第45話 クランの移転? 前編

「ルカスさん……私のせいでご迷惑を~……グスン」


 レグリースに先に向かったウルシュラが泣いている。

 留守をしていたミディヌとファルハン、ネコたちは何とも言えない表情のまま言葉を発さない。


「……ミディヌ。ここで何が?」

「変な冒険者パーティーが来て、少しだけ荒らしていった」

「少しだけ……って――」


 見ると、入口近くに置かれていた椅子や机がひっくり返っている。

 カウンターを含め、奥の方は特に何もされていないようだ。


「ウルシュラが泣いてるのは……?」

「さぁね。あたしよりも、そこの暇そうな男に聞けばいいんじゃねえの?」


 ミディヌはウルシュラのことを気にしている……。

 というより、自分が何もしなかったことを悔やんでいる感じか。


 ミディヌが言う暇そうな彼を見てみると、


「ファルハン! あなたがいながら何をしていたというの?」

「うるせーよ。何もしなかったんじゃねえ。ここを荒らされたくなかっただけだ!」

「何もしてないのと同じだわ」


 イーシャがファルハンに説教を始めていた。

 俺が彼に話を聞くと、


「マスター、すまねえ。なるべくここで暴れさせたくねえと思って、おれは何もしなかった」

「怪我も何も無くて良かったよ。それより、その冒険者パーティーに何か変わったことは?」

「よく分からねえけど、聖女がウルシュラさんを探してる……とか」

「聖女が?」


 妙な話だ。

 いくら俺と行動をともにしているとはいえ、ウルシュラは聖女と面識が無い。


 話づてにウルシュラのスキルを聞いたからと言って、エルセがそんなことを言うとは思えないな。

 聖女という後ろ盾を利用してウルシュラをおびき寄せようとしている……。

 そんな感じにしか思えないが。


「ミューちゃん。キミたちは大丈夫だった?」

「大丈夫ニャ。ミューたち、ここで遊んでいただけなのニャ。でもあの人間たちからは嫌な感じしかしなかったニャ」

「そっか」


 ネコたちの精神状態はそれほど悪くない。

 そうなるとまずは、ウルシュラを落ち着かせてやらないと。


「ウルシュラ。君のせいっていうのはどういう意味? ここを襲ったのはもしかして?」


 ウルシュラを追い出しておいて、前のパーティーがなぜまた彼女を探しに来たのか。しかもここを突き止めるなんて。それほど優れた者がいるようには思えないのに。


「……はい、おそらくあの人たちが私を探しに来たんだと思いますです。追い出されて自主的にパーティーを抜けたけど、魔道具を求めに来たとかお金を稼ぎたいとかそんなことなのかなと……」

「いや、どうだろうな」


 聖女はともかく、帝国の人間が絡んでいるのは間違いない。

 キーリジアでの話に出てきたのが何よりで、その冒険者パーティーが帝国と接触していた。

 その話で"聖女"が絡んでいるだけのことに過ぎない。


「ルカスさん~……ここがバレちゃってどうしましょう~……」

「うん……」


 ロッホにクランを置いている……それだけでもリスクがあるのは承知していた。

 元々ここはウルシュラが冒険者ギルドを作ろうとしていた場所だ。

 俺が彼女を巻き込んだだけのことで、ウルシュラが悪いわけじゃない。


 賢者とのことが終わって、ここを拠点にして各地の冒険者パーティーから成るクランにしていく。

 そうやって着々と集めつつあっただけに、まさかここにきての襲撃だなんてあんまりだ。


「ルカス。移転は駄目?」

「え? レグリースを?」

「うん。ロッホは帝国に近すぎるから、ここにクランがある限りきっと大変」


 ナビナが言うように、仮に帝国と離れていれば気にすることは無いと思っていた。

 しかしここは近すぎる。

 帝国が静かでも聖女が勝手に動いているとなれば、面倒事は避けられない。


「ウルシュラはどうしたい?」

「えぇ? 移転……えーと、私よりもルカスさんさえ良ければ~……」


 マスターは俺だけど、ここを大事にして来たのはウルシュラだしどうしたものだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る