第47話 再出発のセルド村

 何やら騒がしい。

 うっかり眠ってしまったけど、建物ごと無事に転移出来ただろうか。


「アルシノエ姉さま、剣を収めて動かないでください~!!」

「ええい、離せ! お前は戦えないんだから、あたしの後ろに下がっていな!」

「違うんです、そのオークたちは違うんですよ~!!」


 興奮気味のアルシノエをウルシュラが止めてるような?


「は、早くわたくしたちも止めないと!」

「おいおい、マスターに黙ってオークと戦っていいのかよ?」

「違いますわ! 止めるのはアルシノエさまのほうですわ!」

「ウルシュラさんのあねさんを?」


 そうかと思えばイーシャたちも慌てている。

 何が起きているのか、とにかく目を覚まさないと。


「ルカス~起きてニャ~起きてニャ~!!」

「大変みゃ! オークが襲って来そうだみゃ!!」


 ミュスカとミルが俺を一所懸命起こしている。


「んん?」

「ルカス。起きて。ルカスが顔を見せないと、大変なことになる。わたし、アーテルを呼んで来る」

「……アーテル?」


 あぁ、そっか。アーテルの雑貨屋のところに来られたんだ。

 

「ルカス! さっさと起きやがれ! 早くしないとあの大女どもがいらない敵を作ることになるぜ?」

「むむっ!? え? あっ……ミディヌか。大女……アルシノエが何だって?」

「ルカスが顔を見せればオークどもも退くはずだ。とっとと起き上がれ!」

「オーク?」


 何だかよく分からないけど、ミディヌもイライラしているし言うとおりにしないと。

 そう思いながら扉のところに近づくと、


「ちょ、ちょっと! オークたちと何を!?」


 オークとアルシノエたちが今にも戦闘を始めそうだ。


「おぅ、やっと起きやがったか。ルカス、お前も参加しな! 目の前のオークどもを一掃すんぞ!」

「ああぁ、ルカスさん~! アルシノエ姉さまを止めてください~! ここのオークたちは敵じゃないじゃないですか~」


 敵じゃないオークたち……ということは、ここはセルド村?

 ナビナは成功したとか言ってたけど、建物ごと転移してきた場所はオークたちの集落なのか。

 てっきりアーテルの雑貨屋の隣に移動したと思っていたのに。


「あらあらあら、何てことなのかしら! ルカスさん、どうしてあなたたちがここへ? それにこの見慣れない建物……これがウルシュラが話していた教会?」


 そう思っていると、オークたちの群れをかき分けてアーテルが飛び込んで来た。

 どうやらナビナが呼んで来たみたいだ。




「――で? ルカス。あたしらごとオークの集落に連れて来た理由は何だ?」


 アーテルが仲裁に入ったことで、オークはすぐに撤収。

 興奮状態だったアルシノエたちもようやく落ち着き、アーテルもすぐに戻ってしまった。


 ミュスカたちやイーシャたちも目を丸くしていたが、俺は冴眼の力を使ってクランごと転移させたことを説明した。


「理由は……あのままロッホに留まっていれば、いずれまた帝国の連中が顔を見せて来る。その度にウルシュラが悲しむことになるのは避けたい。それなら教会の建物ごと転移させれば……思ってたらここに」


 まぁ、当初の予定とだいぶずれてしまったけど……。


「驚きだぜ、まさか建物ごと転移……いや、移転させるとは」

「マスターのそのお力には、わたくしたちも屈する以外にありませんわね」

「い、いや、まさかオークの集落に来るなんて思わなくて……」


 空いてる土地が無かったせいもあるかもしれないとはいえ。

 まさかオークの集落の中央なんて目立ちすぎだ。


「ルカスさん……。私の為にありがとうございますです……!」

「あ、うん」


 ウルシュラの俺を見る目が、以前よりもさらに輝いている。

 もしかしてこの行動で、ウルシュラを完全に惚れさせてしまったんだろうか。


「ちぃっ、妹の為にしたことなら何も言えねえな。それで、この先どうするつもりだい?」

「え、えーと……」

「あたしはともかく、うちの野郎どもは血の気が多い。ましてオークの集落のど真ん中にいればな。あんたからしっかり説明してくんな!」

「もちろんしますよ」


 名前も聞いていない戦士たちも巻き込んでしまった。

 すでにクランメンバーの彼女たちは、俺がしたことを受け入れている。

 しかしキーリジアの戦士たちにはきちんと説明をして説得しないと。


 そう思って戦士の彼らに近づこうとすると、

 

「ルカス。アーテルが呼んでる」


 その前にナビナに止められた。

 仕方が無いとはいえ、またアーテルに怒られてしまうのか。


「分かった。雑貨屋に行けばいいんだね?」

「うん」


 オークの集落であるセルド村。

 それ自体は危険が無いということで、雑貨屋には俺とナビナだけ向かった。

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