第46話 クランの移転? 前編

「何だい何だい、さっきから何をもたもたしてんだい? しかもウルシュラが泣いてるじゃないか! まさかルカス……お前がウルシュラを泣かせたのかい?」

「ええ? い、いや、俺じゃないですよ」

「じゃあ何でお前を見ながら泣いてんだい!!」

「アルシノエ姉さま、違うんですよ~! ルカスさんには色々と親身になって頂いてまして~」


 俺たちの様子を黙って眺めていたかと思いきや、アルシノエが今頃中に入って来た。

 遠目から見れば泣かせているように見えたかもだけど、またややこしくなるしどうしたものか。

 ウルシュラも慌ててアルシノエをなだめている。


 このままだとまとまりがつかなくなりそうだな……。

 

「ルカス。少し屈んで耳を近付けて」


 そう思ってたら、ナビナが俺に耳打ちをしてきた。

 何かいい案でも浮かんだかな?


「――? えっ? 冴眼を使って? そんなことまで出来るの?」

「ルカスの力なら出来るはず。何度もあの場所に行ってるなら、思い浮かべるのは簡単。人間を転移する要領でやるだけ。その気になるだけでいいから」

「その気に……って」

「そうすれば、ウルシュラの姉も静かになる。ナビナ、教会の扉を閉めて来るから合図したらやって!」


 やることは確定なのか。成功すれば誰もが度肝を抜かれるだろうけど。


「マスター? 何かをされるおつもりです?」

「ウルシュラさんと彼女のあねさんとで揉めてるみたいだが、大丈夫なのか?」

「あぁ、うん。ファルハンとイーシャは、そのままこの場に留まっててくれるかな?」

「え、ええ。それは構いませんけれど」

「あん? どこかに転移でもすんのか?」


 この二人ならうるさく追求して来ないからいいとして。

 他の彼女たちには後で説明するか。


 ナビナが扉を固く閉ざし、俺に合図を送ってきた。

 この中には、アルシノエの他について来た戦士たちの姿もある。

 ネコたちは隅の方でまとまって大人しくしているから、そのままにしとくとして。


 こうなれば、ナビナに言われた通りにやるしかない。

 何度も訪れたあの場所――セルド村を頭に浮かべ……そして、

 アーテルの雑貨屋の隣に行くようなイメージを脳裏に焼き付ける。


「ルカス……ルカスのその目って、そんなに光ってたか?」

「…………」


 ミディヌの声が聞こえていたが、俺の意識はすでにあの場所にあった。

 その直後、俺は目を閉じる。そしてすぐに目を大きく見開き、


「よし――」


 ナビナから囁かれた時は非常識かつ、突拍子のないことだと思った。

 だが、俺の瞳に映し出された鮮明な景色がすぐに浮かび上がり、そして。


 建物ごと、どこかに移動したような感覚を覚えた。

 力を使った反動なのか、俺は少しだけふらついてその場に座り込む。

 

「……うん、大丈夫。成功。ルカス、少しだけ寝てていい」

「……」


 ナビナの言葉に甘えるようにしてもたれかかり、俺は眠ってしまった。


「――ふぅ~。ったく、このまま中にいても埒が明かないね。ウルシュラ、あんたも外に出て気分を落ち着かせな!」

「はい、姉さま」

「な、何だい!? どこだい、ここは!? 周り中オークだらけじゃないか!!」

「えっ?」

「ちいっ! お前たち、剣を抜きな!! オークどもを一掃するよっ!」

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