第15話 勢炎のミディヌ
準備を整えた俺たちは、まだ辺りが暗い中、アーテルの雑貨屋を出た。
ここからの道はサゾン高地を目指しつつ、その手前にあるラザンジに進むだけになる。
周りには当然灯りは無く、暗くて何も見えない。
――のだが、冴眼でなくても光を灯す魔法くらいは簡単に使える。
「さすがルカスは魔術師なんだな! 惚れちまいそうだぜ」
「その魔法自体、大したことないよ」
「あたしみたいに小さき者ってのは、光があるだけで自在に動けるもんなんだぜ!」
ウルシュラも、何故か負けじと魔道具で
「どうです? 私の魔道具もお役に立てるでしょう~?」
魔力が込められた鉱石を使い、松明の灯りとしている。
そのおかげでかなり明るい。
しかし、
「ウルシュラの魔道具、ルカスの魔力使ってる。だからほとんどルカスのおかげ」
ナビナの言うように、ウルシュラが使う魔道具への魔力は俺が注いであげた。
ウルシュラの職人的スキルは豊富だ。だが魔力は全く無いらしい。
作るスキルはかなり秀でているが、自分に魔力が無いのが悔しいのだとか。
「むぅ~! ナビナはすっかりルカスさんの味方じゃないですか!」
「味方じゃなくて正論」
「ぬぬぬぬ……」
――と、基本的に戦闘参加の無い二人を見守りながら、
「ルカスは左右の奴! あたしは前方の奴をやるよ!」
「そうするよ」
暗闇が広がるけもの道。ここを通るだけでも闇に紛れて襲って来る魔物は後を絶たない。
夜は魔物の力が増す。とはいえ、大した魔物ではなく火の魔法を放つだけで逃げていく。
一方、ミディヌが正面で刃を向けている魔物はウルフ族数匹。
光を反射させ目を光らせてはいるが、魔物のはっきりとした位置までは掴めていないはずだ。
それなのに、ミディヌが備えている二本の剣は正確に命中させ、傷を負わせている。
聞こえて来る悲鳴はウルフ族だけだ。
「……すごいな」
魔術師の場合、経験による動きがほとんどだ。
だがミディヌの動きは、戦い慣れた実戦感覚が研ぎ澄まされているように思える。
「あたしの何がすごいって?」
「動きそのものが。攻撃的な戦いを知ってる感じがするというか……」
一人くらいは攻撃的な冒険者を入れておくべき。
そんなことをアーテルに言われていたが、ミディヌが加わったのは運がいいと言える。
「それを言うなら、魔法をぶっ放せる魔術師の方がおそろしいけどな! ログナドには魔術師が少なかったってのもあるけど」
ミディヌやウルシュラがいたログナド大陸。
そこは、近接攻撃が得意な冒険者や遠隔攻撃を主とする冒険者が多いのだろうか。
クランメンバーを増やすにしても、楽しみが増えるというものだけど。
「……ルカス。ラザンジの中にちょっとでかいのがいる。あたしはそいつの背後から。あんたは足止めするだけでいい。合図をしたら周りを巻き込んで燃やし尽くせ!」
ここでは冴眼の出番が無い。というより、ミディヌの動きが秀逸過ぎる。
俺が動くよりも先に的確に出る指示。それをくれるだけで進むに苦労は無い。
ナビナとウルシュラは後ろをついて来ているが、怖がっている様子はなさそうだ。
おそらく魔物が近くに来ていたことにすら気付いていないはず。
そういう動きをミディヌがしている。
「派手にぶっ放せ、ルカス!」
「任せてくれ」
戦いの主導がミディヌにあるが、急襲に慣れたミディヌに任せる方が最善。
目の前には旧ラザンジ村らしき柱の入口が見えている。
だが気にすることなく、俺は入口付近一帯にかけて炎の魔法を広範囲に展開した。
炎は瞬く間に草木に燃え広がり、周辺に集まっていた魔物が一斉に姿を消す。
「ルカス! リザードが近くにいる! あたしの近くに来てくれ!!」
ラザンジ村中央には小さな池がある。リザードが出て来たのは池の辺りに違いない。
ミディヌは聴覚に優れたリザードの背後に回り込む。
そのまま音を消して俺を待っている。
ここでの俺の動きは声による音を出し、こちらに気を引くことだ。
「ミディヌ! いいぞ、やれ!!」
俺の張り上げた声に気づいたリザードは、音を頼りに猛突進して来る。
その直後、背後にいたミディヌの二本の刃が交差斬りを繰り出す。
ものの見事にリザードの胴体を真っ二つに切り裂いていた。
この動きを見る限り、やはりミディヌは相当な強さを秘めている。
「ふふっ、どうよ? あたしの動きも捨てたもんじゃないだろ?」
「ミディヌのその動きは盗賊剣士?」
「……違うね、あたしは双剣士さ。惚れるだろ?」
なるほど。
園芸師といい、帝国が支配するラトアーニ大陸では知らないことばかりか。
「あぁ。惚れそうになるよ」
魔物の棲み処と聞いていた旧ラザンジ村。
しかしリザード以外大したことも無く、一帯にいた魔物はあっさり排除出来た。
あとは村の奥にある転移門が動くかどうかだ。
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