第24話 強さの品定め

 翡翠の腕ジャッドアームか。

 別の冒険者パーティーと会う始まりの日になりそうだ。

 それもラトアーニ大陸で。


 任務の時に冒険者を見たことがあっても、関わることが無かったから仕方ないけど。


「あんたのことはファルハン……でいいかな?」

「おう! おれもマスターって呼ばせてもらうぜ!」


 マスター……。

 まだメンバーが少ないうちに呼ばれることに慣れておこう。


「それで、ここのことは誰から?」


 俺がそう言うと、ファルハンはカウンター付近の爺さんを顎で指し示す。

 

「そこにいる爺さんだ。って言っても、ここに来る前に宮廷魔術師と戦ってるところを通りがかっただけで、知り合いじゃねえけどな!」

「なるほど」

「――で、爺さんと双剣の姉ちゃんから、教会がクランだってのを聞いてここに来たわけだ! メンバーになる条件があったりするのかを聞きてえ」


 クラン入りの条件か。

 そもそも冒険者パーティーが集まらないと始まりもしないし、条件はつけようがないような。


 何となくウルシュラを見てみる。

 すると、お任せ下さいといった自信ありげな顔で、俺の横に来てくれた。


「どうも、こんにちは! 私、ウルシュラ・バルトルって言います。クラン『レグリース』へ、ようこそおいでくださいました~! 条件は冒険者であることです!」


 ウルシュラの登場にファルハンが目を丸くして見ている。無理も無いか。

 もしギルドのままだとしても、ウルシュラならこんなあいさつをするんだろうし。

 

「ん、あぁ、まぁな。あんた、サブリーダーか?」

「そうなんですよ! ここにいるルカスさんのえーと……仲間でして! よろしくお願いしますね~」

「……」


 大丈夫かよ? と言いたげだな。

 爺さん以外だと、残るメンバーはナビナとミディヌだけ。思うところはありそうだな。

 

「ともかく、おれらがここに来たのはクランに加えてもらうってだけの話じゃなくて、一緒に行ってもらいたい所があるってのが本音なんだが、聞いてもらってもいいか?」


 むしろそっちが狙いか。


「もちろん聞くよ」


 ファルハンは悪い奴では無さそうだ。しかし彼の横にいる女性からの視線が妙に気になる。

 俺にしてもナビナにしても、不審に思っている感じだ。

 そう思っていると、


「あ~まぁ、大したことじゃねえんだけどよ……話ってのは――」

「コレに変わって言いますわ! 端的に言えば、クランマスターとその他のメンバーの実力を知りたいということですわね! それを知るのにわたくしたちの面倒事がありますので、そこで見極めさせてもらうだけですわ」


 不審がっていた視線の正体はこれか。

 見た感じファルハンは腕に覚えあり、イーシャは……まだ分からないとして。


「見極め? つまり、クランメンバーに加わるにしても、信用に足るかを見たいってことかな?」


 冒険者パーティー同士でも揉めることがある。

 そう考えれば、はっきりさせたいというのは間違いじゃない。


「そう取って頂いて構いませんわね。元とはいえ、宮廷魔術師がどこまでやれるのかを見たいものですわ!」

「お、おい、イーシャ! 言い過ぎだ」

「しかし大事なことではなくて?」

「……と、とにかく、マスターの強さだけでも知りてえ。無理言って悪ぃが、いいか?」


 ああ、そうか。宮廷魔術師だったことも聞いての話か。

 そういうことなら見てもらうしか無い。


「それで構わないよ。それで、面倒事というのは?」


 二人は顔を見合わせ言いづらそうにしている。

 魔物退治か、あるいは帝国絡みか?


「いや~すまんすまん。ここが元聖堂だったことに夢中になってしまってな。話は済んだかの?」


 そんな二人に代わって、爺さんが割って入ってきた。


「いえ、まだ聞いてませんよ」

「ふむ。面倒事というのは他でも無い、宮廷魔術師がちょっとだけ関係してましてな……」


 何だ、やはりそうか。

 俺が元宮廷魔術師だったことも漏らしたし、急に黙るのはそういうことだった。


「ちょっとだけ? 揉め事でも?」

「いやいや、ガレオスに荒れた宮廷魔術師が押し掛けてきたのは聞いておりますかな?」

「ええ、まぁ」


 帝国に関わりたくないガレオスが、かなりぴりぴりしてたからな。

 冒険者パーティーも肩身が狭かったかもしれない。


「ガレオス近くには森がありましてな、そこで二人は隠れてやり過ごそうとしていただけなのじゃが……」

「森に何か落とし物でも?」

「さて、それはわしから聞くよりも……」


 言いづらいことだけを代弁した感じか。

 当事者じゃない爺さんに聞けるのはこれくらいだな。


「わ、悪ぃな爺さん。ここからはおれが話す」

「なに、構わぬよ」


 世話焼き爺さんってところか。相変わらず素性は不明だけど。


「マスターが元宮廷魔術師ってだけでマスターが悪いわけじゃねえのに、すまねえ」

「いいよ」

「実は、ガレオス近くにある魔の森に面倒なもんを置いて来ちまったんだ」


 魔の森。あそこも魔物が多かったな。

 二人の実力は分からないが、奥の方に行くほど厄介な魔物に遭遇する。

 おそらく奥の方に行く話だな。

 

「それを拾いに行きたい……と?」

「悪ぃが、そういうことだ。それがねえとイーシャが苦労することに……」


 イーシャが手持ち無沙汰にしてるのは、そういう意味のようだ。

 何も手にしていないし、魔道具か何かを使って戦うタイプだろうか?

 とにかくそれくらいなら問題無い。ついでに見極めでもされておこう。


「わ、わたくしからもお願いしますわ」

「分かった。一緒に行こう!」


 しばらくは宮廷魔術師や帝国のことが関係してくるのは仕方ない、か。

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