第44話 危機の予感
「じゃあ、使うよ……?」
俺の言葉にナビナが静かに頷く。
「ふぁいと~ふぁいと~、ルカスさん~!!」
「ますたぁ~がんばれみゃ~!」
ウルシュラは両手拳を作って、彼女らしい応援を送ってくる。
便乗してミルも応援してくれているが……。
「何だい? ルカスのあの光った目でどうするつもりだい?」
「マスターの冴眼でわたくしたちはこれから、クランのあるロッホに飛ぶのですわ。マスターのお力を間近で見た戦士の皆さまも特別に転移出来るので、お静かにしてくださります?」
殲滅の力を見たにもかかわらず、アルシノエや他の戦士たちは転移することに半信半疑のようだ。
ここにいるメンバーには、特に一か所に集まらなくてもいいと伝えてある。
とはいえ、果たして上手く行くかどうかはやってみないと分からない。
「……うん。ロッホには行ける。ルカス、飛んで」
どうやらナビナは確信を得たようだ。
ナビナの頷きを見ながら、俺は冴眼で転移の力を解き放った。
「わぷぷぷぷ……」
「濡れたみゃ~」
「まさかこんな所で濡れるなんて……」
「……ん、やっぱり着いた。でも初めはこんなもん」
解放した力を使った直後、ソニド洞門前にいた俺たちは瞬時に転移。
場面がすぐに変わり、ロッホのどこかに移動したことだけは間違いないようだった。
「――だぁぁっ!! ルカス、あんたの目の力ってのは完璧じゃあないってことかい?」
「ぺっぺっ……、口ん中が土だらけなんすが……」
「くっ、泥が鎧についてらぁ……」
などと、それぞれで着いた場所が見事に分かれた。
ウルシュラたちは水路の中、アルシノエと戦士たちは畑の中に埋まっていた。
ナビナだけ上手いこと濡れずに済んでいるが、ウルシュラは水に顔を沈めた状態になっている。
「い、いやぁ~初めて使ったにしては無事に転移出来たかなぁと」
汚れずにロッホにたどり着いたのは、俺とナビナだけだった。
そのせいかアルシノエはもちろん、ウルシュラもプンプンと怒りまくっている。
着いた場所はロッホの農地面。
普段町で見かけない住人が数多く農作業している場所だ。
町で見かけないのに、まさか邪魔する形で出会うとは。
「す、すみませんでしたー!!」
アルシノエたちは悪くないが、みんなで一緒に頭を下げて謝ってもらうしかなかった。
「しっかし、こういうドジを踏むのを見てると、とてもあの殲滅の力を出したとは思えないね」
「それはまぁ、何というか……すみません」
「こういうところがいいのかい? ウルシュラ」
「えっ!? そ、その、それはですね……多分そうなんじゃないかなあと」
どうやらアルシノエは、妹のウルシュラが俺に惚れているという前提で話を進めているようだ。
ウルシュラも否定出来ない性格なせいか、どっちとも言えない返事をしている。
「マスターさま。レグリースに戻られたらどうされますか?」
レグリースには留守を任せたミディヌとファルハン。それにネコたちがいる。
元々教会だったから今すぐ手狭になるでも無いが、このままロッホに留まるかどうかを考えると……。
「そういえばイーシャたちは二人パーティーだよね?」
「ええ、一応」
「ソニド洞門も開通したし、旅に出る考えはあるのかな?」
「そうですわね……ですが、こうしてマスターさまのお仲間に加わりましたので、わたくしとしてもクランの為に何か出来ればいいと思っておりますわ」
イーシャたちはクランに入った感じがあるけど、ネコたちはおそらくソニド洞門を抜けたかったはず。
そうなるとクランの今後を話し合う必要があるかもしれないな。
「ルカス~! レグリースが見えてきたみゃ! ミル、先に行くみゃ~」
「わ、私も様子を見て来ますね! ルカスさんたちはゆっくり来てくださ~い」
「うん、よろしく~!」
ロッホの外れに位置する教会のクラン、レグリース。
農地から歩いてそれなりの距離がある。
ひっそりと佇む教会が遠目からでも見えてきたところで、ウルシュラとミルが嬉しそうに駆けて行く。
ミルは仲間のネコたちに会いたかっただろうな。
ウルシュラは教会の中のことが気になって仕方が無いといった感じか。
「…………ルカス」
「うん? どうしたの、ナビナ?」
「レグリースに何かがあった感じがする」
「え?」
まさかと思うが、宮廷魔術師が襲って来た?
「どうした、ルカス? ウルシュラが走って行ったのがあんたの言うクランってところだろ? 何かあった顔してるけど、大丈夫なのかい?」
留守にして数日経っているけど、まさかだよな……。
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