるだけで力が溢れて来るぜ!」

「はは……それはよかった」




 ――数時間が経った。

 しばらくして、ウルシュラの満足そうな声が上がる。


「やりましたっ!! ミディヌの武器腕を完全に回復させることが出来ました~!」

「よく分からねえけど、ウルシュラの姉ちゃん、あんたすげえな! あたしのことをミディヌって呼んでるのを許してやるよ!」

「ひえっ」


 ミディヌの腕を治癒し続け、ウルシュラのスキルを覚える……それだけでかなり消耗した。

 そのせいで俺の眠気は限界だった。


「あらあら、それじゃあミディヌには真新しいローブを着させないとね」

「私も手伝いますよ! ルカスさんにはひとまず向こうを向いててもら――えぇっ!?」


 ウルシュラの声だけがやたらはっきり聞こえる中、俺は雑貨屋の床に横になっていた。


「ウルシュラ、静かにして。ルカスは疲れてる。ベッドに運んで寝かせてあげたい」

「ルカスさん、寝不足だったんですかね?」

「……きっと違う」

「それならあたしが運ぶさ!」


 まどろみの中、力強い腕に抱かれて俺は部屋のベッドに寝かされた。

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