第23話 訪問者

 帝国を訪れる旅人はぽつぽついる。

 とはいえ、みな一様に驚きの表情を浮かべながら通り過ぎて行く。


 宮廷魔術師たちを間近で見る機会。

 それは、旅人であっても中々訪れるものじゃないからだ。

 

 それなのに、目の前には弱り座り込む姿や、横になる姿をさらけ出している。

 あまり良くない光景に対し、どういう感情をいだけばいいのか分からない……。

 といったところだろう。


 しかしウルシュラの手当ての甲斐もあって、近くに見えていた宮廷魔術師の姿はすでにない。


「へえぇ、ミディヌと爺さんがほとんどを相手に?」

「そうなんですよ~! とにかく派手で、ドーン! とかバーンとか、それはもうすごくてですね」

「……うん。分かるよ。その最中にウルシュラは何を?」

「宮廷魔術師さんたちの手当てをしてました!」


 辺境ロッホ周辺。その辺りでミディヌと爺さんがまだ戦っているらしい。

 それでもウルシュラの話を聞く限り、特に苦戦することなく済んでいると思われる。


「ルカス、ウルシュラ。このままロッホに行く?」


 ロッホか。ミディヌたちが周辺にいるなら行くしかない。

 帝都に戻る気も無いしやり残しも皆無。そうなるとまずはあの教会に行く流れになる。


「行くよ。ロッホに向かって歩いているからね」

「もちろん行きますよ。だってあそこが私たちの始まりなんですからね~! ナビナもそうでしょ?」

「んーん、特には」

「ええええ~?」


 やり取りだけ見てればのんびりしてて微笑ましい。

 しかしナビナについては、はっきり分からないことばかり。いずれ明らかになるとしても。


「ルカスの冴眼とルカスが最強になったらでいい?」

「あっ……うん」


 さすがに考えてることまで見えてないと信じたいけど。


「大丈夫。ナビナはもう使。ルカスにだけ与える」


 そう言われると何も言えなくなる。

 とりあえず何者でも気にしないことにしよう。


「ルカスさん、見えてきましたよ! 何だか久しぶりですね~」


 ウルシュラが指し示す方向には、ロッホの町が見えている。

 そしてそこにいるとされるミディヌたちや、宮廷魔術師の姿は確認出来ない。


「あれ? 周辺で戦ってるんじゃなかったっけ?」

「そのはずですよ。なんにもいませんね……どこに行っちゃったんでしょう?」


 ロッホ周辺での戦闘。

 普通に考えれば、何も外だけ戦闘しているとは限らない。


 その意味として言えるのは、ロッホに暮らす住人が少ないことが関係しているからだ。

 だが町の中で戦闘が続いている……。

 そうだとすれば、農地や住居、そして教会に被害が及んでいてもおかしくない。

 

「ルカス、町に入ろう?」


 ウルシュラと俺とで辺りを見回す中、ナビナが俺の手を引く。

 

「もしかしなくても、何が起きてるか見えてる?」

「違う。ここにいても何も起きないから」

「あぁ、そういう意味か。それもそうだね」


 ただでさえ人の少ない町だ。

 素直に町に入るのが正しい行動だといえる。


「ウルシュラ! 誰かがいるでもないし、ロッホに入ろう」

「そうですよね! そうしますか」


 町に入ると、やけに通行する人の数が多い感じを受ける。

 まだ昼間だからか?


 もちろん、町自体が大きく変わったとかじゃない。

 これはもしかすれば――


「きっといると思う」


 ナビナの言葉の意味は聞かなくても分かる。

 誰に知らせていたでもないが、おそらくそこに。


 教会に向かって歩き進むと、俺たちよりも先に向こうが気づいた。

 

「遅かったじゃねえか、ルカス! あたしを待たせるなんていい度胸だな」


 教会の前に立っていたのは、ミディヌだけだった。

 協力者の爺さんの姿はどこにもない。


「ミディヌ。協力者の爺さんは?」

「爺なら中にいるぜ! ウルシュラから聞いてたとおりの中だな」

「ウルシュラ? ミディヌにはすでに?」


 俺とウルシュラとで別に行動していたし、世間話くらいはしてるか。


 ウルシュラをちらりと見る。

 すると慌てたように身を乗り出して、笑顔を見せてきた。


「そうでしたそうでした! ミディヌは仲間? じゃないですか~。でもお爺さんは協力者ということでしたので、レグリースのことを話しまして!」

「何でそこで首を傾げるんだよ! あたしはもう仲間だよな? なぁルカス?」


 返事をするまでもなく、俺は大きく頷いてみせた。

 その様子に、ミディヌは腕組みをしてのけ反っている。


「……ともかく、中に何人かの協力者がいるってことで合ってる?」

「協力者じゃねえけど、そんなもんだ」

「さささ、ルカスさんどうぞどうぞ! ナビナも遠慮しないで」

「……するわけない」


 何を今さらなと言わんばかりに、教会の扉を開けた。

 中に入ってすぐ、俺の姿を見た冒険者らしき二人が近寄って来る。


 爺さんは部屋の隅々を見ているようで、特に寄っても来ない。

 とりあえず、


「俺は魔術師ルカス・アルムグレーン。そっちは?」


 先に名乗っておいた。

 すると、


「悪ぃ、先に名乗るのが筋だったな? おれは翡翠の腕ジャッドアームのファルハン・コールだ。そしてコイツが――」

「お初にお目にかかりますわ。隣のコレのパートナー、イーシャ・ニガム。以後お見知りおきを」

「……で、あんたがここのクランリーダーってことで違いねえよな?」


 クランリーダー。この場合だと俺でいいのだろうか?

 ウルシュラはギルドマスターは譲れないとか言ってたし、クランリーダーは俺ということにしよう。


「ああ、間違いない」

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